独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.073 今年もサワラの量産に成功し,放流を行いました   2005/07/25
 西京漬け等でお馴染みのサワラですが,本種は北海道以南の日本沿岸,黄海,東シナ海に広く分布し,水温が15℃近くになる5〜6月に産卵のため内湾に来遊します。
 瀬戸内海ではこの産卵に来るサワラを漁獲する流し網漁が盛んで,1986年のピーク時には6千トン以上の水揚げ量がありました。しかし,ナイロン網などの高性能な漁具の普及や,未成魚を漁獲する秋漁が始まったことなどから乱獲が進み,1998年にはわずか196トンまで漁獲量が減少しました。そのため瀬戸内海の関係県並びに漁業者や関係団体から種苗放流に対する強い要望が出され,それに応えるため1998年から屋島栽培漁業センターで,2002年から伯方島栽培漁業センターで,それぞれサワラの種苗生産技術開発を開始しました。
写真1 魚市場に水揚げされたサワラ
 サワラは親の飼育が難しいため,種苗生産用の卵は天然魚を人工授精して入手します。しかし漁獲量が少ないため,人工授精に適した新鮮な成熟した大型のサワラを手に入れることは非常に困難でした。そこで,サワラの漁場海域に船を待機させて,親魚として使えそうなサワラを漁獲した漁業者からの無線連絡を受けると直ちにその操業場所まで急行し,親魚を受け取ってすぐに船上で採卵・採精し,卵と精子が確保できたらすぐに授精作業を行うという体制を取りました。
 こうした漁業者と県,栽培漁業センターの密接な連携によって,少ない漁獲量ながらも毎年の種苗生産に用いる卵を確保することができるようになりました。
 写真2 船上での採精作業
 サワラは成長が早く,ふ化から25日程度水槽で飼育すると大きさが約4cmになります。これはマダイやヒラメの成長スピードの2〜3倍の速さです。ただし,典型的な魚食性の魚で,一般の魚類が食べるプランクトンなどはいっさい食べず,天然ではふ化してからすぐにカタクチイワシのシラスを主に食べ始めます。種苗生産では生きたシラスを与えることができないので,マダイやヒラメなどのふ化仔魚を与えます。また,サワラが成長してこれらの餌では物足りなくなるとお互いに共食いを始めるので,これを防ぐため冷凍したイカナゴのシラスを与えます。しかし,サワラの稚魚は,生き餌と違ってこのシラスをあまり積極的には食べないため,日の出から日の入りまで飼育水槽の上に座り,一日中ぽつぽつと給餌して,徐々に餌付けていきます。
写真3 イカナゴのシラス
 こうして今年度も約4cmの大きさの種苗を屋島栽培漁業センターで13万尾,伯方島栽培漁業センターで10万尾生産し,これらの種苗を漁業者の行う中間育成場へと運びました。今年度の中間育成は香川県,岡山県,兵庫県,愛媛県,広島県で行われました。これらの中間育成は一般に海面へ浮かべた筏の小割り網(生け簀)を使いますが,香川県では約5,000平米の広さがあるクルマエビの中間育成池も使いました。なお,放流後に漁獲されたものが放流魚か天然魚かがわかるように,これらの種苗の耳石(耳に相当する内部器官)を染色しています。また,一部はハンダゴテで魚体の側面部を焼いた焼印標識が付けてあります。

写真4 焼印標識を付けたサワラ稚魚
 そして約2週間の中間育成を終えた6月22日,9〜12cmに育った種苗を,瀬戸内海東部海域で10.1万尾,西部海域では4.1万尾が放流されました。放流に先立って,漁業者や関係者,地域の子供たちなどによる放流式も行われました。

 放流したこれらの種苗は,年末には体重が1.2kgを超え,翌年には1.5〜2.5kgに成長して漁獲されます。これまでに漁獲されたサワラに混じっていた放流魚の割合(混獲率)を調査したところ,2003年に放流した群では2〜4割と予想以上に高く,放流魚が順調に天然資源と混じり合っていることが明らかになりました。また放流魚が天然魚と同様に,冬に内海から外海域へ移動した後,春になると再び内海域へと産卵回遊してくることもわかりました。しかし,これだけ放流魚の混獲率が高いということは,サワラの資源量が極めて低水準であることの証明にもなるため,今後もサワラ資源の回復に向けて種苗生産・放流に取り組んでいきたいと考えています。
 写真5 サワラを放流する子供たち