独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.048 アカアマダイの初期生残率の向上 〜形態異常率も軽減〜   2004/03/01
はじめに
 アカアマダイの種苗生産技術開発は,昭和59年度から着手しましたが,水槽内での自然産卵による採卵方法では,縄張りを形成するという本種の生態的特徴から親魚数が限定されるため,計画的に大量の受精卵を確保することが困難であり,種苗生産する上での大きな障害の一つでした。
 しかし,平成9年度からは,若狭湾海域でのアカアマダイ天然魚の成熟状況の把握に努めるとともに,人工授精を中心とした採卵技術開発として精子の抽出方法と保存方法の試験を行いました。これにより,数十万粒の受精卵が短期間で確保できるようになり,本格的な種苗生産の技術開発を開始しました。
 こうした取り組みにより,種苗の生産量は平成11年度には14万尾,13年度には17万尾と増加しました。しかし,本種の種苗生産では,飼育初期に仔魚が水面へ蝟集して死亡するいわゆる「浮上死亡」の発生が多く見られ,また飼育した種苗では60%以上の個体に椎骨屈曲を呈する形態異常が発生し,大きな問題となりました。本年度は,これらの問題を解決するために,飼育方法の改善に取り組みました。その結果,初期生残率の向上と椎骨異常率の減少が図られ,問題解決に向けた糸口が見つかりました。
飼育方法の改善点
 全長が2mmと非常に小さなアカアマダイのふ化仔魚は,飼育水中への通気による水流で水面に流されて空気と接触したり,仔魚体表から発生する粘液や水面の油膜に捕らえられて身動きができなくなって死亡すると考えられました。そこで,水面と水中の照度と仔魚の分布状況を調査したところ,仔魚は照度が1,000 lx以下の暗い環境では水面に蝟集しやすくなりますが,2,000 lx以上の明るさがあれば水面下に分布することが判りました。
 本年度は,この結果を利用し,2,000 lx以上の照度を保つことで仔魚を水面下に分布させるように工夫しました。また,本種ではマダイ等と同じように,日齢5以降に水面から空気を呑み込み鰾の開腔を行う(開鰾)ことが確認されました。このため,空気の見込み時に水面の表面張力に捕らえらないように,貝化石(粒径5μm)を散布する飼育方法を行いました。また,水槽の四隅に微細通気パイプを設置し,細かい気泡とごく緩やかな環流を施す通気方法の改善を行いました。
平成15年度の種苗生産結果
 長崎産,山口産,島根産及び京都府産の受精卵を用い,50トン水槽4面でこれらの飼育方法の改善を組み込んだ飼育試験を行いました。その結果,全般的に飼育初期の浮上死亡を軽減することができ,52〜54日間の飼育で全長21〜24mmの種苗を19.2万尾生産(平均生残率12.9%)し,過去最高の成果が得られました。最良の飼育事例では,日齢15の生残率が71%と高い値を得ることができました(表1,図1〜2)。また,形態異常個体の出現率も平均24.2%と大幅に改善されました(表2)。好成績が得られた要因として,貝化石を散布したこと,日齢3から油膜除去装置により徹底的に油膜の除去に努めたこと,照度と通気方法などの飼育環境の改善により仔魚の開鰾率が高まったことなどが考えられました。
表1 アカアマダイ種苗生産結果の概要
生産
回次
飼育水槽
大きさ(トン)
収 容
 
取 り 揚 げ
月日
尾数(尾)
月日
尾数(尾)
平均全長(mm)
生残率(%)
1
50
9/28-30
520,000
11/21
115,000
20.7(12.3-29.4)
22.1
2
50
10/2-4
310,000
11/25
23,000
22.1(11.8-35.1)
7.4
3
50
10/4-5
388,000
11/28
40,000
24.1(13.3-31.9)
10.3
4
50
10/8-10
270,000
12/4
14,000
21.8(12.8-30.2)
5.2
1,488,000
 
192,000
 
12.9
表2 年別の形態異常出現率
年度
異常率の平均(%)
平成11
41.3
平成13
69.6
平成14
60.3
平成15
24.2