独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.074 宮古湾をモデルとした種苗放流および効果推定技術の開発   2005/09/01
 栽培漁業の効果を高めるには,安定して放流できる技術とその効果を的確に判定することが重要で,調査結果を元に技術改善を繰り返す必要があります。
 そこで,宮古栽培漁業センターでは,宮古湾(図1)を試験海域としてヒラメ,クロソイ,ニシンの3魚種の稚魚の放流を行い,市場で水揚げされた魚を調査して,高い精度で放流魚の回収率(漁獲された放流魚の数/放流した尾数)を推定することを試みました。あわせて,天然海域における稚魚の生態調査を行い,回収率が変動する要因について考察しました。
  図1 宮古湾
平成16年度に行ったこと
 放流したすべての稚魚にはALC耳石標識(図2)が付いています。毎日,市場で水揚げされた対象3魚種について,標識が付いているかいないか全て調査し,放流魚がどれぐらい漁獲されているかを推定しました。特にニシンでは産卵のため宮古湾へ戻ってきた2歳および3歳魚(図3)を調査し,標識が付いている魚の漁獲状況から,平成12年と13年に放流した群の回収尾数を推定しました。


図2 ニシンのALC 標識
図3 放流稚魚と産卵に帰ってきたニシン
調査の結果明らかになったこと
 得られた調査デ−タを解析した結果,12年に放流したニシンの回収尾数は, 4月に放流した群が681尾なのに対して5月に放流した群は27尾と20倍もの差がありました。
 一方,13年に放流したニシンの回収率は,4月放流群と5月放流群の両方とも高く,両者の間に差がなかったことが明らかとなりました(表1)。別途宮古栽培漁業センターが行った稚魚の調査から,平成12年は天然のニシン稚魚の発生量が非常に少なく,逆に13年は多かったことが確認されています。
 このことは,ニシンの稚魚にとって適した環境であれば,時期に関係なく放流魚の生き残りは良くなるものの,12年のような厳しい時には4月に放流しないと,その後の生残率がきわめて低くなることを示しています。平成12年4月と5月の間で,ニシンの生き残りに差が出た原因は今のところ判明していませんが,4月の低い水温が外敵の行動や食欲を鈍らせ,ニシンの稚魚を守ったのではないかと考えています。いずれにしても,ニシンの栽培漁業を考える上で『放流の時期』というのは重要な条件であることに疑いの余地はありません。
次へのステップ
 これまでの調査から,宮古湾で放流したニシンは遠く北海道の噴火湾まで回遊することがわかっています。今後は,噴火湾まで行く時やそこから帰ってくる時に,どこでどれくらい漁獲されているのかを調査する予定です。また,栽培漁業の中で最も多く手がけられ,全国で毎年約2,500万尾が放流されているヒラメについても,より適した放流時期を確認するため,ニシンと同じように2つの群をALC標識で識別して放流し,宮古魚市場で調査を行うことを計画しています。