独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.67 世界を相手にズワイガニの話をしてきました
2009.11.27
小浜栽培漁業センター 山本 岳男
2009年11月8日〜12日に中国の上海海洋大学で、国際カニシンポジウムが開催されました。
これまで特定のカニ類のシンポジウムは開催されたことがあるのですが、
カニ全般を扱ったものは今回が初めてです。

シンポジウムは、カニの養殖と資源管理に関する課題と
その対策を持ち寄って議論することを目的として行われ、
世界の18ヶ国から141人の研究者と養殖の関係者が参加して、7つのテーマ
(1.カニ類の生理・生態、2.親ガニ養成、3.幼生飼育、4.種苗の育成、5.遺伝子と選抜育種、6.資源増殖と資源管理、7.加工流通)
について、46の口頭発表と67のポスター発表が行われました。

日本からの参加者は、
東京海洋大学の浜崎准教授、
水研センターから瀬戸内海区水産研究所の小畑氏、
玉野栽培漁業センターの團氏、
北海道区水産研究所の市川氏、私の5人でした。

それぞれの発表内容は、
口頭発表では浜崎准教授が「ガザミ類の栽培漁業全般」、
小畑氏が「ガザミの放流効果」(参照:トピックスNo.101134)、
團氏が「ガザミ類の幼生に出現する形態異常」、
ポスター発表では市川氏が「ケガニ幼生の栄養要求」、
私が「ズワイガニの種苗生産技術」(参照:トピックスNo.149)でした。

会場が上海ということで、
着くまでは観光パンフレット等で有名な近代的なビルが立ち並ぶ街でのシンポジウムを想像し、
夜は上海ガニと中華料理に舌鼓、と夢を膨らませていましたが、
空港で出迎えてくれたスタッフと話すうちに、その夢はあっけなく砕けました。

聞くと、
「大学の周辺には観光地どころか民家もほとんど無い」
「買い物ができるのは学内のスーパー1件のみ」

おまけに
「上海市内までのバスはあるが片道2時間かかるし、
しかも大学前には頼まないと止まってくれないので、行こうと思わないほうが良い」
とのこと。

スタッフの車に揺られて着いた先は広大な原野の中にある大学。
本当に周りには何も無く、シンポジウムに集中するには最適でした(泣)。

  見渡す限り広がるキャンパスに唖然。左の高い建物がシンポジウム会場です。
さて、シンポジウムの様子ですが、
ガザミ類について口頭発表を行った浜崎准教授、小畑氏、團氏は
海外での発表経験があることから、流ちょうな英語で堂々と発表していました。

ガザミ類は世界中で広く養殖されていること、そして種苗生産に関する技術は日本が先進地であることから、
3人には幼生の栄養要求、病気の問題、生残状況、放流後の回収状況について多くの質問が出され、
日本の技術が世界から注目されていることを実感できました。
そして3人とも、質問には台本等を見ずに答えていたのが印象的でした。
私だったら質問の意味を理解できずにオロオロしそうな場面です。

  口頭発表を行う小畑氏(左)と團氏(右)
私が行ったポスター発表は、初日の夕食後7時半〜9時半に議論する時間が設けられ、
発表者がポスターの前に立って興味を持ってくれた人に内容を説明して質問を受けるという形式で予定されていました。

しかし当日は昼から豪雨。
道は水深数cmの川になっていました。

こんな天気の中を夕食も終えた人たちは来るのだろうかと思いながら、
ずぶ濡れになって会場に着くと、案の定ガラーン・・・。
せっかく来たのにという残念な気持ちと、内心英語の洗礼を受けなくて済むかもとホッとしたのも束の間、
スタッフの中国の学生達に囲まれました。

中国沿岸に生息しないズワイガニが珍しいようで
質問は多岐に亘り、ズワイガニの名前の由来や値段、資源の状態、漢字でどう書くのか、
上海ガニとどっちが美味しいか(正直にズワイが上と答えました)、といった専門外のことも多く、
英語がペラペラな彼らに恥ずかしい思いをしながら漢字での筆談も交えて必死に答えました。

結局、最後まで各国の参加者はあまり現れず、受けた質問の9割ほどは学生からでした。
しかし、シンポジウムの最終日までにポスターの前に置いていた配布用の資料は30枚ほどなくなり、
またシンポジウム中にも何人かから名刺を頂いたことから、学生以外にも興味を持ってもらえたようでした。

  熱心な中国の学生たちと
今回のシンポジウムのテーマはカニ類全般に関するものでしたが、
各国からの発表内容はほとんどが養殖に関するものでした。

養殖と栽培漁業は近い関係にあること、そして日本では栽培漁業の研究が盛んなことから、
各国の参加者から
「昔、日本の大学で勉強した」
「○○栽培漁業センターで技術を学んだ」といった声が多く聞かれ、
また
「日本に留学したい」という若い参加者もいました。
私は海外での発表は初めてだったのですが、
このように日本が世界から注目されていることが実感できたのは非常に良い刺激になるとともに、
これからも成果を積極的に海外に発信していく必要があると強く感じました。
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