独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.48 ウナギの生まれ故郷へ〜調査船「開洋丸」乗船記〜 その5
2009.2.18
南伊豆栽培漁業センター 場長 加治 俊二
前回のお話→
5月25日、航海5日目。東経は昨日と同じ141°のまま、ひたすら南へ。
3時半。
北緯16°のSt.E3に到着、CTDのみ。

17時40分。
北緯15°のSt.E4に到着。
ウナギの産卵場と目される場所まで来た。
いよいよ秘密兵器、「中層トロール」の登場だ。
以後,船で愛着を持って呼んでいた「中トロ」と称す。

この中トロ。
元々は表層にいるサンマ用に開発されたものだそうで、
今回予定している水深200〜300mを曳くのは結構難しく、
この調査の前に試験操業して色々と曳網水深をキープする工夫がされたそうだ。
素人目には表層だろうが中層だろうが大して変わらないようだが、
同じトロールと言っても用途別に細分化されているものらしい。

まずは、いつものようにCTD投下後、IKMTでプランクトン採集(CTD、IKMTについては前回の乗船記参照)。
引き続き、中トロ投網作業に入ったが、素人が手を出せる余地はない。
以前にも述べたが、本格的な漁労作業なので、何かあると大きな事故につながりかねない。
初投網の前に豊漁と無事故を願って中トロと甲板をお神酒で清めた後、我々は実験室へ戻り、
我々の専門であるウナギ仔魚あるいは受精卵探しのためのソーティングを
前回述べたような段取りでちまちまと始める。








船の神棚
船乗りたちは今でも信心深いのだ
それでも、作業中の緊張したやり取りが船内放送で常時聞こえてくる。
気になるのとソーティングに飽いてくるのとで、甲板上の指定された安全ゾーンまで出向いて作業を覗く。
ただ、袋のような網があるというわけでは無い。
網口をきれいに開かせるためには、上下の広がりを保たせるためのカイトと呼ぶ浮きと
一人で引きずるのがやっとの錘10〜12個、
左右の広がりを保たせ、かつ、網全体を安定させるための一対のオッターボード。
これらの器材をうまく使いこなさねばならない。
しかも、夜間の作業なのだ。
船のスピード、中トロの左右ロープのバランス(でっかい糸巻きが2つ並んで各々が左右のロープをコントロールする)、
中トロの網なり調整など、どれもが相互に微妙なバランスやタイミングが必要なのだ。
ブリッジ、操作室、そして甲板の全員の連携作業が必須となるのは言うまでもない。
 中央の太いワイヤーロープの手前が安全ゾーン  カイト (クレーン操作が必須)
 錘(おもり。特大のチェーンをロープで被覆したもの。
 左右に5〜6本装着している)
 オッターボード投下中
(網をきちんと広げるために左右一対で機能する)
そんな光景の中で私にとって何よりも印象的だったのは中トロという網の構造の複雑さだった。
大小さまざまなロープが縦横に入り乱れるように編み込まれている。
おそらく緻密な計算や操業実験の試行で磨かれていった結果なのであろう。
これらが全て意味を持って機能していることを思うと、
単なる網というより精密な機械と言っても過言ではないように感じた。

さて、約3時間の曳網を行い(投網と揚網の時間を加えると4〜5時間)、網が揚がって来た。
どれほどの漁獲物(採集物)があるのか?
その漁獲物が最終的に集積される中トロの一番先っちょのコッドエンドはどんだけ膨らんでるのか?
揚がってくる中トロの袖の部分に絡まっている採集物を
安っぽいチリ取り片手に拾いつつ、わくわくして待つ。

しかし、拍子抜けだった。
トロ箱にして2〜3箱程度だろうか、微々たる量だった。
考えてみると当然である。
非常にきれいな海域とは非常に生物の少ない海域と言い換えることができるわけで、
だだっ広い、深さ数千mの海域の水深200〜350mの深さのところを
ほんのわずかにかすめとった程度なのだから、こんなもんだろう。
量はともかく、要はウナギが入っているかどうかなのだ。
我々はその場で早速宝探しに取りかかる。
全量を計量した後、適量に小分けして探す。

いない。
あたりまえだ。宝くじがそんなに易々と当る訳が無い。
この日は旧暦の4月21日。
新月仮説を憶えているだろうか?
ウナギの産卵は新月の頃と推測されている。
確率はこれから高くなる一方なのだ。明日があるさ。

ウナギは無くともサンプル処理はやる。
漁獲物のうち、10〜20kg程度を実験室へ持ち込み、
魚類、イカ類、甲殻類、クラゲ類に分けて重量を測定する。
ウナギを食いそうな大物については解剖の手はずだったが、今回は無し。

3時頃に作業終了。
船は26日のお昼までウナギの産卵海域を漂泊した。

その6に続きます…)
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