ワムシ培養水中の細菌数は106〜108CFU/mlです。これは外洋の海水中の細菌数が104CFU/mlなので,その100倍から1万倍に当たります。また,ワムシ体内の細菌数は107〜109CFU/gと,膨大な数であることが知られています4-6)。
ワムシ培養槽内に出現する細菌には,ワムシの餌料になるもの(単体では小さすぎるため,フロック化したものを食べると推察されています。Psudomonas 属細菌に利用されるものが多い)7)やワムシの増殖に必須なビタミンB12を産生するもの8)等の有益なものもあります。
一方,ワムシの培養不調を引き起こすVibrio alginolyticus 9)や色素産生菌7)等のワムシ培養に有害なものも数多く存在します。これらの細菌は複数種が混在しており,立地条件や季節ならびに培養経過等によって,培養槽内で優占する種類が変化することが知られています(図2,3)5)。
 
残念ながら,現状のワムシ培養方法では,培養槽内でワムシの増殖を阻害する細菌を制御する技術がないため,細菌に起因する培養不調はいつでも起こりうると考えられます。
また,さらに問題なのは,ワムシを介して仔魚の飼育槽へ持ち込まれる細菌の中には,飼育仔魚に細菌性疾病を引き起こすものが存在することです。Vibrio ichtyoenteri によるヒラメの細菌性腸管白濁症10,11),V.alginolyticus 等によるタイ類の腹部膨満症12-14),およびV.anguillarum によるアユのビブリオ病15,16)等がその例です。
ワムシ培養過程で,増殖阻害細菌による培養不調が生じた際には,培養環境を変える(水温,塩分及びpHを変化させる)ことで状態が回復する事例もありますが,確実性に欠けます。
今後,ワムシをさらに安定的に培養し,餌料としての品質を高めるためには,ワムシ培養槽内の細菌叢をワムシの増殖に適した状態に制御する技術の開発が必要です。 |
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4)林 孝一郎,木村俊夫,菅原 庸(1975)アユの人工種苗生産における微生物的研究−III,シオミズツボワムシ及びタマミジンコの細菌汚染.三重大水産学部研報,2,81-91.
5)宮川宗記,室賀清邦(1988)シオミズツボワムシBrachionus plicatilisの細菌叢.水産増殖,35,237-243.
6)岡 彬(1989)4-7 生物環境 1) 細菌.初期餌料生物−シオミズツボワムシ(福所邦彦・平山和次編),恒星社厚生閣,東京,pp.34-36.
7)安田公昭,多賀信夫(1980)餌料細菌を用いるシオミズツボワムシの培養.日水誌,46,933-939.
8)Yu,J.P.,A.Hino,M.Ushiro,and M.Maeda(1989)Function of bacteria as vitamin B12 producers during mass culture of the rotifer Brachionus plicatilis.Nippon Suisan Gakkaishi, 55,1799-1806.
9)Yu,J.P.,A.Hino,T.Noguchi,and H.Wakabayashi(1990)Toxicity of Vibrio alginolyticus on the survival of the rotifer Brachionus plicatilis. Nippon Suisan Gakkaishi,56,1455-1460.
10)増村和彦,安信秀樹,岡田直子,室賀清邦(1989)ヒラメ仔魚の腸管白濁症原因菌としてのVibrio sp.の分離.魚病研究,24,135-141.
11)Ishimaru,K.,M.Akagawa-Matsushita,and K.Muroga (1996) Vibrio ichthyoenteri sp. nov.,a pathogen of Japanese flounder larvae. Int.J.Syst.Bacteriol.,46,155-159.
12)岩田一夫,矢野原良民,石橋 制(1978)マダイの種苗生産過程におけるへい死要因に関する研究.魚病研究,13,97-102.
13)楠田理一,横山 淳,川合研児(1986)クロダイ仔稚魚のいわゆる腹部膨満症に関する細菌学的研究.日水誌,52,1745-1751.
14)安信秀樹,室賀清邦,丸山敬悟(1988)マダイ仔魚の腸管膨満症に関する細菌学的検討.水産増殖,36,11-20.
15)田端和男,柄多 哲,M.S.Ruiz(1982)海水によるアユ種苗生産時の病害研究−II.Vibrio anguillarumの動態.魚病研究,17,205-212.
16)田谷全康,室賀清邦,杉山瑛之,平本義春(1985)種苗生産過程の仔稚アユからのVibrio anguillarumの検出.水産増殖,33,59-66.
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