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ワムシ講座 |
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第12回 ワムシ研究の今後の課題 |
2010.12.22掲載 |
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いよいよワムシ講座も今回で最終回となりました。これまで,ワムシ培養を行う上で重要な環境要因や注意すべき事項などを取り上げて解説してきました。
最終回は今後さらにワムシ培養の安定化をはかり,餌料価値を改善するために,取り組むべき課題についてお話しします。
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ワムシは1日で体重の約5倍量の餌を食べ(第3回参照),食べた餌の約8割を糞として培養水中に排泄します1)。このため,培養水は比較的短時間で有機物濃度が高い「富栄養」の状態になります。この培養水中の有機物は原生動物や細菌の餌となるため(図19),微生物の混入や侵入を完全に防ぐのが難しいワムシ培養では,培養水中に原生動物や細菌が大量発生することは仕方のないことです。
このうち特に細菌については,ワムシの増殖を阻んで培養不調を起こすものや,ワムシにくっついて飼育槽内に入り込み,仔魚に細菌性疾病を引き起こすものなど,ワムシ培養や種苗生産担当者にとっては厄介者の,いわゆる“悪玉細菌”が存在することが知られています(第5回参照)。この問題は以前から心配されてきましたが,ワムシ培養水中の細菌叢については情報が乏しく,また,培養水中に発生する細菌叢を人間の力ではコントロールできないため,解決策がないまま今日に至っています。
前述したように,ワムシの大量培養は無菌状態で行うことはできません。ですから,細菌を減らす方法ではなく,培養槽内で発生する細菌の種類をワムシや飼育仔魚に悪影響のない“善玉細菌”に変える方法,つまり,細菌叢をコントロールする技術が求められます。
その研究を進めるためには,
・ワムシ培養水槽の全ての細菌叢を把握する技術
・培養水槽における細菌叢の変化の把握とその原因把握
・善玉細菌の探索と善玉細菌を優占させるための培養環境条件の解明
が必要です。
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参考文献
1)Aoki,S.,A.Hino(1995)Measurement of the nitrogen budget in the rotifer Brachionus plicatilis by using 15N.Fisheries Science,51,406-410. |
これらの情報を元に,ワムシ卵の消毒法2)や閉鎖循環式ワムシ培養技術3),さらに善玉細菌を利用したプロバイオティクス技術などを組み合わせて,細菌叢のコントロールに重点を置いた新たなワムシ培養技術の開発への取り組みが必要です。
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2)渡辺研一,篠崎大祐,小磯雅彦,桑田 博,吉水 守(2005)シオミズツボワムシ複相単性生殖卵の消毒.日水誌,71,294-298.
3)Suantika,G.,P.Dhert,E.Sweetman, E.O’Brien,P.Sorgeloos (2003) Technical and economical feasibility of a rotifer recirculation system. Aquaculture,227,173-189.
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近年,養殖対象魚種が多様化してきており,種苗生産現場でも新たな魚種への取り組みが行われています。新たに種苗生産に取り組んでいる魚種の中には,これまで利用してきたワムシ(背甲長:100〜340μm)では,ふ化仔魚に与えるには大き過ぎる場合(メガネモチノウオなど)があり,より小型のワムシが求められています。
また,ワムシの次に飼育仔魚に与える餌料生物のアルテミアが高価なため,これに代わる生物餌料として,より大型のワムシも望まれています(図20)。
このようなサイズのワムシは,現在,世界中のどこでも存在は確認されていませんが,育種技術を応用することで作り出せる可能性があります。
小型のワムシの育種方法としてはワムシの個体群から,より小型のワムシを選んで継代培養を繰り返し,さらに,選ばれた小型のワムシ群から耐久卵を生産して4-6),小型のワムシを作り出す手法が考えられます。この場合,小型のワムシの特徴が次の世代以降も維持されるのかを確認する必要があります(大型ワムシの育種方法も同様です)。
ゆくゆくは,サイズだけにとどまらず,低温に強く,高い増殖能力を持つ,といった優れた特徴を持つワムシも育種技術によって作り出すことができるかもしれません。
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4)日野明徳(1983)生活史−とくに両性生殖誘導要因,シオミズツボワムシ−生物学と大量培養,水産学シリーズ44,日本水産学会編,恒星社恒星閣,22-34.
5)Hagiwara,A.,A.Hino,R.Hirano (1988) Effects of temperature and chlorinity on resting egg formation in the rotifer Brachionus plicatilis. Nippon Suisan Gakkaishi,54,569-575.
6)Fu,U.,A.Hagiwara,K.Hirayama (1993) Crossing between seven strains of the rotifer Brachionus plicatilis.Nippon Suisan Gakkaishi, 59,2009-2016.
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■ワムシの栄養価の改善
ワムシには,EPAやDHAなどの高度不飽和脂肪酸を主とした栄養強化(第9回参照)が行われてきました。しかし,仔魚に必要な栄養素は脂質だけではなく,今後は脂質を始め,タンパク質やアミノ酸,ビタミン類なども考慮して,ワムシの栄養価を改善していく必要があります。
■培養廃水の再利用
ワムシの培養水中には大量の有機物が含まれているため,それを直接,海へ流すと沿岸海域が汚染されてしまいます。環境への配慮が重要視される今日,ワムシ培養でも可能なかぎりゼロエミッション化(廃棄物ゼロ)を進めるべきでしょう。そのための第一歩として,培養廃水を処理して再利用する閉鎖循環型培養システムを実用化させる必要があります。
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ワムシ培養技術は,この約20年間で,培養用餌料として濃縮淡水クロレラが導入されたことに始まり,それを利用した新たな培養技術である連続培養法や高密度培養法が開発され(第6回参照),普及したことで,飛躍的に進歩しました。また,近年,量的確保の技術開発だけでなく,質的な検討(第11回参照)も行われるようになってきました。
しかし,ワムシの培養技術が全て確立されたわけではなく,今でも突然培養不調に陥ることもあれば,栄養価などの問題も解決には至っていません。今後,これらの残された問題についても積極的に取り組んでいく必要がありますが,その際に,このワムシ講座が少しでもお役に立てば幸いです。1年間にわたり,おつき合いいただき,ありがとうございました。
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・ワムシ培養の安定化と餌料価値の改善には,培養槽内の細菌叢のコントロールが不可欠。
・育種やゼロエミッション化など,大量培養以外にも取り組む課題が山積している。
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