|
南伊豆栽培漁業センター 場長 加治 俊二 |
|
生まれ故郷とは、言わずもがな、この世界に生まれ出でた場所あるいは地域のこと。
私の場合は「カツオのまち」、鹿児島県枕崎市。
では、ウナギの生まれ故郷は何処だろう?
それは西暦2005年にふ化後間もないウナギ仔魚が世界で初めて採集された場所。
北緯14〜16°東経142〜143°
東京からほぼ真南へ2,200km。
グアムの西300kmの大海原。
そして水深4,000mの海底から水面近くまで、富士山よろしく聳え立つ海山群。
ここに日本、台湾、中国、韓国のウナギ達がはるばる集い、新月の夜、漆黒の闇夜の中で一大産卵ショーを繰り広げる。
何とわくわくするシチュエーションだろう。
今年5月21日6時、このウナギの生まれ故郷へ向けて、調査船「開洋丸」は船出した。
目的は成熟した親ウナギの捕獲。
捕獲用の網は調査というには大きすぎるトロール網(間口の広さが横60m、縦50m!)。
捕獲の予定日時は新月6月4日の夜、
彼らが生涯最高の時を過ごしているところを狙い撃ち…という皮算用なのだ。
その調査に、場違いにも、魚介類の飼育技術の開発が専門の私が参加している。
何故か。
話せば長くなるし、つまらないので省略する。
とにかく、私は志布志栽培漁業センターが飼育していたレプトケファルス(ウナギの仔魚のこと)を携えて開洋丸に乗っている。
|
|
|
|
 |
|
ウナギの調査で有名な白鳳丸を後に
とりあえず離岸
この夜は東京湾停泊
|
|
|
|
|
予定では20日の14時出発だったが、この日は台風4号が接近中で、これをやり過ごすことになった。
ただ、海の決まりでは離岸は何が何でも予定時刻にしなくてはいけないらしく、
船は予定通り14時に晴海ふ頭を離れ、ディズニーランドの人工の山が見える東京湾内に停泊した。
しょっぱなから暗雲立ちこめる状況。
50を過ぎて初めて経験する調査航海。
子供の頃に鰹一本釣漁船に乗った時のひどい船酔いが頭を過る。
しかしだ。
調査研究の門外漢である私にとってはおそらく最初で最後になるであろう調査航海。
親ウナギ捕獲という前人未到の目的。
この航海を逃したら、それこそ一生後悔するだろう…
とかなんとか思いつつ、人間の造った貧相な、しかし金の成る山を眺めるのだった。 |
|
|
|
 |
|
|
|
翌21日6時前、ベットリと付いた東京湾の泥を洗い落とす作業を繰り返しながらアンカーを揚げ、
わが開洋丸は南へ向けて滑り出した。
と思ったのも束の間、沖へ出るに連れて台風の余波が船を揺らし始めた。
(その2へ続きます…) |