独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.44 第7回国際異体類シンポジウム奮闘記〜 変態の森にいらっしゃい!
2009.1.7
宮古栽培漁業センター 藤浪祐一郎
2008年11月2日から7日にかけて、ポルトガルのセジンブラ市において、
第7回国際異体類シンポジウムが開催されました。

異体類とはカレイやヒラメの仲間のことです。
普通の魚は左右対称の形をしていますが、
カレイ類は体の右と左(表と裏)の形が異なるため、こんな名がついています。
英語の“Flatfish”の方がわかりやすいですね。
これらの魚たちは成長の過程で変態し、
あのような平べったい形になります(さいばい日記参照)。

この「変態さん」達は世界各地に生息しており、
それを研究する「変態研究者」もまた世界中に生息しています。
セジンブラ。こじんまりとした、きれいな漁師町でした
シンポジウムは3年に一度開催され、日ごろの研究成果を議論する場となっています。
今回のシンポジウムでは約20ヶ国から150名ほどの「変態研究者」が集結しました。
日本からの出席者は16名、宮古栽培漁業センターからは私(藤浪)と
“さいばい日記ホシガレイ編”でおなじみの清水が参加しました。
お題は私が“宮古湾におけるヒラメの回収率低下と漁獲規制の関係について”、
清水が”ホシガレイの栽培漁業について“。

もちろん二人とも説明は英語で通訳は一切ありません!
英語の苦手な我々二人、
いまさら英語の授業で居眠りばかりしていたことを悔いても仕方ありません。

さぁて、どうなりますことやら・・・。
オープニングセレモニー。いよいよシンポジウムが始まります!
シンポジウムは口頭発表とポスター発表に分かれます。
口頭発表は全員の前で壇上に立ち、スライドを使いながら英語で話をします。
高度な英語表現力とかなりの緊張感を伴いますが、
一度に多くの方々に自分の研究を知っていただけるという利点があります。清水の発表がこれでした。

一方、藤浪はポスターでの発表です。
こちらは新聞紙2枚分くらいの紙に自分の研究内容を書き込み、見に来てくれた方に一対一で説明をします。
身振り手振りでも何とかコミュニケーションが取れますので(英語さえできれば)、十分な議論ができますが、
ポスターを見に来てくれた方にしか情報が伝わらないという欠点があります。


さて、運命のポスター発表当日、B型人間の私は何も考えずに自分のポスターの前に立ちました。
事前にポスターの横に添付しておいた配布用資料は何部か減っている様子!
これは手ごたえあるかもしれない!!

日本人特有の中途半端な笑顔(?)を振りまいていると、
デンマークの研究者が早速話を聞きに来てくれました。
その後もアメリカの大御所研究者、ポルトガルの研究者など、
論文で名前は知っていても、お会いするのは初めてという方々が・・・。
頭の中の知っている限りの英単語を総動員して説明しますが、
相手の頭の上には“?”がいくつも並んでいきます。
こうなるとパニック状態です。
見振り手振り、時には絵を書きながら説明した結果、
最後は何とか理解していただけたようです。
しかし、説明している間、中学から高校までの歴代の英語の先生の顔が
走馬灯のように浮かんでは消えていきました。
大学でも英語の単位はとったはずなのですが、
先生の顔が浮かばないほど授業に出ていないことに気がつきました・・・。

みなさん、今からでも遅くは有りません。
英語は勉強しておきましょう!!
必死に説明する藤浪。今見ても冷や汗が出ます・・・
で、清水はといいますと、
出番が最終日、それも最後から2番目という微妙な位置
大雑把なくせして、こだわることにはとことんこだわるO型さんの彼は
ポルトワインとシーフードで毎晩大騒ぎする先輩には同行せず、
一人部屋に引きこもり、発表の練習をしていました。
その甲斐あってか、宮古で練習発表したときは見事なカタカナ英語(←お前が言うな!)だったのが、
まぁまぁの英語に仕上がりました。

しかし、質問に答えるのに台本を読んでいたのは、なぜなんでしょう?
何通りもの質問に答えられる準備をしていたのなら大したものです。
私にはマネできません。
本番に強い清水。ワインとシーフードを犠牲にした甲斐はあった??
今回のシンポジウムではメインテーマが「気候変動が異体類資源に及ぼす影響」だったため、
資源や生態に関する話題が多く、栽培に関する発表は全体の1割程度でした。

しかし、異体類は世界各国で重要な水産資源と認識されており、
資源を維持・増大できる“栽培漁業”は多くの研究者に注目されています。
デンマークやアメリカ、ポルトガルなどでも異体類の種苗放流が行われていますが、
その数は数百〜数千の単位であり、日本のヒラメやマコガレイ、マツカワの比ではありません。
放流だけでなく、その効果まで調査している日本の栽培漁業研究は、その量、質ともに世界のトップクラスにいるのです。

言語という大きな壁に阻まれ、多くの研究成果は世界の研究者の目に触れていません。
今後は今以上に日本の“SAIBAI”を世界に発信していくべきだと感じました。

次回のシンポジウムは3年後、2011年にオランダで開催されます。
我こそは!という研究者の方、いかがでしょうか??
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