独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.159 クロソイの共食いはなぜ起こる? 〜「共食い」の発生要因を探れ〜  2010/07/29
宮古栽培漁業センター 野田 勉

 クロソイの種苗生産技術開発では,安定生産を阻む,いくつかの問題を抱えています。
トピックスNo.150では,飼育開始後数日に起こる「初期死亡」について紹介しました。
 今回は「共食い」について紹介します。


 共食いは同じ水槽の中で飼育しているクロソイに成長差が現れてくることで発生します(さいばい日記参照)。
写真1 クロソイの共食い
共食いには,
1.小型魚(被食魚)が大型魚(捕食魚)に噛まれて傷つき,死亡する場合
2.捕食魚が被食魚を完全に飲み込んで食べてしまう「飲み込み」
3.捕食魚が被食魚を飲み込むことができずに両方とも死んでしまう「共倒れ」(写真1)
の3つのケースがあります。

 私たちは「共倒れしたクロソイ」に着目し,捕食魚と被食魚の全長を測り,「共食い」が起こる成長差について検討しました。
 その結果,捕食魚と被食魚の全長比の平均値は1.6,最大値は2.1,最小値は1.4であることがわかりました(図)。
写真2 成長差の出たクロソイ
*2尾とも同じ日に生まれ,同じ水槽で育った個体
 つまり,小さい魚の1.4倍大きい魚が存在したときに「共倒れ」が発生し,2.1倍以上になると「飲み込み」が起こることが判明したのです。
 飼育中に全長の差が1.4倍を上回ってしまったら,共食いを防ぐため餌料を多めに与え,餌料不足にならないように気をつけることが必要です。

 また,体の大部分の鱗が完成するサイズ(平均全長約30mm)以上であれば,ハンドリングに耐えられるため,移槽や選別を行い,大型魚と小型魚を分けてしまうことが有効です。

 上記の知見を元に,「共食い」防除を目指した「成長差を縮減する飼育方法」を検討中です。今後もクロソイ種苗生産技術のさらなる向上のため,努力していきたいと考えています。
図 クロソイの種苗生産における捕食魚と被食魚の全長比
(参考:栽培漁業センター技報11号