独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.076 3年連続してクエの量産に成功,合計5万4千尾を放流   2005/10/06
はじめに
 クエは,ハタ類の中でも体長が1m近くまで成長する大型種で,温帯から亜熱帯海域の外洋に面した沿岸岩礁域に生息しています。刺身や鍋物に珍重される超高級魚ですが,近年は資源の減少が懸念され,栽培漁業による資源の回復が期待されています。
 五島栽培漁業センターでは,昭和57年度よりクエの栽培漁業技術開発に取り組んでいますが,今年は生残率14%で約9万尾の種苗生産に成功し,平成15年度以降3年連続で7〜10万尾の種苗生産を達成しました。今年生産されたクエ種苗は9月に長崎県をはじめ佐賀県,鹿児島県などに運ばれ,合計5万4千尾が放流されました。
クエの種苗量産を軌道に乗せるために
 五島栽培漁業センターでは,平成2年度に初めて大量にクエの受精卵が得られ,種苗生産の技術開発が始められました。しかし,クエはふ化仔魚が小さくショックに弱いため飼育初期の死亡率が高く,従来の技術ではふ化後の10日間に90%が死んでしまいます。さらにウイルス病(ウイルス性神経壊死症)の発生によって種苗が生産できなくなるケースが多くありました。
 そこで,ふ化仔魚の段階では通気量をごく微量に抑え,なおかつ仔魚が水槽の底に沈まないように穏やかな水流が保たれるように工夫しました。また,親から子へあるいは外部から水槽内へウイルスが混入しないよう,感染経路の遮断を徹底しました(表1)。
表1 クエ種苗量産化成功のポイント
飼育初期の生存率向上 1)通気と水流を調節することにより仔魚が沈むのを防ぐ
2)換水を穏やかに行い水質環境の変化によるショックを和らげる
3)仔魚が餌を摂り始める時期の飢餓を防ぐため,水槽内の明るさを調整するとともにきめ細かく給餌する
ウイルス病の防止 1)感度の良いウイルス検出方法によって病原ウイルスを持っていない親魚を選ぶ
2)種苗生産に使用する受精卵は消毒する
3)飼育海水を殺菌する
 その結果,平成15年度には病気の発生もなく7.4万尾の種苗生産に成功しました。以降,現在ではふ化仔魚から全長30mmサイズまでの生残率は10〜20%に達し,今年は3年連続で7〜10万尾の種苗生産ができたことから,10万尾レベルで計画的に種苗を量産することが可能な段階に来たといえます(表2,図1)。
表2 五島栽培漁業センターでのクエの種苗生産の概要
平成
生産尾数(万尾)
生残率(%)
成功率(%)
 
6
0
0
   
7
1
0.1
   
8
1.3
0.5
   
9
1.1
0.3
   
10
5.9
2.8
 
低換水飼育で日齢10までの生残が向上
4飼育のうち1飼育が途中飼育中止
11
4.5
1.8
 
4飼育中2飼育で飼育中止
12
1
1.3
 
4飼育中3飼育で飼育中止
13
5.4
3.4
 
VNN発症
14
18.5
26.2
50
VNNで2回の飼育が中止,親から検出
15
7.4
4.8
100
VNNの発症はみられない。
4飼育中2飼育で飼育中止
16
9.9
16.6
100
VNNの発症はみられない
17
9.5
14
100
VNNの発症はみられない
図1 五島栽培漁業センターでのクエの種苗生産の概要
クエの放流技術を開発するために
 五島栽培漁業センターでは,長崎県五島列島の福江島で,天然の岩礁域や人工魚礁での放流技術開発に取り組んでいます。自然石を使った築磯に2,200尾を放流した調査では,放流後の2年間に約500尾が再捕され,最高で体重1.4kg(体長44cm)にまで成長していることがわかりました。平成15年には,5歳になった放流魚が体重4.4kgにまで成長して再捕されています(写真)。
 今年度,五島栽培漁業センターで生産されたクエの種苗は,全長8〜10cmまで中間育成し,長崎県内の6箇所に合計4万2千尾が放流されました。その内,福江島周辺海域には2万6千尾と,これまでの数倍の規模で放流が行われました。それ以外に佐賀県,鹿児島県,和歌山県で合計1万2千尾が放流されました。
 写真 平成15年12月18日に奥浦で再捕された放流魚
全長60.5cm,体重4.4kg(推定5歳魚)
クエの栽培漁業に向けて
 今後は,クエがどのような場所でどれくらい漁獲されているかといった漁業実態調査と合わせ,放流魚がどれくらい漁獲され,どれぐらい漁業に貢献しているかを調査する計画です。