独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.077 クロマグロの初期生残率が大幅に向上 −大量生産へまた一歩前進−   2005/10/27
はじめに
 クロマグロは国際的にも重要な漁業資源として注目されていますが,近年その資源は減少傾向にあるため,我が国ではクロマグロの養殖用種苗の供給及び天然資源の維持,増大を目的として,産官学の各機関による種苗生産技術開発への取り組みが行われています。
 奄美栽培漁業センターでは1994年からクロマグロの種苗生産技術開発に取り組んできましたが,種苗の大量生産には三つの大きな問題が立ちはだかっていました。一つは病気の問題です。これは,以前のトピックスで紹介したように,オキシダント海水で卵を殺菌し,仔魚の飼育水にも殺菌海水を使用することで防除が可能となりました。しかし,残りの2つ,ふ化から10日目までに大量に死亡する問題と,体長7mmを超えるふ化後15日頃から発生する共食いを主原因とする死亡の問題は残ったままでした。今回,ふ化後10日目までの死亡の問題について成果を得ることができたのでご紹介します。
写真1 クロマグロ仔魚(日齢14 約7.5mm)
水流による仔魚の沈降防止の取り組み
 奄美栽培魚漁業センターでは,この大量死亡の原因の一つに,クロマグロ仔魚が水槽底面に沈降することがあると考え,その対策として飼育水に水流を発生させることで遊泳力の小さい仔魚の沈降を防除することを計画し,水流を発生させるための方法について検討してきました。
 その中で,水流発生方法として水中ポンプを使用する方法とエアブロックを使用する方法について検討し,ふ化後10日までの生残状況と水流の流向・流速および水深ごとの仔魚の分布状況を調査しました。
 飼育試験は,容量50klコンクリート製の8角形型水槽4面を使用して行いました。水中ポンプは,水槽中央部に設置した角形ストレーナー内に設置し,水槽底面に十字型に配置した塩ビパイプに空けた穴から飼育水を噴出させました。噴出させる穴は水槽底面に対して45°〜50°の角度で上方向に向けて,上昇流を発生させるように配置しました。これだけでは通気量が足らないのでエアストーンを中央部に1個投入してあります。エアブロックによる方法は他魚種でも比較的一般的なもので,水槽底面に,散気ホースで作成したエアブロックを設置して,通気により水槽壁面沿いに上昇流を作るものです。通気量は十分なのでこちらにはエアストーンは投入しませんでした(写真2)。
写真2 水中ポンプ(左)とエアブロック(右)を配置した水槽
今年度の成果
 水槽内の流向と流速を精密な流向流速計を用いて調べたところ,水中ポンプを使用した方が底面からの上昇流が強いことが確認されました(図1)。
 ふ化後10日の生残率は,水中ポンプを使用した2例の飼育で35.9%と62.4%,エアブロックでは5.5%と6.3%となり,水中ポンプを使用した飼育の方が良好な生残を示しました(図2)。特に62.4%という生残率は,これまでの奄美栽培漁業センターのクロマグロ飼育事例の中で最良の結果となりました。
 両者の生残率にはふ化後3〜4日目から差が認められ,この時の仔魚の分布を調べてみたところ,エアブロックでは日中,夜間ともに底面に仔魚が分布するのに対し,水中ポンプでは,日中は中層から表層,夜間でも下層から表層に分布し,底面には分布しないことが分かりました。
 以上のことから,クロマグロ種苗生産では,ふ化後10日まで水中ポンプで水流を発生させることで仔魚の沈降を効果的に防ぐことができ,初期の生残の向上を図ることが可能であることが分かりました。
図1 水流発生方法の違いによる流向・流速の差
水中ポンプの方が上向きの矢印が長い=上昇流が強い
図2 水流発生方法別の生残率の推移
今後の取り組み
 今回,ふ化後10日までの生残率が60%以上に向上したことで,クロマグロ種苗の大量生産に向け,また一歩前進したと言えます。今後は,より適した水流条件について検討するとともに,ふ化後10日目以降の飼育における水流条件や共食いによる減耗の防除についても検討を行い,さらなる生残率の向上を目指して技術開発を行っていきたいと考えています。