独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.53 ウナギの生まれ故郷へ〜調査船「開洋丸」乗船記〜 その7
2009.4.22
南伊豆栽培漁業センター 場長 加治 俊二
前回のお話→
5月31日、航海11日目。
昨夜から今日の未明にかけて発見された小海山2の山頂で群れ踊る生物(その6参照)の採集を算段する。

その前に。
今日の未明に産卵していたとしたら受精卵が採集できる可能性が高い。
流れからして、小海山2の西側が採れる可能性が最も高い。
17時にいつものようにCTDで水質測定した後、
18時に小海山2の北西の位置でIKMTを投下し、300m水深まで落としてから巻き上げつつ
斜め上方に曳き、175m水深まで上がったら水平に曳いて、
小海山2山頂付近で揚網。いつもより長く曳いた。
そして、おじさんはいつもより熱心にソーティングした。
隊長に怒鳴られそうだが、それが人情というものだ。
結果は、残念ながらウナギらしき受精卵は発見できなかった。
話と全く関係ないがその国のEEZ内に入ったら
その国旗を揚げるのがルールだそうだ。
続いて、今日のメインイベント。
正確には6月1日未明のメインイベント。(昼夜逆転は日付がややこしい!)
おそらく、彼らが出現するとしたら同じ時間帯の可能性が大。
ということで、6月1日4時から4時半頃に小海山2の頂上を通過するように中トロを曳くことが必須となる
(こういうのをターゲットトロールと言うらしい)。
海の男達の技が冴える時である。
投網時間や曳網速度などから時間を逆算して3時頃に投網開始予定となる。
IKMTの採集物のソーティングを終えた後、司厨班に用意して頂いた夜食を食べ、しばし休息して待つ。
みんながいつもと少し違う感じである。





そして、時は来た。
報告書の観測野帳には「3時5分投網、同13分カイト投入、
同17分網なり良好、同32分オッターボード水面」などと記してある。
順調に投網が開始された。

そして3時53分、水深214mをキープしつつ曳網開始。
我々は固唾を飲んで魚群探知機の映像を見つめる。
4時17分、小海山2の頂上が映し出される。
 6月1日4時23分の小海山2の山頂
 今日も居た謎の群れ(その中心の水深は260-270mくらいだった)
居た!!
今日も群れ泳ぐなぞの生物。時間も場所もぴったりだ。
群れの水深と中トロの曳網水深からして群れの上っ面を掠めとったような感じだろうか、
ターゲットトロールが見事に成功した瞬間である。
ブリッジでは海の男達が湧きに湧いていたらしい。

4時33分、揚網開始。
5時23分、揚網終了。
この間のワクワク感はそうそう味わえるものではない。
折しも、夜が明けて、美しい朝日が昇り始めるという嘘のようなシチュエーションなのだ。
さぁ、コッドエンドには何が。
6月1日5時02分の開洋丸
調査の主軸3人が中トロの浮上を待つ
しかし、そこにウナギはいなかった。ただ一種類の魚が入っていた。
10cm程度で目が大きく体色の赤いかわいい魚達だった。
その名は、トゲメオキムツ。
図鑑には小笠原諸島、オーストラリア、ミクロネシア(海山はここ)、カリブ海に分布するとある。








トゲメオキムツ
(撮影:将来のウナギ目ウツボ科研究の第一人者)
いやーっ、楽しい1日が終わった。
何とも言えない脱力感だが決して悪い気分ではない。

話は飛ぶが、私は桂枝雀が好きで、
この航海にもDVDを持ち込んで寝る前の楽しみとしていた。
「緊張の緩和」と言うのがこの異才の落語理論だ。
的外れと言われるかもしれないが、この日の感覚はまさにそんな感じだった。
大爆笑はなかったが、半笑いで夜が明けた。
そして、さらに余談だが、この楽しい時間を与えてくれたトゲメオキムツには
敬意を表して干物とし、おいしくいただいた。
お腹に卵を持っていたかどうか記憶にない。
小海山2は彼らの産卵場だったのだろうか、餌場だったのだろうか。
干物となったトゲメオキムツ

さぁ、6月に入った。
果たして、成熟したウナギにはお目にかかれるのか
(多分、これを読んでいる方々は結果をもう知っていると思いますが敢えて言います)。

新月まであと4日。

その8に続きます…)
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