独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.147 放流アカアマダイ発見! 産卵の可能性も!?  2009/07/06
宮津栽培漁業センター 町田 雅春
 アカアマダイは青森県以南,本州中部以南及び東シナ海に広く分布する暖海性の底魚で,特に若狭湾では「グジ」と呼ばれ,京料理の食材として親しまれています。
 宮津栽培漁業センターでは本種の研究開発に取り組み,育てた稚魚は京都府や島根県等に提供し,各府県が進めている放流技術開発試験に用いられています。
図1 アカアマダイ(親)
 また,当センターでは放流効果の把握に必要な標識技術の開発にも着手し,トラフグ等で利用されているイラストマー標識をアカアマダイに用いるなど,アカアマダイに有効な標識方法を開発し,その技術は各県で利用されています。
 宮津栽培漁業センターは京都府農林水産技術センター海洋センターと協力して,2007年からイラストマー標識を用いた若狭湾内でのアカアマダイの放流を開始しました (図1)。

図1 イラストマー標識を用いて放流したアカアマダイの放流尾数(若狭湾)
 京都府ではアカアマダイは主に釣り延縄漁業で漁獲されます。延縄漁業では小さな魚は漁獲対象外なため,放流魚が漁獲されるのは放流後2年以上経って,対象となる大きさに成長してからになります。そのため,放流効果の調査も放流後2年以上経過してからになります。

そこで,宮津栽培漁業センターでは2007年に放流したアカアマダイが漁獲され始めると考えられる本年度から,アカアマダイの放流効果を把握するための市場調査を開始しました。京都府内,特にアカアマダイの水揚げ量が多い伊根町漁業協同組合や宮津市漁業協同組合の市場を回って,水揚げされたアカアマダイにイラストマーの標識が付いたアカアマダイが混じっていないか調べ,また,宮津市漁協本所(養老)では,漁協の職員のみなさんに水揚げされるアカアマダイの調査をしていただきました。

 本年6月19日,宮津市漁協本所(養老)から「イラストマーのあるアカアマダイが見つかった!!」と連絡がありました。早速駆けつけてみると,漁獲されたアカアマダイが氷の入ったバケツに入れられていました(写真2)。


  写真2 延縄漁業で再捕されたアカアマダイ
再捕日:2009年6月19日
再捕海域:京都府伊根町鷲崎沖
放流後日数:820日
全長:240mm
体重:172g

写真3 イラストマー標識(赤色)
     標識を肉眼で見た状態

写真4 イラストマー標識(赤色)
     VIライトを照射しサングラスで見た状態
 イラストマー標識は肉眼でも確認できますが(写真3),専用のライトとサングラスを用いて検査すると,より鮮明に蛍光します(写真4)。
 付いていたイラストマー標識から,このアカアマダイは2006年10月に宮津栽培漁業センターで種苗生産され,2007年3月に京都府海洋センターが伊根町沖に放流(全長74mm,体重4g,1,800尾)したものであることがわかりました。放流後820日(2歳8ヶ月)を経過し,全長240mm,体重172gにまで成長して漁獲されたのです(図2)。

図2 放流したアカアマダイの成長
 このアカアマダイを解剖して卵巣の状態を調べた結果,アカアマダイは成熟した卵を持ち,また,排卵していたことから,産卵している可能性が高いことがわかりました(写真5)。
 これは,アカアマダイを放流することが漁獲量を増やすばかりでなく,海で産卵して子供を増やすことを示唆している,非常に貴重な情報です。
写真5 卵巣(排卵)
 このことは漁業者に大きな驚きを与え,漁業者たちのアカアマダイの栽培漁業への関心はさらに高まったようです。
 漁業者から,「小型のアカアマダイを見つけたときには,頭部を見て,イラストマーがついていないか見ている」という声が良く聞かれるようになりました。

 今後,放流したアカアマダイが成長してゆくのに伴って,水揚げされる漁獲物に放流魚が混入してくる可能性が益々高くなってくると期待されます。
 宮津栽培漁業センターは,今後も市場調査を重点的に行い,地元漁業者の協力を得ながら,アカアマダイの栽培漁業を効率的に進めるための研究開発を進めていきます。