独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.085 マダラ資源増大への挑戦 〜マダラ稚魚の大量放流に4年連続で成功!〜   2006/05/11
はじめに
 マダラは鍋やお刺身はもちろん,白子や真子も美味しいので知られています。高級魚としても知られ,1尾の値段が1万円にもなることがあります。しかし,マダラの資源は過去の経過から見ても現在低い水準にあり,さらに減少傾向にあると言われています。このため能登島栽培漁業センターでは稚魚放流によるマダラ資源の回復を目指して1982年から,採卵や種苗生産(稚魚の飼育)の技術開発を行ってきました(写真1)。その成果も着実に実り, 2006年も稚魚41万尾を放流することができました。これで,2003年から4年間連続で全長30〜60mmの稚魚を毎年40万尾以上放流できました。以前のトピックスでも紹介したように,早期採卵技術の開発により,全長50〜60mmの大型稚魚の放流も可能となりました。

 能登島栽培漁業センターでは,種苗生産技術の進展に伴い,次のステップであるマダラ稚魚に適した放流条件の検討を開始しました。この目的は,センターの前面に広がる七尾北湾を調査海域として,放流の時期や稚魚の大きさを変えた放流試験を実施し,放流後の生き残りの状況を調べて,マダラ稚魚に適した放流条件を明らかにすることです。

写真1 自然産卵したマダラ親魚
マダラ稚魚の大量放流と放流条件の検討
 今年は放流に適した時期とサイズを明らかにするため,3月に全長28mmの稚魚14万尾,4月に全長27mmの稚魚22万尾を放流しました。また,4月には全長57mmの稚魚4万尾を同様に放流しました。放流効果の調査には,これら3つの放流群を識別することが必要です。このため,稚魚をALC(アリザリンコンプレクソン)色素溶液に浸けて,耳石に色を付けて標識しました。ALCは,耳石(石灰質の石のようなもので,仔稚魚の頭蓋骨下部にあり,体の平衡を保つのに機能します。)のカルシウム分に沈着し,写真2のように蛍光顕微鏡で見ると光って見えます。放流された稚魚は現在,市場に水揚げされる大きさまでに成長していないので,七尾北湾内での底曳網の試験操業や湾口部に位置する定置網での漁獲物調査により,放流後の稚魚の生息場所や生残状況を調べているところです。
写真2 マダラ放流群別の全長と耳石標識の違い
マダラ稚魚に適した標識
 放流したマダラ稚魚の資源への添加効果は,最終的には魚市場に何匹の放流魚が水揚げされるかによります。ALC標識のメリットは小型の稚魚に大量に付けられることですが,外見的には天然魚と放流魚が判別できないデメリットがあります。したがって,小さな幼魚では問題ないのですが,放流効果の判定に必要な成長した大きな成魚を沢山購入することは,費用も高くつき実際的ではありません。また,漁業者も放流したマダラと天然のマダラの区別がつきません。このために,市場で水揚げされている多くの魚から,一見して放流魚と判別できることがたいへん重要なのです。そこで,全長50mm程度の小型のマダラ稚魚に付けることが可能な標識を検討しました。その結果,腹鰭の片側を抜き取ってしまう腹鰭抜去標識が成長に伴う抜去した鰭の再生も少なく,マダラ稚魚の標識に適していることが分かりました(図1,写真3)。このことから,4月に放流した全長57mmの稚魚4万尾のうちの1万尾については,腹鰭を抜去して放流しており,ALC標識魚を併せて標識魚が2〜3年後に大きくなって市場に水揚げされるのを期待しているところです。
図1 標識別の装着時平均全長と8日後の生残率の関係 写真3 腹鰭抜去6ヶ月後のマダラ腹部
終わりに
 マダラ資源の回復にむけて,着実に技術的な成果が積み上げられています。しかし,目的に向けて,放流魚が健全かどうか,標識や調査方法が適切か,放流場所,放流サイズは適当かなどについて,さらなる改善や検討が必要と考えています。
 この技術開発には多くの機関の方々のご理解とご協力が無くては実施すら不可能なものでした。富山県,石川県の両水産試験場をはじめ,市場調査に協力頂いている七尾公設市場と能都町,すずし,氷見の各漁業協同組合,親魚の確保や調査に協力して頂いている,ななか漁業協同組合及び漁業者の皆様に心から感謝いたします。