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ワムシ講座 |
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第6回 ワムシの大量培養法 |
2010.6.15掲載 |
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ワムシを量産規模で培養する,いわゆる大量培養法を大きく分けると,ワムシの収穫や海水の注水を行わず止水状態で培養する“植え継ぎ式(バッチ式)”と,培養水の一部を間引いてワムシを収穫し,同量の海水を注水して培養水を換水しながら培養する“間引き式”の2タイプがあります。
さらに,植え継ぎ式からは,数千個体/mlのワムシ密度で培養を行う“高密度培養法1-3)”が,間引き式からは,ワムシの増殖に応じた水量を連続的に注水して収穫する“連続培養法4-6)”が開発されました。
栽培漁業センター等が採用するワムシの大量培養法は,新たな培養用餌料や培養技術の開発によって変化していきました。1980年には間引き式が全体の77%を占めていましたが7),濃縮淡水クロレラが普及した2000年には植え継ぎ式が38%,間引き式が37%と同等となり8),2006年では連続培養法(粗放連続培養法も含む)が49%と主流になりました(図4)9)。
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参考文献 1)吉村研治,宮本義次,中村俊政(1992)濃縮淡水クロレラ給餌によるワムシの高密度大量培養.栽培技研,21,1-6. 2)吉村研治,岩田 剛,田中賢二,北島 力,石崎文彬(1995)非解離アンモニア抑制のためのpH制御によるシオミズツボワムシの高密度培養.日水誌,61,602-607. 3)吉村研治,大森庸子,吉松隆夫,田中賢二,石崎文彬(1996)海産小型ワムシBrachionus plicatilisの高密度培養における好適通気法.日水誌,62, 897-903. 4)Fu,Y.,A.Hada, T.Yamashita, Y. Yoshida, and A. Hino(1997) Development of a continuous culture system for stable mass production of the marine rotifer Brachionus, Hydrobiologia,358, 145-151. 5)日野明徳(1998) ワムシ連続培養装置. アクアネット, 1:45-48. 6)日野明徳(2000)3 新しく開発された連続培養法.海産ワムシ類の培養ガイドブック,栽培漁業技術シリーズNo.6,日本栽培漁業協会,東京,80-81. 7)北島 力(1983) IV.大量培養 7. 実施例と問題点. シオミズツボワムシ−生物学と大量培養(日本水産学会編), 恒星社厚生閣,東京, pp.102-128. 8)社団法人マリノフォーラム21 (2000)種苗生産技術の現状. pp.31-34. 9)小磯雅彦(2007)ワムシ培養に関するアンケート調査結果(2006年度). 栽培技研,35,63-71.
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1)植え継ぎ式(バッチ式)培養法
主に10kl以下の小型水槽を用い,同型の水槽を数個並べて順々に培養を繰り返します(図5)。
止水状態で培養するため,培養水中にワムシの糞や食べ残した餌料等の有機物が蓄積し,水質が悪化しやすく,培養期間は2〜7日間の比較的短期間です。
ワムシ密度は栽培漁業センター等によって異なりますが,多くは培養開始時が100〜200個体/mlで,収穫時が300〜1,000個体/mlです。
培養設備が単純で,培養スペースが比較的小規模ですむこと等が利点ですが,培養水槽の数が多いため,計数や水槽洗浄等の培養管理に要する作業量が多いのが欠点です。
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2)高密度培養法(種苗生産現場での事例)
使用水槽は主に0.5〜1.0kl水槽で,培養形態や培養日数は植え継ぎ式とほぼ同様です。
主にS型ワムシの培養に用いられ,ワムシ密度は培養開始時が500〜1,000個体/ml,収穫時が3,000〜5,000個体/mlです。
培養スペースが小規模で生産性や経済性に優れることが利点ですが,高給餌率での培養であるため,培養水中の有機物量が多く(細菌数や懸濁物量が多い),植え継ぎ式培養よりもさらに水質悪化が起こりやすいのが欠点です。
なお,酸素通気と培養水のpH調整によって,1万個体/mlを超えるワムシ密度での高密度培養法も開発されています10)。
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10)吉村研治(2002)ワムシの高密度大量培養技術.日水誌,68,629-632. |
3)間引き式培養法
主に20kl〜50klの比較的大きな水槽を用い,毎日培養水量の10〜20%量を収穫して,同量の海水やナンノクロロプシス培養水を注水します(図6)。
培養期間は15〜40日間と長期間ですが,ワムシ密度は100〜200個体/mlと低密度です。培養水を換水することで培養水中の有機物量が希釈されて長期間の培養ができるのが利点ですが,培養規模が大きく低密度であるため,生産性や経済性が悪いのが欠点です。
市販の濃縮淡水クロレラが培養用餌料として普及する前には,ワムシの餌料は自場で培養したナンノクロロプシスと市販のパン酵母等が主であり,現在のように濃縮藻類による高給餌率での培養ができなかったため,低いワムシ密度での間引き式が主流でした。
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4)連続培養法(粗放連続培養法)
連続培養法はマリノフォーラム21と,日本栽培漁業協会(現:水産総合研究センター)との共同研究で開発した培養法です。
原生動物や細菌の侵入を防止した培養環境で連続的な注水と給餌を行い,培養槽で増えたワムシを培養水ごと収穫槽へ抜き取る流水式の培養法です6)(図7)。また,給餌量によってワムシの増殖率を制御する“ケモスタット式”が培養管理に採用されています6)。なお,このような培養の理論と仕組みを既存の水槽に展開したのが“粗放連続培養法”です。
使用水槽は0.5kl〜50klと様々であり,ワムシ密度は小型水槽では500〜1,000個体/mlと比較的高密度ですが,大型水槽では100〜300個体/mlと低密度です。培養水中の有機物量を連続的な注水と収穫によって希釈することで長期間の安定培養ができ,また,毎日作業が同じ(培養槽のワムシ密度や給餌量,収穫量が同じ)で培養管理がしやすく,常に増殖している高品質なワムシが収穫されること等が利点です。
一方,欠点は培養法を構築するためには,培養に用いるワムシの増殖特性(増殖率がどの程度か?)を理解する必要があり,また,既存の水槽での長期間にわたる培養では,培養過程で増殖阻害因子(主に細菌)が培養槽内に侵入する可能性があること等です。
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ワムシの大量培養法には,ここで紹介した以外にも様々なバリエーションがあります。高品質なワムシを効率よく安価に、かつ楽に生産するためには,それぞれの培養法の特徴や,地域や施設の条件を考慮して最適な培養法を選択する必要があります。
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・ 栽培漁業センターが採用するワムシの大量培養法は,
新たな培養用餌料や培養技術の開発によって変化している。
・ ワムシの大量培養法にはそれぞれ特徴があるため
地域や施設の条件に適した培養法を選択する必要がある。
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