独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
ワムシ講座
 第10回 ワムシのサイズ 2010.10.15掲載
 これまで9回にわたってワムシの培養技術を解説してきましたが,今回はこの流れから少し外れ,ワムシの大きさ(サイズ)に焦点を当てたお話しをします。

 通常,ワムシのサイズは,被甲長もしくは背甲長(両者は同じ意味)の長さで表します(写真)。S型ワムシが100〜210μm,L型ワムシが130〜340μm1)で,ワムシのタイプでサイズが異なり,また,同じワムシでも水温2,3),塩分4),餌料5−7),及び飢餓8)などの培養条件によって,サイズが10%前後変化することが報告されています。


      ワムシの背甲長測定部位


 ふ化したばかりの小さな仔魚は,自分の口の大きさに合ったサイズのワムシを選んで食べることが知られています。特に,クエ・マハタなどのハタ類はふ化仔魚の全長が2mm以下とマダイやヒラメに比べて極端に小さく,口も小さいため,S型ワムシの中でもより小型のワムシを選んで食べることが報告されています9−11)
 また,仔魚は成長するにつれて,より大きなワムシを選ぶようになることも知られています10)。このため,魚の口に合わせたサイズのワムシを与えることは,飼育の重要なポイントです。

1)大上晧久,前田 譲(1977)シオミズツボワムシの変異に関する研究−I.形態と大きさの変異について.昭和52年度日本水産学会春季大会講演要旨集,25.
2)福所邦彦,岩本 浩(1980)シオミズツボワムシの大きさの季節変化.養殖研報,1,29-37.
3)北島 力,青海忠久,小川敏行,小倉敏義(1981)大型水槽におけるシオミズツボワムシの増殖について.栽培技研,10,99-107.
4)呉羽尚寿,天下谷昭文(1978)ワムシの個体群繁殖に関する実験的研究−II.体幅の大きさの変異.水産増殖,26,88-95.
5)福所邦彦,岩本 浩(1981)シオミズツボワムシの大きさにおよぼす餌の影響.養殖研報,2,1-10.
6)Fukusho,K.and M.Okauchi(1982)Strain and size of the rotifer, Brachionus plicatilis,being cultured in Southeast Asian countries.Bull. Natl. Res. Inst. Aquaculture,3,107-109.
7)岡内正典,福所邦彦(1984)テトラセルミスTetraselmis tetratheleのシオミズツボワムシに対する餌料価値−I.バッチ式培養におけるワムシの増殖.養殖研報,5,13-18.
8)小磯雅彦,桑田 博,日野明徳(2005)短時間の飢餓がシオミズツボワムシの生残,発達,生物学的最小形および卵の大きさに及ぼす影響.水産増殖,53,1-5.
9)與世田兼三,浅見公雄,福本麻衣子,高井良幸,黒川優子,川合真一郎(2003)サイズの異なる2タイプのワムシがスジアラ仔魚の初期摂餌と初期生残に及ぼす影響.水産増殖,51,101-108.
10)田中由香里,坂倉良孝,中田 久,萩原篤志,安本 進(2005)マハタ仔魚のワムシサイズに対する摂餌選択性.日水誌,71,911-916.
11)川辺勝俊,木村ジョンソン(2007)選別した小型S型ワムシを用いたアカハタの種苗生産.栽培技研,35,11-21.

 ふ化後の成長

 L型ワムシを水温25℃,塩分26psuの条件で培養し,餌として市販のクロレラを十分量与えた場合のふ化後の成長(サイズ変化)を図10に示しました。
 卵径は約140μmですが,ふ化直後には175μmとなり,ふ化16時間後には282μmに達しています。その後,成熟して卵を持つと成長が鈍り,ふ化10日後でも背甲長は316μmに留まります。
 このような成長から,ワムシは取り込んだエネルギーの多くを成熟するまでは成長に利用しますが,成熟すると卵形成(再生産)に利用することがわかります。


 小型ワムシの重要性

 マハタの仔魚は初めて餌を食べる時,ワムシ個体群の中でも121.5±15.2μmの小型のワムシを選んで食べること10)が報告されています。
 図11には,一般的なS型ワムシを用いて水温25℃,塩分26psuの植え継ぎ培養を行った場合の3日目のサイズ組成を示しました。この組成に,前述のマハタ仔魚の選択摂餌サイズを当てはめると,仔魚にちょうど良いサイズのワムシは全体の2割程度しかいない(残りの8割はサイズが大きすぎて食べられない)ことがわかります。
 体も口も小さい魚種の種苗生産では,小型ワムシをいかに確保するかが重要なポイントになります。実際の現場では,飼育水中のワムシ密度を30個体/ml(通常は10個体/ml前後)まで高めて,小型ワムシの絶対量を増やす方法11)や,ネット選別して小型ワムシを選択する方法11),通常のS型ワムシ(背甲長:180±13μm)よりもさらに小型のSS型ワムシ(同:170±10μm)を給餌する方法9)などがとられています。
 ワムシはふ化後に急成長し,比較的短時間で成熟個体と同じサイズに達するため,総卵率の高いワムシ個体群を給餌して,いつも仔ワムシが卵からふ化している状況をつくり出すことも有効な手法の1つです。

 ワムシの増殖状態とサイズ

 植え継ぎ式培養(第6回参照)におけるワムシの増殖状態は,まず,ワムシ個体数が急激に増える“対数増殖期”があり,その後,有機物の蓄積などの水質悪化により個体数が停滞する“定常期”を経て,さらなる水質悪化により個体数が減少し始める“退行期”に至ります(図12)。
 それぞれの増殖状態におけるワムシサイズ組成を図13に示しました。対数増殖期や定常期に比べ,退行期には小型個体や大型個体(赤丸部分)がいなくなることがわかります。これは,水質悪化に弱い若齢個体や高齢個体が死亡するため12)と考えられます。
 また,このような現象は不適切な栄養強化方法でワムシを衰弱させた場合(第9回参照)にも起こります。仔魚が餌を食べ始める時にワムシの培養不調や栄養強化のトラブルが起きていた場合には,小型ワムシしか食べられない仔魚に,小型ワムシがほとんどいないワムシを給餌している恐れがあります。










12)小磯雅彦,日野明徳(2002)シオミズツボワムシの大量培養における増殖停滞の機構に関する研究.水産増殖,50,197-204.

 以上のように,ワムシのサイズは種苗生産成績を左右する重要な要素です。飼育仔魚の各成長段階で,摂餌可能なワムシのサイズを把握して,適正なサイズのワムシを給餌することが肝心です。
 第10回のまとめ

・ 魚種や成長段階によって,仔魚が好んで食べるワムシのサイズは異なる。


・ ワムシはふ化後急成長して,約1日で成熟個体と同じサイズになる。





第9回 ワムシの栄養強化 | ワムシ講座目次へ | 第11回 ワムシの質