さいばいコラム
No.51 ウナギの生まれ故郷へ〜調査船「開洋丸」乗船記〜 その6
2009.4.14
南伊豆栽培漁業センター
場長 加治 俊二
前回のお話→
5月26日、航海6日目。
今日から昼前に起床。これまでの昼食がけっこうな量の朝食となる。
8時半のミーティングはなくなり、15時に当日の仕事の段取りをブリッジで打ち合わせる。
「その3」で述べたように、今年のウナギ産卵場は北緯14°14′、東経142°56′に位置する
山頂水深40mほどのスルガ海山だと推定した。
18時、そのスルガ海山の西北西およそ180kmのSt.E5(北緯14°45′、東経141°20′)に到着。
言い忘れていたが、24日の夜には北緯16°あたりで白鳳丸が
ひと月前の新月に生まれたと思われるレプトケファルスを、3個体だけだが捕まえている。
いよいよ、まだ誰も見たことのない成熟ウナギの匂いを感じてきた!!とか言いたいところだが、そんな感覚は湧かない。
これから、さらに海山に近付いて中トロを曳き回すわけだが、
産卵場所、産卵水深、産卵時間をピンポイントで特定できているわけではない。
もっと言えば、今年(平成20年)の産卵場はスルガ海山ではないかもしれないのだ。
親ウナギに出会える可能性は限りなく小さいとみんなが思っている。
そんな状況で、とりあえず、これまでの知見から(薄い薄い知見だが)、水深帯を180〜250m(水温20℃くらい)あたりに絞り、
その日その日の海域の流れや海底地形などをにらみ、海の男達の意見を聞き、曳く場所を決める。
最終的に判断を下すのはちょっと強面のT調査隊長だ。
プレッシャーは如何ばかりだろうか、・・・・・隊長じゃなくて良かった。
海山西側で仔魚採集中の白鳳丸を発見!
この海域で唯一出会える人工物だ。
一方、それに比べればはるかに小さいプレッシャーだが、
私も本業のレプトケファルス飼育のほうで、何かオモロいことを探さねばならない。
ここ数日、IKMTで採取した甲殻類やヤムシやサルパへの反応を観察したり、それらをすり身にして食わせてみたり、
CTDで採取した水深160〜170mの海水の中に入れてレプトケファルスの動きを観察したり、
船が漂泊すると飼育室の排水の水はけが悪くなるので、しょっちゅう様子を見に行ったりと、そこそこに忙しかった。
さて、調査のほうは昨日と同様にCTDから始まる調査を開始するが、目立った成果なく終了。
5月27日、航海7日目。
18時前にSt.E6(14°45′N、142E)に到着、スルガ海山まで120km弱。
18時から調査開始するも成果なし。
調査終了後、船はスルガ海山を目指して動き出した。
余談だが、この日、チャートではあるとされている水深200mちょっとの海山が存在しないことが判明した。
この海山はチャートでは破線囲みになっており、少しあやしい情報だぞという表示で、
航海頻度の低い海域にはこういう不確実な情報もあるそうである。
海は広いな、大きいな。なのだ。
5月28日、航海8日目。
正午頃にSt.E7(14°18′N、142°51′E)に到着、すぐそこの海の中にはスルガ海山が聳えているはずだ。
この日は13時からCTDでの測定とアイオネスでの水深別プランクトン採集を実施した後、
船は海山および海山周辺の詳しい海底情報収集のため縦横に動き回る。
中トロは一休み。
新月まであと1週間。
5月29日、航海9日目。
台風5号が発生してやや時化るが、我が三半規管に動揺なし。
今日も昨日に引き続き、船は海山周辺の詳細な海底情報を収集していた。
その結果だが、スルガ海山の南西10kmと14kmに水深600mと350mの2つの小山があることがわかり、
それぞれ小海山1、小海山2と仮称する。
この小海山2が我々をワクワクさせてくれることになる。
この日は、17時頃、海山西のSt.E8(14°14′N、142°52′E)でCTD測定後、親に狙いを絞るためにIKMTは無しで中トロを2回曳く。
2回目の中トロでクロシビカマス5尾とアブラソコムツ1尾が獲れ、胃内容物を確認するが何も出ず。
今日も残念ながら成果なし。
作成途中のスルガ海山周辺の海底図
奥からスルガ海山、小海山1、小海山2
クロシビカマスの頭部
お腹にウナギは見つからず
5月30日、航海10日目。
17時頃、海山東のSt.E10(14°14′N、142°57′E)でCTD測定、昨日と同様にIKMT無しで中トロを2回曳くも成果なし。
だが、2回目の中トロ曳網中、23時30〜40分頃、小海山2を通過した時にその頂上の上に魚群が認められた。
中トロ終了後、4時頃に再び小海山2へ行ってみると、魚群はさらに濃密となっており、
5時前には、水深200〜250mまで浮上して密度も最大を示した。
すわ、ウナギの産卵場所をピンポイントで発見か!!!
この時のブリッジは色めき立っていた(らしい)。
この頃、私はと言えば、仕事を終えて風呂に入り(風呂はほぼ何時でも入ることができる)、
寝る前にレプトケファルスの様子を見とこうかと、飼育室へ。
何気なく向かいの部屋のモニター(船内の至る所にモニターが置いてあり、
航路や魚群探知機の画像などを常時確認できるようになっている)に目をやると上述のような魚群の動きに出会った。
しかし、脳天気なおじさんは、「おぉ、オモロい。オモロい。こんなに鮮明に写るんか、すげぇ。ラッキーや。」と
魚群の鮮明さや形の変化に感動し、ブリッジの騒ぎをよそにモニターをデジカメで撮影していた。
小海山2の頂上で動き回る魚群(赤い円内が魚群。黄色や赤が濃密な部分) 左:5月31日午前4時10分 右:5月31日午前4時40分
(
その7
に続きます…)
←前のコラムへ
|
コラム一覧へ
|
次のコラムへ→
→トップページへ戻る
|
本部
|
開発調査センター
|
北海道区水産研究所
|
東北区水産研究所
|
中央水産研究所
|
日本海区水産研究所
|
|
遠洋水産研究所
|
瀬戸内海区水産研究所
|
西海区水産研究所
|
養殖研究所
|
水産工学研究所
|
(c) Copyright National Center for Stock Enhancement,Fisheries Research Agency All rights reserved.