独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.36 トラフグ栽培漁業の舞台裏 (4)
2008.10.02
前回のお話:さいばいコラムNo.34 トラフグ栽培漁業の舞台裏 (3)→
伝授された妙技と雄集めがポイント 宮津栽培漁業センター 町田 雅春
ヤマ仁さんの技
浜名漁協の漁業者と仲買人の皆さんの協力によって、なんとかトラフグを活け込むことができるようになってきました。

しかし、その記念すべき第1回目の活込みの時に事件は起きました。
南伊豆栽培漁業センターに到着したトラフグ親魚は、白い大きなお腹をプカプカと浮かせ、
飼育水槽へ移しても正常に泳ぐことすらできない状態でした。まさに開けてビックリです。

この時は浜名漁協の市場でみられた水飲みフグ(さいばいコラムNo.32参照)とは違い、
浮き袋に空気が入って膨張した状態でした。
浜名漁協から南伊豆栽培漁業センターまではトラックで約6時間、その間の出来事…。
購入価格ウン十万円のトラフグが・・・私たちは青ざめるしかありませんでした。

しかし、ただ青ざめている場合ではなく、私たちは静岡県福田町漁協の仲買人、通称ヤマ仁さんに連絡を取ってみました。
ヤマ仁さんはこの状況を打開する方法として、注射針を使って浮き袋に貯まった空気を抜く技を教えてくれました。







浮き袋の空気抜き
  鰓の長さを底辺とした三角形の頂点の位置に
  注射針を差し込む









ヤマ仁さん
 (トラフグの活かし方の師匠)


早速、伝授された技を使って輸送中に膨らんだフグの浮き袋から空気を抜き、親魚水槽へ収容してみました。
すると、フグは正常に泳ぎ始めました。ほっと一安心です。
ウン十万の損失が避けられ、その後、南伊豆栽培漁業センターが天然トラフグの短期養成を成功させることができたのは、
ヤマ仁さんが教えてくれた技のお陰と言っても過言ではないでしょう。
いくらお礼を言っても足りないぐらいです。

このように仲買人の皆さんが進んで、私たちが抱えている問題の解決に協力してくださったのは、
日頃の一生懸命な姿勢や飲みニケーションの成果だったのではないでしょうか。
お腹をつまんで雄を集める
トラフグ親魚を1〜2月の天候の悪い時期に集めることになったため、
漁船が出漁した日には確実にフグが集められるように労力を集中するようにしました。
あらかじめ漁業者に「大きなトラフグを持ち帰ってくださいね」とお願いしていたところ、
大型サイズ(3〜4kg)のトラフグには雌が多く、そのため入手したフグのほとんどは雌という結果になってしまいました。
そこで今度は、雄が多い小型サイズ(1.5kg以下)を集めようと、
「小型サイズ(1.5kg前後)の雄を先に集めてください」とお願いしましたが、
漁業者には小型のサイズで雄と雌を区別することが難しかったようでした。
このサイズのトラフグの雄は「やや腹が横に張り、体型が丸みを帯びている」
といった特徴があることを漁業者に伝え、見分ける参考にしていただきました。

外観の特徴から見分ける方法の他に、触診で判断する方法もあります。
トラフグの下腹付近を指でつまみ、親指を沈み込ませて、
指が「滑れ」ばその部分は精巣、
指が「沈み込め」ばその部分は卵巣です。
この技は下関唐戸魚市場(南風泊市場)の職員が
養殖フグを触っただけで素早く雌雄を選別しているとの話を聞き、
そのわずかな情報を参考にして、自分なりに触ったり、つまんだり、解剖して内蔵の位置を確認しながら
独自の技として会得したものです。

仲買人から「白子が入っているか判定してくれ」と依頼されることもありました。
もしも間違えば「その程度か」と一瞬にして信用を無くしてしまいます。
しかし、お世話になっている仲買人の申し出を拒むことはできません。
逆に信頼を得る絶好の機会と捉えて、必死の思いでフグのお腹をつまんだものです。

こうして、1月に漁獲される、わずかなトラフグの中から希少な雄(約10%)を入手できるようになりました。
2月下旬頃には雄の体型は丸みを帯びた菱形の体型となるので、外観から一目で判断することができます。







トラフグの親魚(雌)







トラフグの親魚(雄)
 雄は体型が菱形




しかし、この時期の雄は精巣が大きく発達してくるため、浮き袋の付近にまで精巣が張り出しています。
空気を飲み込んで膨らんだフグから、注射針を用いて空気を抜く時に精巣を傷つけないように、細心の注意が必要でした。





左:トラフグの精巣(白子)と
右:浮き袋の空気を注射針で抜くときに傷ついた精巣




なんとか雄を10尾程度確保してからは、漁業者に大型サイズのトラフグだけを集めてもらうようにし、雌も確保しました。
この時期の雌は数ヶ月後に産卵をひかえ卵巣が大きくなっているため、親魚の短期養成には好都合です。
後日談
食材としてのフグの白子は1、2月のものが最も品質が良く、
仲買人たちはこの時期「白いダイヤ(白子:精巣)」の入っているフグを探しています。
なのに、私たちはこの貴重な数少ない雄フグを優先的に確保していた訳です。
もちろん、この時期の雄フグが貴重であることは私たちも知っていました。
こんなことをして仲買人の不満が爆発し、全面戦争が勃発するのでは…と思いきや、
意外にも私たちへの苦情は全くなかったのです。

実は、なんと、仲買人と親しい漁業者や、水産試験場の調査員の皆さんが
苦情の受け役、火消し役となってくださっていたのです。ありがたいことです。
当時はそんなこととはつゆ知らず、私たちはこのことを後日知ったのでした。

このように、各方面の関係者の方々に助けられながら1月には雄を、2月には雌を中心に、
トラフグの親魚を集めることができるようになりました。

トラフグ栽培漁業の舞台裏(5)に続きます…)
水槽にいるトラフグの雄をチェックする仲買人たち
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