独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.078 サンマの大量飼育に成功   2005/12/12
厚岸栽培漁業センター
はじめに
 ご存じのようにサンマは大衆魚として知られていますが,その資源量は年代によって変動が大きく,豊漁と不漁を繰り返しています。しかし,サンマの生態には多くの謎があり,その変動の原因は良くわかっていません。このため,本種資源の変動は海洋環境の変化が原因ではないかと考え,昨年度から水産庁の委託事業「資源動向要因分析調査事業」を受けてサンマ太平洋北西部系群に対する取り組みを開始しました。
 この事業には,東北水研,中央水研,並びに厚岸栽培漁業センターが参加し,これら三者の統括を東北水研八戸支所が行っています。事業の最終的な目的はサンマ資源の動態メカニズムの解明ですが,まずは動態メカニズムを解析するためのモデルを作成することを当面の目標としています。そのモデルの構築と精度向上のために必要なパラメータを,各分野の専門家が分担して,調査や研究によって求めることにしています。厚岸栽培漁業センターは,サンマの生涯を通した飼育を担当し,1.水温や光,餌などの諸条件が飼育魚の成長(代謝)や死亡・再生産に与える影響,2.成熟生態や産卵数,3.基礎代謝量,等の基本的な生物学的パラメータの推定に取り組んでいます。
サンマの大量飼育と研究の進捗
 サンマの飼育研究を行うには,まず受精卵を確保して大量飼育を確立しなければなりません。サンマの卵は流れ藻などに産み付けられていますが,昨年度は1,000粒しか確保できず飼育は不調に終わりました。本年度は三重県科学技術振興センターなどの協力を得て,約40万粒を確保することができ,大量飼育試験や基礎的な試験に取り組みました。
写真1 海藻に産み付けられたサンマ卵
1) 大量飼育試験
 得られた受精卵のうち23万粒を20kl水槽に収容し,そこでふ化した仔魚(全長7mm)にシオミズツボワムシ,アルテミア,凍結プランクトン,配合飼料を与えて飼育しました。この飼育事例では,ふ化率が37%と低く,ふ化後4日以内の生残率も50%と低率に止まりました。さらにふ化後2週間目(全長11mm)までと2カ月目前後(全長60mm)にもまとまった死亡が見られました。しかし,最終的には全長200mmのサンマ2,800尾の生産に成功し,当面の研究に必要な2,000尾を大幅に超過することができました。

写真2 卵殻を破ったサンマ仔魚(全長7mm)

図1 サンマの成長

写真3 サンマ若魚(日齢150、全長20cm)
 今回の飼育試験によって,成長と死亡に関する基礎的な知見が得られました。サンマは大変デリケ−トで取り扱いに弱い魚ですが,ふ化前後における大量死の原因は,2日間を要した受精卵の輸送方法に問題があることが示唆されました。生後約2週間目までと2カ月目前後の死亡は水槽壁への擦過や衝突が主な原因であり,透明度を下げるため飼育水への植物プランクトンを添加したり,水槽内にビニールシートを張ることによる衝突防止対策が有効であることがわかりました。飼育したサンマを育成して産卵させることと,代謝に関する基礎的な研究結果の解析が今年度内の課題となっています。
写真4 大量飼育水槽
2) 各種の基礎的研究への提供
 生産したサンマは,複数の水槽で引き続き成長・成熟を観察するとともに,代謝研究(厚岸栽培漁業センタ−担当),成熟に関する生理的メカニズム研究(中央水研・東北水研担当),絶食下における生体成分研究(東北水研担当),並びに硬組織研究(東北水研担当)に使用しています。
3) おわりに
 生産したサンマの一部は,北水研が受託した「サンマの生態を生かした新流通方式の構築」事業の研究にも活用されることになりました。この事業は,サンマの活魚流通技術を開発することで,地域経済の活性化に貢献する事を目的としています。
 最後に,本事業では受精卵を確保し,飼育を成功させるために福島県や石川県の水族館,都道県の試験研究機関,大学や佐渡島の学識経験者,漁協,漁業者,並びに北水研の皆様から惜しみないご協力を賜りました。関係する皆様に心からお礼申し上げます。

写真5 餌に群がるサンマ
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