独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.059 ウイルス性神経壊死症を克服! クロマグロの種苗生産に光が見えた!   2004/08/04
はじめに
 マグロ類は国の内外を問わず重要な漁業資源であり,特にクロマグロに関しては国際的にも極めて重要な水産資源として位置付けがなされています。しかし,現在クロマグロ資源の減少が懸念されており,最大の消費国である我が国に対する非難及び規制は厳しさを増す傾向にあります。このような状況の中,クロマグロ資源の維持・増大を図るため,奄美栽培漁業センターではクロマグロの栽培漁業の技術開発を進めています。
 ところが,平成12年度から種苗生産過程においてウイルス性神経壊死症(VNN:viral nervous necrosisの略。海産魚類の種苗生産過程で発生する,よく知られた病気です。)が発生し,種苗生産技術開発の障害となっていました。
 奄美栽培漁業センターでは,クロマグロにおける本症の防除技術の開発に取り組み,飼育水にオキシダント殺菌海水※を使用することで,種苗生産期の初期飼育における本症の発症を抑制し,取り揚げが可能となったので,その概要を紹介いたします。

クロマグロ仔魚
(日齢20 全長 10mm)
 原因ウイルス(NNV:nervous necrosis virusの略。神経壊死症原因ウイルス)の感染ルートは,親魚から由来する「垂直感染」と,海水中に存在するウイルス又はウイルスに罹病した魚から飼育水中に放出されたウイルスに感染する「水平感染」の2つがあり,クロマグロのVNNは垂直感染によるものが主な原因として考えられています。しかし,現在の技術ではクロマグロの親にいるウイルスを駆除することができないため,受精卵に付着したウイルスを殺すことを考えました。
 そこで,ウイルスに対して殺菌効果があるオキシダント海水※(濃度0.3〜0.5mg/)で1分間クロマグロ受精卵を洗浄し,NNVを殺菌するように処置しました。この垂直感染を防除すれば問題は解決されるはずでしたが,これだけではVNNの発症を抑制できませんでした。
 平成14年度にオキシダント海水で殺菌したクロマグロ受精卵を使用して7回種苗生産を行い,この内6事例でVNNが発症し飼育が中止となりました。しかし,唯一,取り揚げまで飼育が行えた事例がありました。それは,オキシダントで殺菌した海水を飼育水に使用したものでした。
 これまで,紫外線で殺菌した海水を飼育水として使用していましたが,VNNが発症した6つの事例は全て紫外線殺菌海水でした(表)。
 ここで「オキシダント殺菌海水がVNNの発症を防ぐ効果があるのでは?」という推察がなされ,これについて平成15年度に調査を行うことにしました。
 オキシダント殺菌海水及び紫外線殺菌海水を飼育水として使用した飼育をそれぞれ2回ずつ行い,紫外線殺菌海水を使用した2例では,日齢8と日齢14にクロマグロ仔魚が旋回遊泳又は衰弱する等の典型的なVNNの症状が観察され,その後,大量死亡により生残率が急激に低下したため飼育を中止しました(後で,VNNと診断されました)。一方,オキシダント処理海水を用いた2事例ではこのような症状を示す仔魚及び大量死亡は観察されず,後の検査でもNNVが認められず,クロマグロ種苗を取り揚げ,沖出しすることができました。
 これで2年にわたって,オキシダント殺菌海水を飼育水として使用してVNNの発症を防ぐ事ができましたが,どうしてVNNを防ぐことができるのかは明確にわかりません。
 今後は,VNNを防止する技術をより確かなものとする必要があり,そのためには卵消毒方法の改善等を組み合わせて複合的に検討する必要があります。
※ オキシダント海水・オキシダント殺菌海水
 海水を電気分解することによってオキシダント(オゾン等の酸化性物質の総称。この場合では,次亜臭素酸が生成されます。)が生成され,このオキシダントで海水が殺菌されます。また,このオキシダントを用いてクロマグロ受精卵の消毒を行っています(オキシダント海水)。
 しかし,海水中にオキシダントが残留したままでは,クロマグロの仔魚に悪影響を及ぼすため飼育水として使用できません。そのためオキシダントが残留した海水を,活性炭を通してオキシダントを除去し,無毒化した海水を飼育水として使用します(オキシダント殺菌海水)。