独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.089 クロソイの放流効果−放流した稚魚がお母さんになって帰ってきています−   2006/07/03
 クロソイは全長50cm以上に成長するメバルの仲間です。成長が速く,放流してもあまり動かないこと,また,白身で刺身,塩焼などで利用されるおいしい魚であるため,特に漁業関係者からの栽培漁業への期待は高く,北日本の重要な対象種となっています。
 皆さんよくご存じのタイやマグロは卵を産みますが,クロソイは直接子供を産むことが特徴で,大きな雌は一度に20万尾以上の子供を出産します。産まれた子供は,哺乳類のように親と同じ形ではなく,他の魚の子供同様,鱗もなく,鰭も弱々しい形をしています。

写真1 クロソイ

写真2 クロソイの子供(約1cm)
 宮古栽培漁業センターではクロソイの種苗生産を行っています。クロソイは毎年5〜6月に子供を産み,産まれたときは7mmぐらいの大きさです。わたしたちは4ヶ月かけて約10cmになるまで大切に育て,9月に宮古湾(岩手県)へ放流しています。放流場所は天然のクロソイの子供達も多く生活する湾奥の藻場を選びます。藻場とは海中の草原のような場所のことを言います。
 人間の場合,社会へ出る第一歩として子供を幼稚園に入れますが,クロソイの場合も同様に, 10cmの幼い魚では自然環境に慣れる能力がまだ弱いので,波が穏やかで,子供の魚の餌となる生物が豊富,また,外敵となる大きな魚が入ってこられない『幼稚園』にあたる藻場に放流しないと,生き残っていけません。手塩にかけたクロソイの子供たちの将来がかかっているため,このように放流場所の選択はとても重要です。
 宮古湾や周辺の魚市場で放流したクロソイが漁獲されているか調べるため,放流するクロソイには標識(印)を付けています。地元漁業関係者の協力のもとに調査した結果,放流された子供達は宮古湾を中心に生活し,25cm程になると漁獲されることや,魚市場に水揚げされたクロソイの30〜45%は放流魚であることなどがわかってきました。実際に宮古湾のクロソイの漁獲量は,放流を開始してから増加傾向にあり,地元漁業関係者は放流効果によるものと実感しているようです。

図1  宮古市場におけるクロソイの放流魚と天然魚の水揚げ量の変化
 また, 40cm以上に成長した大人の標識つきクロソイ(クロソイは3歳で大人になります)が漁獲されていたことが確認されました。その中には放流してから6〜7年経った,全長55cm重さ3.3kgのお腹の大きな『お母さん』クロソイもいました(写真3)。このお母さんクロソイが獲れた4〜5月はちょうど出産時期に当たり,天然の魚と同様,自分の子供の生き残りと成長を考えてか『幼稚園』の近くまで移動して出産するようです。
写真3 お母さんクロソイ
 このようにわたしたちの放流したクロソイは,直接市場に水揚げされるなど放流効果が目に見えるばかりでなく,大人にまで成長し,次の世代を増やすことにも役立っているようです。
 今後は放流に適した場所・地形を調査し,より良い『幼稚園』を探索すると同時に,放流効果をより一層高めるための条件についても調査・研究等を進めていきたいと考えています。