独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.104 マダラ資源増大への挑戦−2 〜放流した稚魚を漁獲サイズで発見!〜  2007.03.16
能登島栽培漁業センター 手塚 信弘
 マダラは冬の北部日本の代表的な水産物です。日本海北部では,1990年まで2,000〜5,000tの漁獲量がありましたが,それ以降は1,000〜3,000tに減少していますし,能登島栽培漁業センターのある石川県の漁獲量は,1990年まで日本海北部の30〜50%を占めていましたが,近年は10%以下までに低下しています。
 能登島栽培漁業センターでは,この様な状況の中で,種苗放流によるマダラ資源増大への期待を背景に,1985年から当歳魚の放流試験を実施してきました。種苗生産技術の向上に伴い, 2003年から40〜60万尾/年(平均全長38〜40mm)の放流ができるようになりました (図1)。この成果については,このトピックスでも過去に2回,2005.5.25「マダラ種苗50万尾放流しました」 「2006.5.11マダラ資源増大への挑戦」と題して紹介しました。放流する魚には,すべて耳石標識を施しました(標識の詳細については2006.5.11のトピックスをご覧ください)。耳石標識のメリットは小型の稚魚に大量に付けられることですが,外見的には天然魚と放流魚が判別できないデメリットがあります。
当歳放流魚の調査
 能登島栽培センターでは,2003年に放流した当歳魚は翌年末に漁獲に適した大きさになります。マダラ漁獲シーズンの2004年12月〜2005年3月にかけて,七尾公設市場で標本調査を行いました。この期間に280尾のサンプルを入手し,耳石を観察しましたが,放流魚は発見できませんでした。放流した稚魚が悪かったのか,調査の方法が悪かったのか悩む日々が続いておりました。そこで,2005年の同期間に,七尾公設市場に加えて,石川県漁協能都町支所からもサンプルを入手するなどして,前年よりもさらに多い,657尾のサンプルを集めました(表1)。
 その結果,初めて2尾の放流したマダラを市場で発見することができました。発見したマダラはその大きさから2003年に放流した3歳魚と考えられました(表2)。大きさから,2年間で,写真1に示した様に1kgを越える立派な大きさに成長して帰ってきたことになります。確認されたのは未だ2尾に過ぎませんが,平均全長39mmで放流した稚魚を初めて発見したことは,マダラの放流技術開発を進める上で大きな前進だと考えています。
表1 市場での耳石標識魚調査用サンプルの入手状況
シーズン 市場 入手 全長
期間(月日) 尾数(尾) 平均(mm) 最小(mm) 最大(mm)
2004年12月〜2005年3月 七尾公設市場 12/17〜3/30 280 426 294 730
2005年12月〜2006年3月 七尾公設市場 12/7〜2/6 295 548 425 786
能都町漁協 10/14〜1/20 362 543 197 668
表2 市場で発見された耳石標識魚
市場 年月日 全長(mm) 体重(g) 雌雄 年齢*1 放流データ
尾数(万尾) 平均全長(mm)
七尾公設市場 2006/2/2 490 1140 3歳 2003年 58 39
能都町漁協 2006/1/21 580 1859 3歳 2003年 58 39
*1:年齢は全長からの推定値

写真1 再捕魚と同サイズのマダラ
今後の進め方
 これまで,全長30mm,60mmサイズで放流する稚魚には耳石標識をつけてきました。これらの放流群の調査は継続しつつ,どのサイズで放流するのが最も有効なのかを見極めるため,さらに大きなサイズでの放流試験を計画しています。その調査には,外見から放流魚と分かる標識を付け,市場で調査する方法が有効と考えています。そのためには,大きく稚魚を育てる技術,放流後の生き残りを高める放流技術を検討する必要もあります。この様な努力を積み重ねた上で,稚魚の大量放流試験を継続し,マダラ資源の増大に向けて積極的に貢献したいと考えています。