独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.103 ウイルス病を水際で防ぐ
  〜アカアマダイ親魚の選別によるウイルス性神経壊死症(VNN)垂直感染防除〜  2007.02.22
宮津栽培漁業センター 竹内 宏行・升間 主計
 これまでに本ホームページではアカアマダイの超音波発信機を利用した生態調査(2004.1.7掲載)や,種苗生産での初期生産率の向上(2004.3.1掲載)について紹介してきました。
 アカアマダイ稚魚の生産尾数は,天然魚からの人工授精による採卵法を開発したことで,ここ数年右肩上がりに増え続け,平成16年には48万尾を生産し,量産化のめどが立ったかと自信を持ち始めていました。種苗放流にも着手し,本格的な放流技術開発に向けて,さあ,いかに放流するか,といった矢先の平成16年度,生産した稚魚がウイルス性神経壊死症(VNN)に感染していることがわかりました。VNNについてはトピックスでも何度か話題に上っていますが,海産魚類では特に仔稚魚期に大きな被害を及ぼす病気として知られています。
 以下では,私たちが取り組んだアカアマダイVNNの防除対策について紹介します。
 先にも述べたように,平成16年度は過去最高の48万尾の種苗を生産できましたが,放流サイズまで育てる途中,VNN検査で陽性と判定され,すべて処分することになりました。VNNの感染ルートを調べるために,現,養殖研究所上浦栽培技術開発センターの協力を得て,宮津栽培漁業センター内で,親や稚魚に使用している餌用の魚や飼育している魚,卵を採るために活け込んだ天然魚を調べたところ,ウイルスが見つかったのは採卵用の天然魚だけでした。この結果から,感染の原因は,親魚由来のウイルスが仔稚魚の体内で増殖することで病気を発症させ,同じ水槽内の仔稚魚に感染する,いわゆる,垂直感染であろうと考えられました。

 ヒラメでは,すべての親魚から生殖腺の一部を採取して検査し,ウイルスを持っていない親だけ使って採卵することでVNN防除に成功しています。しかし,ヒラメと違ってアカアマダイでは生殖腺からは検出されず,眼球から検出されることが判明しました。このウイルスは主に脳や眼球などの神経細胞内で増殖しますが,生殖腺ではウイルスの量が微量すぎて検出されないのではないかと推測されています。そこで,採卵後のアカアマダイから眼球を摘出して検査し,陰性と判定された親から採った精子,または卵だけを飼育に使用することにしました。
表 アカアマダイの採卵で調査した親魚の眼球の検査結果
 そのためには受精卵を水槽へ収容するまでに,その親がウイルスを持っているかどうかを知る必要があります。人工授精には精子と卵が必要です。そこで,まず購入してきた天然魚の雄から精子を個体毎に取り出し,その後個体毎に眼を摘出しウイルス検査のサンプルとして上浦栽培技術開発センターへ送ります。その検査結果を待って,ウイルスを持たない雄から得られた精子だけを人工授精に用います。雌は漁獲された後に成熟のためのホルモンを注射し,24時間後または48時間後に採卵して,ウイルスを保有しない雄からの精子を使って授精します(写真1)。この時点では,雌がウイルスを保有しているかどうかはわかりません。雄と同じように眼を摘出して検査に送ります。結果が出るまでの間,授精させた卵は雌の個体毎にバケツに収容して管理します(写真2)。この時,エアレーションによる飼育水の飛沫によってバケツからバケツにウイルスが感染しないように注意します(写真3)。

写真1 アカアマダイの採卵

写真2 親ごとに別々に搾った卵

写真3 バケツの列
搾った卵は結果が出るまで別々に管理します
 検査結果は翌日の夜には出ます。上浦栽培技術開発センターでは,一刻も早く結果を出せるように努力してくれています。その検査結果を受けて,ウイルス陰性の雌から得られた卵のみ集めて飼育水槽に収容します。収容は夜遅くまでかかることもあります。この方法で,雄も雌もウイルス検査で陰性だった組み合わせの受精卵のみを飼育水槽へ収容することができます。ウイルス陽性だった精子や受精卵は消毒して処分されます。
 このように煩雑で,しかも手間の掛かる方法で2年間採卵しました。

 平成17年度は,50kl水槽で行った2回の種苗生産試験に69万粒の受精卵を供給しました。種苗生産試験では残念ながら2回のうち1回でVNN陽性となりました。原因はごく微量のウイルスが検査をすり抜けたためだと考えられました。しかし,水槽間の水平感染防止策を徹底して行ったため,別の水槽に感染が広がることは阻止できました。
 平成18年度は検査精度の向上と検査の迅速化を図るとともに,オキシダント海水による受精卵洗浄も加えて,万全の垂直感染防除対策を実施しました。また,仔稚魚の飼育ではクロマグロで効果の確認された電解装置によるオキシダント殺菌した海水を飼育水に使用しました。その結果,前年の倍以上の親魚を検査できる体制ができ,2回の種苗生産試験ともVNN陰性となりました。
 この2年間は,VNN防除対策の技術開発を最優先にしたため,飼育試験に使用できる卵の数は以前より減りましたが,親魚検査によるウイルス感染の心配のない受精卵の選別方法が実用段階となりました。
 しかし,これらの対策はまだまだ完全なVNN防除技術とは言えません。今後も宮津栽培漁業センターだけでなく,上浦栽培技術開発センターとのチームワークのもとで,検査技術の精度の向上,親魚から搾った卵とともに侵入するウイルスをオキシダント殺菌海水で洗浄,駆除するなど,ウイルスの侵入を水際で確実に食い止める採卵方法を確立したいと思います。
 最後にウイルスと聞くと,世間を賑わせている鳥インフルエンザを連想して大変恐いものと思われがちですが,ここで説明しました神経壊死症のウイルスは魚の体内に限って20-30℃の温度で増えるものの,コイのヘルペスウイルス同様,体温36℃前後の人間の体内では増えませんので,どうぞご安心を。