独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.34 トラフグ栽培漁業の舞台裏 (3)
2008.09.10
前回のお話:さいばいコラムNo.30 トラフグ栽培漁業の舞台裏 (2)→
コミュニケーションがモノを言う 宮津栽培漁業センター 町田 雅春
トラフグの入手で大切なこと
ようやく漁業者や仲買人にも少しずつ理解してもらえるようになりました。
しかし、あまり質の良いトラフグだけを集めていると仲買人達に取り囲まれて、
「いつまで集めるのか、こっちはお客から予約を受けているんだぞ」
と怒られることもあり、時には背筋の凍るような経験もしました。
また、市場に着くとすぐに、市場の片隅に輸送用のスチロール箱を並べて
活け込みの準備をするのですが、10箱以上並べていると、
「そんなに持って行くのかよ」
と仲買人のご機嫌を損ねることもありました。
親魚の確保には漁業者だけでなく、仲買人との良好な関係も重要です。

こうして、なんとかトラフグの親魚を確保することができるようになりましたが、
漁業者と仲買人の方々とは、仕事とは別に、とにかく“飲みニケーション”を交えながら、
さらに良好な関係を維持するための努力を惜しみませんでした(嫌々ながらでなかったのは皆さんご存じか?)。
そのため、わたしも、後輩の橋本君(現、志布志栽培漁業センター勤務)も、懐は常にパンク状態。
わたしたちが舞阪に行くたびに、忙しい中で飲みニケーションの相手をしてくれた漁業者や漁協の職員の方々には感謝しています。
でも、周囲の方々とこのような関係を作りながら栽培漁業に取り組むことが、
栽培センターの職員にとって必要な努力なのかもしれないと、個人的には思っています。
またも問題発生
平成12年10月、仲買人から親魚の入手は漁獲量の多い時にして欲しいとの申し出がありました。
わたしたちも少ないトラフグを奪い合うことや、仲買人の方に迷惑を掛けたくなかったことから、
比較的水揚げの多い解禁日(トラフグの漁期は静岡県フグ漁組合連合会で操業の申し合わせを行い、
漁期は10月1日から2月末と決められています)に合わせて親魚を入手することにしました。

しかし、思わぬ問題が発生しました。
この時期のトラフグには鰓内にヘテロボツリウムという寄生虫がたくさん寄生していたのです(写真)。
この寄生虫は鰓とその周辺から魚の血を吸うため、ヒドイと魚は貧血状態になり、
ちゃんと成長できなくなってしまいます。
活け込んだトラフグにヘテロボツリウムが寄生していると、水槽で養成している間に子虫が親虫に育ち、
さらに成熟して産卵し、どんどん増えてしまうため、被害は益々大きくなってしまいます。
鰓蓋の内側に寄生している
ヘテロボツリウム
このため、わたしたちは水揚げの多い解禁の時期に、親魚を入手することを断念せざるを得ませんでした。
トラフグ漁は10月から翌年2月までの5ヶ月間で、その間、天候の関係もあり、
出漁できる日数は多くても40日前後。
さらに、寄生虫が少なくなる1〜2月は荒天が続き、数日間しか出漁できない状況でした。
……こうなると、わたしたちには「待ち」の一手しか残されておらず、
ただひたすら漁獲がある日を待つのみでした。
こんな時には、さすがに仲買人の方達も気の毒がってか、わたしたちに協力的に接してくれました。
これも飲みニケーションの効果かもしれません。

トラフグ栽培漁業の舞台裏(4)に続きます…)
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