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No.160 クロソイの種苗生産の平均生残率,80%突破!
             〜新技術のカギは「ワムシ講座」と「ほっとけ飼育」?〜  2010/09/14
宮古栽培漁業センター 野田 勉

 前回No.159のトピックスでは,クロソイ(写真1)の種苗生産で共食いが問題になっていることを紹介しました。今回は,この共食いの防除のみならず,作業時間の短縮も可能な飼育方法の開発について紹介します。

 クロソイの種苗生産では,仔魚への給餌,底掃除といった作業が欠かせず,飼育開始と同時に毎日続きます(さいばい日記参照)。
 ヒラメやマダイでは「ほっとけ飼育」という飼育方法が実用化されています。これは,魚の飼育水槽の中でワムシ培養も同時に行うという,飼育作業の軽減や作業時間の短縮を目的に開発された大胆な飼育方法です。
写真1 種苗生産したクロソイの稚魚
 そこで,「ほっとけ飼育」をそのままクロソイに応用できないか検討してみました。しかし,問題となったのが水温でした。
 ワムシ講座第2回にあるように,クロソイに用いるL型ワムシの適水温は20〜25℃。一方,どちらかと言えば冷たい海に多く棲息するクロソイの種苗生産開始時の適水温は12〜13℃です。これはワムシの増殖に適した水温よりも低すぎるので,「ほっとけ飼育」をそのままクロソイに応用するのは難しかったのです。
 ヒラメの種苗生産ではワムシの粗放連続培養法をヒントに,ワムシの収穫槽で魚を飼育する方法「ワムシ収穫槽利用飼育(収穫槽飼育)」という方法が開発されていました。この方法だと,既に栄養強化されたクロレラをワムシの餌として使用することで,ワムシの培養,栄養強化,そして魚への給餌を同時に行うことができます。加えて,飼育環境を安定させるために,あえて底掃除は行わないので,作業時間を大幅に短縮することができます。
 この方法をクロソイの飼育に応用し,ワムシの培養槽はワムシに適した水温に,ワムシの収穫槽=魚の飼育槽は,魚に適した水温に設定して,仔魚の飼育を行いました(図1)。
 その結果,成長は今までの飼育方法と同様であるにも関わらず,その変動係数(=成長の差)は通常飼育よりも低い値で推移しました。つまり,共食いの原因となる成長の差を少なくすることができると判明したのです(図2)。
 通常飼育での給餌は,1日2〜3回に分けて行うため,そのたびに餌料密度が変化しますが,収穫槽飼育の場合は,1日中餌が流れ込むので,常に十分に餌がある状況を作り出していることになります。仔魚の飼育に適した安定している環境を維持できたことが,成長の差を少なくすることにつながったと考えられます。


図1 ワムシ収穫槽利用飼育の模式図
(*クロレラHG-V12:栄養強化済みのワムシ餌料)



図2 各試験区におけるクロソイの成長と変動係数の推移



 次に,実際の種苗生産への応用のため,収穫槽飼育を通常の種苗生産の初期に取り入れ,クロソイの成長に伴って徐々に餌をアルテミアや配合飼料に変更していくように改良を加えた方法を検討しました。
 その結果,取り上げの目安となる全長30mm(稚魚の鱗が概ね完成する)サイズまで飼育できることが明らかになりました。この方法を取り入れてから,クロソイの種苗生産の生残率は上昇し,今年度の平均生残率は80%以上と高い値になりました(図3)。
 先に紹介したとおり,飼育初期に安定した環境を作り出せたことに加え,成長差が少なくなり共食いが抑制された結果,飼育後半で共倒れしてしまう稚魚の数を大幅に減少させることができたことが,高い生残率につながったと考えられます。


図3 各年のクロソイの種苗生産における平均生残率の推移
 宮古栽培漁業センターでは,この方法を他のさまざまな規模の水槽や施設へ展開できるように,また,キツネメバル(写真2)やシロメバルなど,他魚種の種苗生産への応用も視野に入れ,技術開発を行っています。これらについても逐次紹介していく予定です。

参考:水産技術2巻1号 短報 「ワムシ粗放連続培養の収穫槽と連結したクロソイの
    種苗生産初期飼育の有効性」
    トピックスNo.156 クロソイの栽培漁業技術
写真2 収穫槽飼育で種苗生産したキツネメバルの稚魚