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ワムシ講座 |
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第11回 ワムシの質 |
2010.11.15掲載 |
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ワムシの“質”というと,ワムシ自体が飼育魚の餌という観点から“栄養価”(第9回参照)と読み替えることも可能ですが,ここではワムシの増殖能力や摂餌能力,運動性などを総合的に表現した,いわゆる“活力”と定義して話を進めます。
ワムシの“質”は,安定培養や餌料価値に影響を及ぼす重要な要素ですが,これまでのワムシ大量培養技術では,“質”よりも“量”に関する研究が優先されてきました。培養用餌料の改善や新たな培養方式の導入により大量培養が可能となった今,ワムシの“質”についても議論すべき時期に来ています。
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前回お話ししたように,植え継ぎ式培養でのワムシの増殖状態は,培養開始後の急激に個体数を増やす“対数増殖期”,やがて水質悪化などの影響で増殖が頭打ちとなる“定常期”を経て,その後さらなる水質悪化によって個体数が減少し始める“退行期”に至る,という3つの段階があります(図12)。
同じワムシでもこれらのどの増殖状態にあるかによって,その質に違いは見られるのでしょうか。また,これらのうち,質がよいワムシが最も多いのはどの増殖状態なのでしょうか? ワムシの質を摂餌能力,環境変化に耐える力,増殖能力の面からとらえ,調べてみました。

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■摂餌個体率
元気なワムシは食欲旺盛なばかりでなく,餌を食べる力も優れているはずです。
ワムシが微細藻類のクロレラを食べると体内に緑色の部分ができます。餌を食べられない衰弱したワムシには体内に緑色の部分が見られないので,緑色の部分を持つワムシが多ければ,摂餌能力の高い,元気なワムシが多いということになります。
ワムシ体内にクロレラが取り込まれている(緑色の部分がある)個体を摂餌個体として,以下の式で摂餌個体率を求めました。
摂餌個体率(%) = (摂餌個体数) ÷ (全調査個体数) × 100
植え継ぎ式培養槽から毎日ワムシを採取し,一時的に飢餓状態にしてから十分に給餌し, 10分後の摂餌個体率を求めました。この結果,対数増殖期のワムシは,定常期や退行期に比べて摂餌個体率が高いことから,餌が食べられない衰弱ワムシが少ないことがわかりました(図14)1)。
なお,定常期よりも退行期の摂餌個体率が高くなっているのは,退行期には衰弱したワムシが死亡しやすくなり,元気なワムシの割合が見かけ上高くなったためと考えられます。

■胃腸面積比
摂餌能力を判断するもう一つの目安として,餌を多く食べられるというのもポイントとなります。ここではワムシの給餌開始からの胃腸の大きさに注目してみます。
クロレラを食べて体内に緑色の部分ができたワムシの,その緑色の部分(胃腸面積)とワムシの背甲面積をそれぞれ画像解析装置で測定して,以下の式で胃腸面積比を求めます(図15)。
胃腸面積比(%) = (胃腸面積) ÷ (背甲面積) × 100
この値は体の大きさに対する胃腸の大きさの比であり,数値が大きいほどより多くの餌を食べられると考えられます。
対数増殖期と定常期のワムシを一時的に飢餓状態にしてから十分に給餌し,時間を追って胃腸面積比を調べました。その結果,対数増殖期のワムシは,定常期に比べて胃腸面積比が大きいことから,より多くの餌が食べられることがわかりました(図16)1)。つまり,もりもり餌を食べるのは対数増殖期のワムシということになります。 |
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参考文献
1)小磯雅彦,日野明徳(1999)ワムシの活力判定と個体群の増殖予測に関する研究.水産増殖,47,249-256. |
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環境変化に耐える力(抵抗性) ― 高塩分耐性からみる |
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ワムシの質を判断するには,ワムシに環境の変化にも耐えられるような元気があるかというのも目安となります。ワムシを通常の塩分濃度の海水から高塩分の海水に移して,どれだけ耐えられるかを調べてみます。
高塩分耐性は,ワムシを高塩分海水に移した後に,元気に遊泳している個体を計数して,以下の式で求めました。
遊泳個体率(%) = (遊泳個体数) ÷ (全調査個体数) × 100
活力の低いワムシはこのような塩分変化に耐えられないため,この値が高いほど環境変化に耐える力(抵抗性)が高いと判断できます。植え継ぎ式培養槽(塩分34psu)から毎日ワムシを採取し,高塩分海水(塩分70psu)へ移送して3時間放置した後,遊泳している個体を計数しました。
その結果,対数増殖期のワムシは,定常期や退行期に比べ抵抗性が高く,元気なワムシが多いことがわかりました(図17)1)。
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増殖能力 ― ふ化や成長・成熟に要する時間からみる |
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ワムシの質を見極めるには,増殖能力が高いかどうかも重要な目安となります。
対数増殖期,定常期,退行期のワムシから卵を取り,これらの「ふ化までに要した時間」,「ふ化から初回産卵までの時間」,「産卵間隔(第1卵の産出後,第2卵が産出されるまでの時間)」をそれぞれ調べました。
その結果,対数増殖期のワムシは,定常期や退行期に比べて短時間でふ化し,成長,成熟も早いことから,増殖能力が高いことがわかりました(図18)2)。
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2)小磯雅彦,日野明徳(2002)シオミズツボワムシの大量培養における増殖停滞の機構に関する研究,50,197-204. |
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以上4つの観点から見た結果,同じワムシでも培養段階によって“質”が変化することが示され,その中でも,対数増殖期のワムシは,摂餌能力や環境変化への抵抗性,そして増殖能力も高いことがわかりました。
また,マダイ3)やヒラメ4,5)の仔魚飼育実験では,対数増殖期のワムシは定常期や退行期よりも餌料価値が高いことが実証されています。したがって,対数増殖期のワムシが最も質が高いと結論できます。
これまでは,いかに大量のワムシを生産するかが研究のメインテーマでしたが,安定した大量培養がほぼ実現した今,さらに一歩進んで,質的に優れたワムシを,安定的かつ計画的に生産することも視野に入れる時期に来ています。
これを実現するための具体的な方法の1つとして,対数増殖期のワムシが毎日生産される連続培養法(第6回参照)があり,連続培養法で生産されたワムシの餌料価値が優れること6,7)もすでに報告されています。今後のワムシ培養では,量的確保だけでなく,質にも配慮した培養方法の選択という視点も必要です。 |
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3)友田 努,小磯雅彦,桑田 博,陳 昭能,竹内俊郎 (2004)増殖ステージが異なるシオミズツボワムシのマダイ仔魚に対する餌料価値.日水誌,70,573-582.
4)友田 努,小磯雅彦,桑田 博,陳 昭能,竹内俊郎(2005)増殖ステージが異なるシオミズツボワムシのヒラメ仔魚の対する餌料価値.日水誌,71,555-562.
5)友田 努,小磯雅彦,陳 昭能,竹内俊郎(2006)増殖ステージが異なるワムシを摂餌したヒラメ仔魚の発育と形態異常の出現.日水誌,72,725-733.
6)友田 努,小磯雅彦,島 康洋 (2007) 植え継ぎ培養法と粗放連続培養法で生産したシオミズツボワムシの栄養強化における餌料価値.日水誌,73,505-507.
7)Kotani, T., T. Genka, H. Fushimi, M. Hayashi, K. Dierckens and P. Sorgeloos (2009) Effect of cultivation methods on nutritional enrichment of euryhaline rotifer Brachionus plicatilis.Fish Sci.75,975-984.
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・ ワムシの質は培養状態によって変化し,安定培養や餌料価値に影響を及ぼす。
・ 増殖能力や摂餌能力に優れ,環境変化にも強い対数増殖期のワムシを
安定的かつ計画的に生産することが重要!
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