独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
ワムシ講座
 第3回 培養用餌料の種類と給餌量 2010.3.15掲載
 ワムシは口部にある繊毛冠(せんもうかん)を“輪”を描くように動かして(これが輪虫の名前の由来?),遊泳しながら海水中に漂う餌をろ過して食べます。
 ワムシには好みの餌の大きさがあるようで,S型は調査されていませんが,L型は5〜25μmの大きさの餌を選んで食べることが明らかにされています1,2)
 また,ワムシは餌を咀嚼器で細かく磨り潰して消化管へ送り込みますが,餌の種類によって咀嚼器の運動頻度が変化する(好まない餌のときは咀嚼する頻度が低下して消化管へ送り込む量が減る)3)ことも報告されています。



ワムシの咀嚼器
 ワムシを少し押しつぶして体内を見やすくした写真です。
写真赤丸内側に楕円形のものがあり,その中に少し黒い色でアルファベットのMの字の形をしたものがあります。この楕円形の部分が咀嚼器です。
 仔魚飼育で,仔魚が摂餌したワムシ数を調べる時,仔魚を少し押しつぶして,仔魚の消化管内のワムシの咀嚼器数(消化されないため)を調べる方法があります。
参考文献
1)Hino,A and R. Hirano(1980)Relationship between body size of the rotifer Brachionus plicatilis and the maximum size of particles ingested. Bull. Japan. Soc. Sci. Fish.46,1217-1222.
2)Hino,A and R. Hirano(1984)Relationship between body size of the rotifer Brachionus plicatilis and the minimum size of particles ingested. Bull. Japan. Soc. Sci. Fish.50,1139-1144.
3)船本浩路,平山和次(1982)咀嚼器運動頻度よりみた各種餌料のシオミズツボワムシに対する摂餌誘因性. 水産増殖,29,246-250.
 餌の種類

 近年のワムシ大量培養で利用されている主な培養用餌料は,ナンノクロロプシスNannochloropsis oculataパン酵母Saccharomyces cerevisiae淡水クロレラChlorella vulgarisの3種類です。

ナンノクロロプシス
 大きさが2〜6μmの単細胞藻類で4,5),農業用肥料で培養でき,ワムシへの餌料価値が高く,海水由来なので海水中でも生存して水質悪化が起こりにくいといった利点があります。また,光合成をして増殖するので培養が天候に大きく左右され,培養状態によって栄養価が変化するため品質が不安定6)という欠点もあります。

パン酵母
 大きさが4〜7μmの単体遊離型のアルコール酵母であり7),市販品があるため入手が容易で冷蔵保存でき,単価が安いという利点があるものの,ワムシへの餌料価値が低く8,9),海水中では短時間で死滅して水質悪化を招きやすく,ワムシ培養を不安定化させる原生動物や細菌等が増殖しやすい等の欠点があります。

淡水クロレラ
 大きさが2〜10μm5)の単細胞藻類で,市販品があるため入手が容易で冷蔵保存でき,有機培地で工場生産されるため品質が安定しており,ワムシの必須ビタミンであるB12を取り込ませているため餌料価値が高いといった優れた利点があります。ただし,淡水由来なので海水中では短時間で死滅して水質悪化を引き起こす可能性があり,パン酵母に比べ単価が高いこと等の欠点があります。


表2.  ワムシ大量培養で利用されている主な培養用餌料の特徴
名称 大きさ 利点 欠点
ナンノクロロプシス 2〜6μm ・農業用肥料で容易に培養できる
・ワムシへの餌料価値が高い
・海水由来なので海水中でも生存して水質悪化が起こりにくい
・培養が天候に大きく左右される
・培養状態により栄養価が変化し品質が不安定
パン酵母 4〜7μm ・市販品があるため入手が容易で冷蔵保存可能
・単価が安い
・ワムシへの餌料価値が低い
・海水中では短時間で死滅して水質悪化を招きやすい
・原生動物や細菌等が増殖しやすい
淡水クロレラ 2〜10μm ・市販品があるため入手が容易で冷蔵保存可能
・品質が安定している
・ワムシへの餌料価値が高い
・ワムシの必須ビタミンであるB12を含有
・海水中では短時間で死滅して水質悪化を引き起こす可能性がある
・パン酵母に比べ単価が高い

4)川口智治,渡辺哲光(1986)海産クロレラの微細構造に関する一考察. 水産増殖,34,57-60.
5)Maruyama,I. ,T. Nakao,I. Shigeno,Y. Ando and K. Hirayama(1997)Application of unicellular algae Chlorella vulgaris for the mass-culture of marine rotifer Brachionus. Hydrobiologia358,133-138.
6)岡内正典,周 文堅,Wan-Hong Zou,福所邦彦,金澤昭夫(1990)異なる増殖相におけるナンノクロロプシスNannochloropsis oculataの栄養価の相違. 日水誌,56,1293-1298.
7)平田郁夫(1989)2・2 酵母類. 初期餌料生物−シオミズツボワムシ(福所邦彦・平山和次編). 恒星社厚生閣,東京,pp. 82-85.
8)Hirayama,K. and H. Funamoto(1983)Supplementary effect of several nutrients on nutritive deficiency of Baker’s yeast for population growth of the rotifer. Bull. Japan. Soc. Sci. Fish. ,49,505-510.
9)Satuito,C. G. and K. Hirayama(1991)Regulation of the amino acid and fatty acid on tents of Baker’s yeast to improve its nutritive value for the population growth of the rotifer Brachionus plicatilis. Bull. Fac. Fish. Nagasaki Univ. ,69,13-20.
 2006年度のワムシ培養に関するアンケート調査10)では,淡水クロレラを単独利用する機関が全体の51%で,他の餌料との併用利用を含めると92%を占めることから,近年のワムシ培養では淡水クロレラが主餌料になりつつあります。 10)小磯雅彦(2007)ワムシ培養に関するアンケート調査結果(2006年度). 栽培技研,35,63-71.
 一日に食べる餌の量

 ワムシが1日で食べる餌の重量は,水温25℃,塩分20psuの条件の場合,S型(ワムシ1個体あたりの乾燥体重が約0.2μg),L型(同約0.4μg)共に体重の約5倍量に達します11)
 また,1個体が1日に食べる藻類(多くはナンノクロロプシス)の細胞数は,S型が9〜30万細胞,L型が20〜50万細胞であること11,12)等が報告されています。これを淡水クロレラに換算すると,およそS型が5〜15万細胞,L型が10〜25万細胞程度を摂餌可能であると考えられます。
 成熟したワムシは,自分の体重の約6割に相当する重さの卵を毎日1〜4個作ります。ゆえに,増殖には大量の餌料が必要となるわけです。






 摂餌個体と無摂餌個体
  左側の体内の中央部分に
 黒緑色の楕円形があるものが摂餌個体で,
 それが無い右側が無摂餌個体です。

  ワムシがクロレラを摂餌すると,
 体内の消化管が黒緑色に変色するため,
 摂餌個体と無摂餌個体は区別できます。

11)山崎繁久,平田八郎(1986)L型及びS型シオミズツボワムシの摂餌率. 水産増殖,34,137-140.
12)大上皓久(1977)シオミズツボワムシの摂餌量および増殖率と培養温度との関係. 静岡水試伊豆分場だより,187,2-5.
 餌料密度

 ワムシの適正な餌料密度は,淡水クロレラの場合,水温26℃,塩分27psuの条件では,S型,L型共に100万〜500万細胞/mlの範囲にあります13)
 餌料密度が低すぎると,ワムシは餌にありつくまで泳ぎまわらなくてはならないため,摂餌行動で消費するエネルギーが大きくなり,好ましくありません。
 逆に高すぎると,未消化餌料の排出が増えて水質が悪化しやすく14),また,培養水の粘性が高くなって遊泳するのに多くのエネルギーが必要になったり15),摂餌過程で餌のろ過や咀嚼機能に障害が起こる16)等,負の影響が報告されています。
 低すぎず,高すぎずの適正な餌料密度を維持するには,餌料を少量ずつ時間をかけて添加する連続給餌17)が理想的です。これが無理な場合でも可能な範囲で分割給餌することをお薦めします。



13)小磯雅彦(2000)給餌量. 海産ワムシ類の培養ガイドブック,栽培漁業技術シリーズNo. 6,日本栽培漁業協会,東京,38-39.
14)山崎繁久,平田八郎(1985)シオミズツボワムシ(Brachionus plicatilis)の摂餌量および増殖率に及ぼす給餌密度の影響. 水産増殖,32,225-229.
15)Walz,N. (1993) Element of energy balance of Brachionus angularis, in “Plankton Regulation Dynamics” Springer - Verlag,Berlin. pp. 106-122.
16)Rorhhaupt,K. O. (1993) Rotifers and continuous culture techniques, Model systems for testing mechanistic concepts of consumer-resource interactions in “Plankton Regulation Dynamics” Springer-Verlga, Berlin, pp. 178-192.
17)小磯雅彦,友田 努,桑田 博,日野明徳(2005)ワムシの増殖と生産コストに及ぼす連続給餌の効果. 栽培技研,32,1-4.
 給餌量

 ワムシへの適正な給餌量は,培養方式や使用するワムシの種類によって多少変動します。
 給餌量の目安として,ワムシの種類別に目標とする増殖率を導き出すために必要な“濃縮淡水クロレラ”の給餌量を表3に示しました。
 これとワムシ講座の第2回の“培養水温と塩分”でのワムシの増殖率(表1)と組み合わせることで,施設や予算に合わせたワムシの培養計画が検討できるでしょう。


 第3回のまとめ

・濃縮淡水クロレラやパン酵母は,海水中では短時間で死滅し,

 また水槽底に沈下しやすいため,
 連続給餌を採用する等,給餌方法を工夫する必要がある。

・培養水温と塩分でワムシの増殖能力が決定されるが,

 この時給餌量が適正量でなければ,
 その増殖能力を引き出すことができない。



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