独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばい日記
ホシガレイ編 2008年3月の日記
 変態してます…
2008年3月
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 2008年3月25日 裏表のないやつら(飼育64日目)

正しく変態するって実は難しいことなんです。なぜって?
ホシガレイの種苗生産では,こんなやつらがたくさん出てくるからです。

1.両側とも裏側に変態しちゃったやつ
 両側の目が動き,頭のてっぺんでぶつかって,ウルトラマンみたいな顔。
 両側の体色は,正常なホシガレイの裏側と同じように白色。

2.両側とも表側に変態しちゃったやつ
 両側の目がまったく動いていない。
 目がくるはずの場所はぽっかり開いて,とんがった頭。
 両側の体色は,正常なホシガレイの表側と同じように黒く,模様が着いている。

これらは変態がうまくいかなかった魚です。
異常な変態はヒラメやカレイの種苗生産で大きな問題となっています。
これらは人工的に飼育すると多く出現し,天然魚ではほとんど出てきません。
さらに・・・

3.目はちゃんと移動しているが,体色は両面とも真っ白のやつ。
 目は正常に変態して,体は両方とも裏側に変態したということでしょうか。

4.裏表ではなく表裏
 右側にある目が動いて裏側となり,左側の体が表となったやつ。
 正常魚の左右が完全に逆転していて,ヒラメと同じ左向きをしている。

こんなやつまで現れ,異常な変態のパターンも実にさまざまです。


娘よ…
パパは変態と異常(を防ぐための)の研究をしているんだよ。ふふふ
 2008年3月24日 裏表のあるやつら(飼育63日目)

うちの娘(4ヵ月)が初めて寝返りをうったことを記念して,
ホシガレイの裏表について書きますか。

一般的な魚(タイやイワシ)は裏表がありません。
左右対称で,右を向いても左を向いても同じ姿です。
ヒラメやカレイと同じように,エイも平べったいですが,
裏表というよりも,背側と腹側です。
背中が上,腹を下にして泳ぎ,左右対称の体をしています。

ヒラメやカレイの大きな特徴は左右対称でなく,裏側があることです。
変態で眼が移動し,眼のなくなった方が裏,眼がやってきた方が表となります。
つまりヒラメやカレイの仲間にとって,「変態」とは「裏表ができること」なんです。




左:飼育水槽です。
混雑しています。

右上:ホシガレイの表側
(63日目)大きさ25mm

右下:ホシガレイの裏側
 裏側はまだ透明で,内臓が透けて見えます

一般的な魚も,料理になると裏表ができるようです。
お食い初めでタイの塩焼きを作ったのですが,
裏側が生焼けで,嫁さんにずいぶんと怒られました。
 2008年3月17日 どんくさいな(飼育56日目)

飼育33日目に新しい水槽に引越ししてからは,毎日底そうじをしています。
サイホンの原理を利用し,細いホースで食べ残しのエサやフンなどのゴミを吸い出して取り除きます。
変態が完了し(大人のホシガレイと同じ姿となり),底に張り付くようになった(着底といいます)ので,
底そうじはとっても大変です。
ホシガレイは担当者に似て,とてもどんくさく,ぜんぜん逃げません。
なのでゴミと一緒に吸い出されてしまいます。
吸い出されたホシガレイはゴミと分けて,一尾一尾もとの水槽に戻します。
これがまた大変な作業なんです。




左:飼育水槽の底そうじ

右上:水槽の底には,
    着底したホシガレイがいっぱい

右下:ホシガレイの赤ちゃん?(56日目)
   大きさ22mm
   もう「赤ちゃん」じゃないですね

ホシガレイの飼育水槽は,毎日きれいに掃除していますが,担当者の机は相変わらずです。
種苗生産と年度末のゴタゴタとが重なるこの時期は,ストレスが多いんです。
 2008年3月11日 変態中です(あやしいサイトじゃないよ)(飼育50日目)

「変態」をインターネットで検索すると,「変な態」のサイトがたくさん出てきますが,
ここでの変態とは,「態(すがたかたち)が変わる」です。
「変態」は多くの生物で見られますが,有名なのはオタマジャクシ→カエルです。
えら呼吸し水中生活をしていたオタマジャクシが変態し,
手足が生え,肺呼吸を行い陸上生活が可能なカエルになります。

ヒラメやカレイの仲間も「変態」します。
ホシガレイは生まれた頃は眼が体の両側にあり(前に写真を載せました),
普通の魚と同じように背中を上,腹を下にして泳ぎます。
成長が進み14mm(飼育35日目)くらいになると,「変態」が始まります。
体の左側にある目が動き出し,頭のてっぺんを通過して右目のそばまで移動します。


A:38日目(大きさ14mm)
  左目が動き始めました

B:42日目(大きさ15mm)
  どんどん移動して・・・

C:46日目(大きさ17mm)
  頭のてっぺんを通過中

D:50日目(大きさ20mm)
  右目の隣まできました

眼のなくなった左側の体は裏,眼がやってきた右側の体は表となります。
平べったい体型となり,裏側を下にして水槽の底で生活するようになります。
砂を敷けば砂に潜るようになりますし,泳ぎ方や餌の食べ方など大きく変化します。

「変態」は自然海でのホシガレイの生き残り戦略と大きく関わっていて,
これを研究するのは,ホシガレイの生態だとか進化だとかいろんな意味で面白いんです。
「変態」ってとっても奥が深いんですよ・・・
 2008年3月6日 早起き(飼育45日目)

家に帰っても気持ちが休まりません。
ホシガレイの赤ちゃんが気になってしょうがないからです。
睡眠もなんとなく浅く,朝早く眼が覚めてしまいます。
朝イチに水槽をのぞきに行って,ホシガレイが元気に泳いでいる姿を見るとホッとします。

ホシガレイの顔を見た後,すぐに作業をするわけではありません。
コーヒーを飲みながら,ぼーっと今日やることの段取りを考えたりします。
栽培センターの午前中は戦場のように忙しいので,いろいろ考えてるヒマなどありません。
この時間がとっても重要なのです。

3日前(飼育42日目)から,
変態が始まったホシガレイの赤ちゃんに配合飼料(いわゆる金魚のエサのようなもの)
を与え始めました。
新しいエサに餌付けるには,はらぺこの時(朝イチ)をねらいます。
タイマーと自動給餌機という文明の利器もありますが,
魚の食べ具合を見ながら餌の量やタイミングを調整できる手まきが好きなので,
このときばかりは夜明けから給餌作業を行います。

だいぶ配合飼料を食べるようになりました。
明日から自動給餌機に切り替えます。



左:配合飼料の給餌


右上:栽培センターの夜明け


右下:ホシガレイの赤ちゃん
   (45日目)大きさ16mm
   だいぶ眼が動いてきました。わかるかな?

職場にいても気持ちが休まりません。うちの赤ちゃんが気になってしょうがないからです。
だから作業が終わったらとっとと家に帰ります。でも,家に帰っても・・・(上に戻る)
 2008年3月1日 宝物(飼育40日目)

宮古栽培漁業センターでは,ホシガレイだけでも大小30面以上の水槽で飼育試験をしています。
私一人でホシガレイの飼育をしているわけではなく,
スゴ腕の先輩方や優秀なパートさん,多くの人が関わって飼育しています。

パートさんには,アルテミアのふ化やホシガレイへの給餌,底掃除をお願いしています。
パートさんのチェックは厳しく,ホシガレイ担当者は毎日のように叱咤されています。
「水槽の水位下がってるよ」「ホシガレイが変な動きしているよ」
と,ホシガレイ赤ちゃんのSOSサインも見逃しません。
おかげでこの前のピンチも乗り切り,ホシガレイの赤ちゃんはとても元気です。
ホシガレイ担当者がいなくても・・・
そんなパートさんは栽培漁業センターの宝物です。



左:ふ化したアルテミアを収獲しているところ

右上:小さな試験水槽の底掃除(水槽がたくさんあって大変。地道な作業です。)

右下:ホシガレイの赤ちゃん
(40日目)大きさ15mm
幅が広くなって,裏側の眼が表側に動き始めています。


うちの宝物(娘,もうすぐ4ヵ月)は最近パパとお風呂に入りたがりません。
お母さんの姿が見えなくなると大泣きするからです。パパなんていなくても・・・

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