独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.26  三陸の海から―宮古魚市場のこぼれ話(4)
2008.05.29
「キツネ」と「タヌキ」の化かし合い・・・・担当者は泣かされっぱなし、イヤハヤ 宮古栽培漁業センター 場長 有瀧 真人
日本昔話・・・私も幼少の頃、かじりつくようにしてテレビのアニメ版を見ていました。
そのシリーズ中、キツネとタヌキは幾度となく登場する重要なキャラクターで、
キツネは小狡くって機転が利く「つっこみ」、
タヌキはどちらかというとドジばっか踏んでる「ボケ」ってかんじでした。
この両キャラ、共通の特技があります。そう、“化かす”んです、人間を。
お話の冒頭で必ず、おじいさんやおばあさんが化かされて泣きを見ていましたっけ・・・。
ところが、栽培漁業の現場でも泣かされているんです、キツネとタヌキに。
それも大泣き。

宮古栽培漁業センターでは、北に棲むメバルの仲間を
「定着性魚類」(放流した後あまり移動しない魚)のモデルとして技術開発を行っており、
クロソイについては、さいばいコラム(No18)やトピックス(No089)、さいばい日記(連載中)でご紹介してきました。
当センターではこのほかにも、メバルやムラソイ、キツネメバルに関しても研究を行っています。



キツネメバル

今回、主役はこのキツネメバルです。
エッ?キツネがいるんならタヌキもですって?それは追々。

キツネメバルは、北方性のメバル属魚類で北海道では「マゾイ」と呼ばれ、刺身や鍋の具材として使われる高級魚です。
宮古ではムラソイやクロソイと並んで多く漁獲される魚ですが、こちらでも他のソイ類に比べると少々高値で取引されています。
栽培漁業を始めるには、まず対象となる魚が、いつ、どんなサイズが、どこでどれくらい、どのように水揚げされているかを魚市場で調査します。
当センターでも担当者が朝な夕なに市場へ赴き、データーを収集しています。

一方、キツネメバルのごく近縁種にタヌキメバルというのもいて、
物の本では、両種の仕分けは尾鰭が白く縁取られている(タヌキ)か否(キツネ)か、とあります。

タヌキメバル



しかし、市場でキツネを生きたまま購入して飼い続けると・・・尾鰭の縁が白くなるんです。
このあたりから私の中で“キツネ”と“タヌキ”の関係に??が付き始めました。

ある時市場で一生懸命“キツネ”と“タヌキ”の調査をしている担当者に、
私:「ねぇ、ねぇ。キツネとタヌキの区別はついてる?」
担当者:「完璧です」
私:「(明らかなキツネをさして)これはどっち?」
担当者:「キツネです」
私:「(怪しげな個体をさして)ほー、じゃこっちは?」
担当者:「・・・タヌキ・・・だと思います」
私:「(再度怪しげな個体をさして)ほっほー、んじゃこれは??」
担当者:「・・・顔つきがキツネっぽいですね・・・キツネじゃないですか?たぶん」

よくよく見ていくと、体色から、明らかな“キツネ”(黒っぽくて紋様が不鮮明)と、
明らかな“タヌキ”(小豆色がかって紋様が鮮明)の他に
“キツネっぽいタヌキ”や“タヌキっぽいキツネ”がごろごろいます。
キツネ系は岸近くで、タヌキ系は沖合で漁獲されるようですが、これではちゃんとした調査になりません。

急遽、魚の分類を研究している大学に確認したところ、
“キツネ”と“タヌキ”は別種として区分されるものの、今のところ遺伝子を調べるほかなく、
外見でしっかり識別できる特徴がないことがわかりました。
そうすると、今、宮古で“キツネ”としている魚が本当にキツネメバルなのか???
“タヌキ”としている個体がタヌキメバルなのか???わからないことになります。
キツネメバルの栽培漁業をやっていたつもりが、よくよく調べたらタヌキメバルだったなんてしゃれにもなりません。
また、区別がつかないため、結果的に両種の雑種を海に放流するようなことがあってはなりません。
昔話でキツネとタヌキに化かされる話を耳にしてはいましたが、まさか魚市場でたぶらかされるとは。

当センターでは、本腰を入れて「キツネ」と「タヌキ」の分類に取り組むことにしました。
おそらく、全国各地から両種のサンプルを集め、研究者と連携して外見のみならず遺伝子レベルで調査することになると思います。

今日も担当者は、魚市場で一生懸命“キツネ”と“タヌキ”の調査をしています。
頭をひねりながら「これはタヌキ!!・・・だヨネ?」、「こっちはキツネ!!のハズ?」。
昔話では、おじいさんはキツネやタヌキに化かされないよう眉につばをつけて、こう、3度唱えていました。
「地蔵さんの屁は臭い!!」
・・・迷ったときはやってみたら?
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