ワムシ培養のみを考慮した場合には,高増殖率が得られる高水温,低塩分の至適条件での培養が理想的ですが,このような条件でワムシ培養を行っている種苗生産機関は見あたりません。
その最大の理由は,仔魚の飼育条件とのギャップを避けるためです。
多くの海産魚の種苗生産は,水温は16〜22℃の範囲で海水(32-34psu)を用いて行われています。このような環境の仔魚の飼育水槽に,高水温・低塩分で培養したワムシを投入すれば,水温・塩分条件の大幅かつ急激な変化の影響を受け,ワムシは衰弱し,死んでしまいます9,10)。
衰弱したり死んでしまったワムシは,もはや餌料として用をなさないばかりか,すぐに腐敗が始まり,水質悪化を引き起こす原因となってしまいます。これを回避するために,一般的にワムシ培養の水温と塩分は,種苗生産水槽の飼育条件に近づけているのです。
水温変化はワムシの運動性や代謝機能等に,塩分変化はワムシ体内の水分含量(高塩分に曝された場合には浸透圧により体内の水分含量が低下する)に直接影響します。
では,どの程度の水温差,塩分差ならばワムシに影響がないのでしょうか?
これには様々なパターンがあり一概には言えませんが,水温に関しては,ワムシの増殖可能な水温範囲内(仮にS型であれば20℃〜30℃の範囲内)における5℃以内の変化11),塩分に関しては,26psu(80%希釈海水)から32-34psuの海水への変化12)であれば,比較的影響は少ないものと思われます。
通常,種苗生産現場では,ワムシを仔魚に与える前に,ワムシに仔魚の発育に不可欠な栄養成分(EPA,DHAなどのn-3系高度不飽和脂肪酸)を取り込ませる,いわゆる“栄養強化”をします。
この栄養強化の段階(6時間から17時間程度の培養)で培養水槽と飼育水槽の中間的な条件を取り入れ,ギャップを緩和するのも有効な手法です。

正常なワムシ(写真左)と高塩分で変化したワムシ(写真右)
高塩分に曝されたワムシ(写真右)は浸透圧の影響を受けて運動性がなくなり、体躯と卵が変形します。
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9)Lubzens,E. (1987)Raising rotifers for use in aquaculture. Hydrobiologia,147,245-255.
10)Øie,G. and Y. Olsen(1993) Influence of rapid changes in salinity and temperature on the mobility of the rotifer Brachionus plicatilis. Hydrobiologia,255/256,81-86.
11)Fielder,D. S. ,G. J. Purser and S. C. Battaglene(2000)Effect of rapid changes in temperature and salinity on availability of the rotifers Brachionus rotundiformis and Brachionus plicatilis. Aquaculture,189,85-99.
12)小磯雅彦,日野明徳(2001)培養水の塩分がシオミズツボワムシの増殖,培養コスト,栄養強化に及ぼす影響. 水産増殖,49,41-46.
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