独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
栽培漁業センター紹介 (2010.8更新)

奄美栽培漁業センター

 沿革と研究開発の歴史
 施設設備の概要
 研究課題
 会議
 研究開発成果

奄美地図
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奄美栽培漁業センター写真 奄美栽培漁業センターが位置する奄美大島は南西諸島の北側にあり,亜熱帯海洋性気候で年間の平均気温は23℃(最高気温で30℃),降水量は約3,000mm と四季を通して温暖多雨で台風も多く,時には甚大な被害を受けることがあります。
 奄美大島の西方200マイル付近には黒潮本流が北東に進み,東側には黒潮反流があります。海面水温(水深10m)は最低20℃,最高28〜29℃,年間平均24℃前後になります。
 周辺の海域は近海に数多くの天然礁があって,好漁場を形成し,カツオ,マグロ類をはじめ,ハマダイ,ムツ等の瀬物類を対象とした漁業が行われています。
 また,奄美大島南部の入り組んだ地形を利用したクルマエビ養殖や魚類,真珠の養殖が盛んに行われています。


 沿革と研究開発の歴史
 奄美栽培漁業センターは,クロマグロの栽培漁業に関する技術を開発するために,平成7年度に(社)日本栽培漁業協会奄美事業場として開設されました。
 我が国にとってクロマグロは極めて重要な水産資源であるとともに,国際的な漁業資源でもあり,その資源の保存・管理措置について厳しい議論があります。平成4年には大西洋西部のクロマグロをワシントン条約の付属書 Iへ掲載する動きがあり,世界的規模で漁業を営み,また消費も多い日本は,クロマグロ漁業の存続と資源管理・増殖のために,栽培漁業によって本種の資源増大に貢献することになりました。
 平成15年10月からは,独立行政法人水産総合研究センター奄美栽培漁業センターとしてクロマグロの栽培漁業技術の開発を進めています。
 当センターではクロマグロの栽培漁業を進めるために,親魚養成,採卵,種苗生産,中間育成,および放流に関する基礎的な技術の開発に取り組んでいます。
 平成9年度からクロマグロが産卵を始め,その後,毎年産卵が確認されています。特に,平成14年度には約5億粒の採卵に成功しました。また,平成19年には親魚の産卵開始年齢を5歳から3歳へと若齢化させることに成功し,2年連続1億粒以上を採卵することができました。産卵期間は天然魚の生殖腺の調査から得られた成熟時期よりも長く,5月中旬から始まり,長い年には11月初旬に産卵した例もあります。
 種苗生産では,適正な餌料系列の把握に取り組んだ結果,餌料系列としてL型ワムシ→ふ化仔魚(餌)+アルテミアノープリウス(補助的に)→魚類ミンチ肉,が適していることを明らかにしました。その結果,平成10年度には全長約50mmで約1.2万尾の種苗生産に成功しました。

 一方,近年になって飼育水の撹拌飼育,照度条件が初期の生残に大きく影響することを明らかにし,ふ化後10日目の生残率をこれまでの数%から40〜60% まで引き上げることができました。しかし,平成12年度から発生したウイルス性神経壊死症による仔稚魚の死亡が問題となり,この防除技術の開発に取り組んでいます。

 また,平成18年度からは世界的なマグロ類の資源の減少や需要の急増を背景に,水研センターは緊急かつ効果的にまぐろ研究を進め,まぐろ資源の持続的な利用と増養殖の推進を図るため,バーチャルな研究組織として「まぐろ研究所」を設立しました。奄美栽培漁業センターはこの研究所の中心となって,クロマグロの増養殖技術の開発に取り組んでいます。

クロマグロ写真
クロマグロ
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 施設・設備の概要
 奄美栽培漁業センターの最も特徴のある施設として,湾(仲田浦)を2ヵ所の網で仕切った施設があります。この2枚の仕切り網で囲まれた約14haの海面で,クロマグロの親魚養成を行っています。仕切り網施設の沖側には直径40m円型筏4基,20m円型筏4基,10m筏8基を設置し,親魚養成や種苗の育成試験を行っています。
 陸上施設は,湾奥を埋め立てた造成地(12,698m2)に管理棟,設備棟,車庫棟,倉庫棟,海水ろ過棟,ふ化棟,実験棟,調餌棟,網洗い場が整備されています。
 また,海面の汚染を防ぐため,飼育排水やワムシ培養排水等を処理する排水処理棟2棟(処理能力:50トン/日×2基)が整備されています。平成14年度には冷凍庫棟(庫内179.4m2,‐25℃,前室付き)も整備されました。さらに,平成20年度には調温・調光設備を備えた種苗生産棟が完成しました。
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 研究課題の全体計画と平成22年度計画
全栽培漁業センターの研究課題一覧→
【全体計画】クロマグロは我が国の主要水産物であるとともに,国際的にも重要な漁業資源です。クロマグロ資源は減少が懸念され,国際的資源管理が行われるなか,最大の消費国である日本では栽培漁業などによる資源の増大と安定化が強く望まれています。種苗生産が難しいクロマグロの基礎的飼育技術を開発するため,関係諸機関と連携して技術の開発に取り組みます。
 まず,安定した採卵技術を開発するとともに,種苗の量産試験では最も大きな障害となっている初期飼育の安定化を目的に,仔魚の飼育に適した環境諸条件を把握し,初期生残の向上を図ります。さらに,餌料系列の見直しや共食い防止の技術に取り組み,飼育中期以降の減耗要因を把握します。
1.種苗生産が難しい魚介類の飼育に係わる基礎技術の開発(クロマグロ) (予算:交付金一般研究)
【22年度計画】全長50mmまでのクロマグロ飼育で生残率を1%以上に向上させ,ハンドリングの難しいクロマグロ稚魚の取り上げ・沖出し方法について検討します。また,採卵した受精卵から産卵に関与した雌雄親魚の個体判別を試みます。
2.マグロ類の人工種苗による新規養殖技術の開発 (予算:農林水産技術会議実用技術開発事業)
【22年度計画】親魚養成では、産卵環境(水温、照度)を調査するとともに,4歳魚・6歳魚より得られた受精卵のmtDNA分析により産卵に関与した雌の割合を調べ,年齢毎の割合を比較します。
 種苗生産では,飼育条件を検討し,仔魚期の減耗防除技術を開発します。また,共食いや衝突死などの仔稚魚期における行動の発現と発達に関して調査します。さらに,餌用ふ化仔魚に替わる餌料として配合飼料を与えて,クロマグロ仔魚への適用が可能かどうか検討します。
3.クロマグロ人工授精技術の開発基盤研究(予算:交付金プロ研)
【22年度計画】クロマグロの育種に向けた研究開発を行うためには,成熟調査やホルモン注射などのための基盤技術としてハンドリング技術の開発が必要です。そこで,魚類の中でも特に大型のクロマグロの鎮静・不動化に有効な麻酔方法や固定技術について検討します。
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 会議(奄美栽培漁業センターが事務局のもの)
会議名 会議内容
クロマグロ交流会 クロマグロ種苗生産に関する技術的検討
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 研究開発成果(平成19年度〜21年度)
 査読論文
タイトル 著者 書名 発行年 巻・号 ページ
Onset and development of cannibalistic and schooling behavior in the early life stages of Pacific bluefin tuna Thunnus orientalis Francisco de la Serna Sabate, Y. Sakakura, Y. Tanaka, K. Kumon, H. Nikaido, T. Eba, A. Nishi, S. Shiozawa, A. Hagiwara, S. Masuma Aquaculture 2010 301 16-21
Status of the sinking of hatchery-reared larval Pacific bluefin tuna on the bottom of the mass culture tank with different aeration design Y. Tanaka, K. Kumon, A. Nishi, T. Eba, H. Nikaido, S. Shiozawa Aquaculture Science 2009 57 587-593
Turbulence effect on survival and feeding of Pacific bluefin tuna Thunnus orientalis larvae, on the basis of a rearing experiment Y. Kato, T. Takebe, S. Masuma, T. Kitagawa, S. Kimura FISHERIES SCIENCE 2008.2 74(1) 48-53
Assessment of the nutritional status of field-caught larval Pacific bluefin tuna by RNA/DNA ratio based on a starvation experiment of hatchery-reared fish Yosuke Tanaka, Keisuke Satoh, Harumi Yamada ,Takayuki Takebe , Hideki Nikaido , Satoshi Shiozawa Journal of Experimental Marine Biology and Ecology 2008.1 354 56-64
 学会発表
タイトル 発表者 学会名 開催年月
DNAマーカーを用いた クロマグロ雌親魚群における産卵個体の推定 重信裕弥・菅谷琢磨・小林敬典・難波亜紀・富岡江利・久門一紀 平成22年度日本水産学会春季大会 2010.3
養殖飼育下における3歳魚雌クロマグロの生殖周期 玄浩一郎・風藤行紀・二階堂英城・香川浩彦・松原孝博・澤口小有美・塩澤 聡・升間主計 平成22年度日本水産学会春季大会 2010.3
クロマグロのグレリン遺伝子のクローニングと発現解析 須田 敦・三代健造・二階堂英城・塩澤 聡・海谷啓之・安東宏徳 平成22年度日本水産学会春季大会 2010.3
24時間照明がクロマグロ仔魚の生残,成長,および摂餌に与える影響−量産規模での実証試験 久門一紀・田中庸介・西 明文・江場岳史・樋口健太郎・二階堂英城・塩澤 聡・石丸千紗子・阪倉良孝・升間主計 平成22年度日本水産学会春季大会 2010.3
クロマグロThunnus orientalis 4才親魚で観察された産卵時刻と産卵行動 二階堂英城・江場岳史・西 明文・久門一紀・田中庸介・塩澤 聡 平成22年度日本水産学会春季大会 2010.3
24時間照明がクロマグロ仔魚の生残、成長、及び摂餌に与える影響 石丸千紗子・久門一紀・田中庸介・西 明文・江場岳史・樋口健太郎・二階堂英城・塩澤 聡・阪倉良孝・升間主計 平成22年度日本水産学会春季大会 2010.3
ハマフエフキ受精卵の大量消毒法の開発 樋口健太郎・江場岳史・田中庸介・久門一紀・西 明文・二階堂英城・塩澤 聡 平成22年度日本水産学会春季大会 2010.3
小型水槽飼育におけるクロマグロ仔魚の初期生残の向上 田中庸介・田崎陽平・小松克偉・高木祐輔・山口十実・久門一紀 平成22年度日本水産学会春季大会 2010.3
安定同位体比分析によるクロマグロ仔魚の生物餌料の利用実態の推定:成長差との関連 田中庸介・久門一紀・南 浩史・石樋由香・江場岳史・西 明文・二階堂英城・塩澤 聡 平成21年度日本水産学会秋季大会 2009.9
クロマグロThunnus orientalis 2歳魚における浸漬法による2-フェノキシエタノールおよび炭酸ガス麻酔の予備的検討 二階堂英城・西 明文・久門一紀・田中庸介・江場岳史・塩澤 聡 平成21年度日本水産学会秋季大会 2009.9
種苗生産水槽におけるクロマグロ仔魚の沈降実態の把握 田中庸介・久門一紀・江場岳史・西 明文・二階堂英城・塩澤 聡 平成21年度日本水産学会春季大会 2009.4
クロマグロThunnus orientalis1歳魚における経口麻酔の試み 二階堂英城・西 明文・武部孝行・井手健太郎・久門一紀・田中庸介・塩澤 聡 平成21年度日本水産学会春季大会 2009.4
微粒子飼料へのイノシン酸添加効果に関する研究 内木敏人・田崎陽平・芳賀 穣・竹内俊郎・田中庸介・久門一紀・塩澤 聡・中村年宏・升間主計 平成21年度日本水産学会春季大会 2009.4
クロマグロ卵のmtDNAから推定した異なる産卵地での産卵状況の比較 升間主計・山本宇宙・柏原恵一・舘 昌廣・久門一紀・二階堂英城・塩澤 聡・宮木廉夫・門村和志・濱崎将臣・澤田好史・宮下 盛 平成21年度日本水産学会春季大会 2009.4
微粒子飼料給餌時における泡沫分離装置の有効性の検討 田崎陽平・内木敏人・芳賀 穣・竹内俊郎・田中庸介・久門一紀・塩澤 聡・中村年宏・升間主計 平成21年度日本水産学会春季大会 2009.4
クロマグロ親子鑑定技術の開発 重信裕弥・小林敬典・富岡江利・久門一紀 平成21年度日本水産学会春季大会 2009.4
クロマグロ種苗生産における餌料供給用親魚としてのシロギスの有効性 門村和志・宮木廉夫・築山陽介・濱崎将臣・藤井明彦・塩澤 聡・柏原恵一 平成21年度日本水産学会春季大会 2009.4
耳石日輪紋からみたクロマグロ種苗生産過程における個体性調査の発現時期 武部孝行・二階堂英城・井手健太郎・塩澤 聡・升間主計 平成20年度日本水産学会春季大会 2008.4
奄美栽培漁業センターにおける養成3歳魚の産卵 二階堂英城・玄浩一郎・武部孝行・西 明文・井手健太郎・塩澤 聡・今泉 均・升間主計 平成20年度日本水産学会春季大会 2008.4
奄美栽培漁業センターにおける養成3歳魚雌クロマグロの繁殖特性 玄浩一郎・二階堂英城・香川浩彦・松原孝博・澤口小有美・東藤孝・平松尚志・原 彰彦・武部孝行・井手健太郎・西 明文・塩澤 聡・今泉 均・升間主計 平成20年度日本水産学会春季大会 2008.4
クロマグロ人工種苗の陸上長距離輸送試験 升間主計・渡辺 税・那須敏朗・宮下 盛・藤沢法弘・西 明文・塩澤 聡 平成20年度日本水産学会春季大会 2008.4
流場の変化がクロマグロ仔魚の生残に与える影響 松本尚之・サバテフランシスコ・阪倉良孝・武部孝行・二階堂英城・塩澤 聡・萩原篤志・升間主計 平成20年度日本水産学会春季大会 2008.4
クロマグロ卵黄タンパク遺伝子の検出 久田剛輝・藤田敏明・玄浩一郎・二階堂英城・升間主計・松原孝博・東藤 孝・平松尚志・原 彰彦 平成20年度日本水産学会春季大会 2008.4
夜間通気量の調整によるクロマグロ仔魚の初期減耗軽減 川至純・武部孝行・柴原章敏・坂本 亘・宮下 盛 平成20年度日本水産学会春季大会 2008.4
クロマグロ共食い行動の個体発生過程 サバテフランシスコ・松本尚之・阪倉良孝・武部孝行・二階堂英城・塩澤 聡・萩原篤志・升間主計 平成20年度日本水産学会春季大会 2008.4
Survival process of larval Pacific bluefin tuna in relation to their growth and nutritional condition in the northwestern Pacific Ocean Yosuke Tanaka, Keisuke Satoh, Harumi Yamada, Takayuki Takebe, Hideki Nikaido, Satoshi Shiozawa 第5回世界水産学会議 2008.1
Survival process of larval Pacific bluefin tuna in relation to their growth and nutritional condition in the northwestern Pacific Ocean Yosuke Tanaka, Keisuke Satoh, Harumi Yamada, Satoshi Shiozawa First CLIOTOP Symposium 2007.12
高知および長崎周辺海域で漁獲されたクロマグロ当歳魚のふ化時期と成長 田中庸介・山田陽巳 平成19年度日本水産学会秋季大会 2007.9
母系遺伝子がクロマグロ,種苗生産過程における個体成長に及ぼす影響について 武部孝行・二階堂英城・井手健太郎・今泉 均・塩澤 聡 平成19年度日本水産学会秋季大会 2007.9
夜間スポット照明がクロマグロの初期生残に及ぼす影響 二階堂英城・武部孝行・井手健太郎・今泉 均・塩澤 聡 平成19年度日本水産学会秋季大会 2007.9
産卵期間中におけるハマフエフキ仔魚の栄養価の変動 内木敏人・野田賢耶・竹内俊郎・二階堂英城・井手健太郎・武部孝行・今泉 均・塩澤 聡 平成19年度日本水産学会秋季大会 2007.9
養成海域におけるクロマグロ幼魚に寄生するディディモゾーンの寄生虫学的調査 武部孝行・二階堂英城・井手健太郎・今泉 均・塩澤 聡 平成19年度日本水産学会春季大会 2007.4
クロマグロThunnus orientalisへの電気麻酔の試み 二階堂英城・武部孝行・井手健太郎・今泉 均・尾花博幸・升間主計・難波憲二 平成19年度日本水産学会春季大会 2007.4
種苗生産過程におけるクロマグロ仔稚魚の家系組成の変化 井手健太郎・二階堂英城・今泉 均・武部孝行・塩澤 聡 平成19年度日本水産学会春季大会 2007.4
飽食および飢餓状態における飼育クロマグロ仔魚の核酸比変化と天然仔魚の栄養状態評価への応用 田中庸介・佐藤圭介・山田陽巳・井手健太郎・武部孝行・二階堂英城・今泉 均・塩澤 聡 平成19年度日本水産学会春季大会 2007.3
クロマグロ仔魚へのDHA強化アルテミアの給餌効果 野田賢耶・内木敏一・竹内俊郎・二階堂英城・武部孝行・今泉 均・井手健太郎・塩澤 聡・広田哲也 平成19年度日本水産学会春季大会 2007.3
 雑誌等
タイトル 著者 書名 発行年 巻・号 ページ
採卵時期と飼育水温がクロマグロ仔魚の初期生残と成長に与える影響 田中庸介・久門一紀・二階堂英城・江場岳史・西 明文・塩澤 聡 栽培漁業センター技報 2009 10号 38-42
クロマグロ産卵親魚の若齢化を目指す 二階堂英城 月刊養殖 2008.10 45(11) 64
仕切網内で養成したクロマグロの産卵の確認手法の検討 今泉 均・二階堂英城・武部孝行・井手健太郎・塩澤 聡 栽培漁業センター技報 2008.2 7号 4-7
若齢クロマグロからの大量採卵に成功 二階堂英城 農林水産技術研究ジャーナル 2008.1 31(1) 34-36
 栽培漁業センターホームページ トピックス
No. タイトル 掲載日
137 クロマグロの量産を目指して〜奄美栽培漁業センターに種苗生産棟が完成〜 2008.10.29
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