独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.112 検証! 標識の影響
―スパゲティ型タグはアカアマダイの巣穴作りの行動を阻害するのか?―  2007.07.20
宮津栽培漁業センター 町田 雅春
 これまでに宮津栽培漁業センターのアカアマダイの超音波発信機を利用した生態調査(2004.1.7記載)種苗生産での初期生残率の向上(2004.3.1記載)アカアマダイ親魚の選別によるウイルス性神経壊死症(VNN)垂直感染防除(2007.2.22記載)について,トピックスで紹介してきました。
 今回は,アカアマダイに装着したスパゲティ型タグ(図1)による巣穴形成行動への影響について紹介いたします。
 アカアマダイという魚はスズキ目アマダイ科アマダイ属の魚で,アカアマダイの他にシロアマダイ,キアマダイ,ハナアマダイ,スミツキアマダイの4種がいます。漁獲量ではアカアマダイがダントツ1位です。主に延縄漁,一本釣り,漕ぎ刺し網等で漁獲され,体色が赤く鮮やかなうえ白身で上品な味のため関西では珍重され,特に若狭で漁獲され一塩したものは「若狭グジ」と呼ばれ,京料理には欠かせない魚です。アカアマダイは日本海および太平洋の中部から東シナ海にかけて分布していますが,年々漁獲量は減少しています。そこで,新たな栽培漁業対象種として漁業者からの要望が高くなっています。
図1 スバゲティ型タグを付けたアカアマダイ稚魚
 アカアマダイは水深30〜150mの砂泥域の海底に巣穴を掘って生息しています。これまで,2003年に平均全長116mmのアカアマダイにスパゲティ型タグを付け,宮津湾に放流しましたが,放流後の再捕例は極めて少なく,また,コチやヒラメによって放流魚が食べられた例も確認されました。アカアマダイはこれらの捕食者から逃げる際に巣穴を利用していると考えられ,巣穴を作れるか作れないかが,放流後の生残に深く関係すると推測されます。
 私たちは,放流したアカアマダイの再捕が少ないのは,スパゲティ型タグが体から突き出していることから,巣穴作りの邪魔になり,巣穴を掘れないので,簡単に大きな魚から食べられるのではないかと考えました。
 そこで,水槽の底に当センター近くの栗田湾から採取した砂泥を敷き(図2),スパゲティ型タグを付けた個体と標識を付けない個体を1尾ずつ別の水槽に入れ,4日間巣穴作りをするかどうか観察しました。試験は9回行い,魚の大きさは全長90〜126mmでした。
 その結果,標識を付けない区では,試験開始後1日目以降に巣穴を作るのが観察され,4日目には9尾中4尾の個体が巣穴を作りました(図2)。一方,スパゲティ型タグを付けた区では,9尾全ての個体が巣穴を作ることはありませんでした。巣穴らしきものは作るのですが,完全に貫通した巣穴(図2)を作ることはできませんでした。
図2 アカアマダイが掘った巣穴
 アカアマダイの巣穴作りは早朝に多く観察されました(昼間作る時もありました)。ただ,巣作り中は泥が舞い上がり海水がひどく濁ってしまうことから,魚が実際に巣作りするところを詳しく観察することはできません。しかし,昼間に濁りが少なくなったとき,アカアマダイが穴に潜って,泥やそれに含まれる小石や貝殻などを口に含み,穴の外に吐き出す行動が観察されたことから,巣穴を作る時も同じような行動をすると想像されました。完成した巣穴の大きさは,掘った魚がやっと通れる位の大きさでした。多分,外敵から命を守るために,外敵が入れない大きさの穴の方が有利なのでしょう。  以上の結果から,私たちが想像したように,体の横からアンテナのように突き出たスパゲティ型タグが,巣穴作りの邪魔になり,巣穴を作れなかったと推測されます。従って,放流後のアカアマダイの生残率を上げるには,スパゲティ型タグでなく,巣穴づくりに支障ない別の標識方法を検討すべきだと考えています。現在,私たちは,アカアマダイの生態に合った標識方法について,さらに実験を行いながら研究を進めています。