独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.072 ズワイガニ稚ガニの生産尾数の最多記録を更新   2005/07/13
 ズワイガニは松葉ガニ,越前ガニなどとも呼ばれ,冬の日本海を代表する美味しいカニです。しかし乱獲等により資源が減少し,栽培漁業による資源の増大が期待されていますが,種苗量産には至っていません。これまでは平成15年度に6,800尾の稚ガニを生産したのが最高でしたが,今年は給餌方法を変えることで8,886尾を生産し,最多記録を更新するとともに,当面の目標である1万尾まであと一歩に迫りました。1万尾は大量生産への可能性を示す重要な目安とされ,1万尾できれば10万尾への道も夢ではありません。
  写真1 ズワイガニの稚ガニ
はじめに
 ズワイガニは冷水域に棲む大型の甲殻類であり,雄は甲幅15cm,雌では8cmぐらいまで成長しますが,成長が遅く,これらの大きさになるまで10〜15年かかるといわれています。日本海の重要な漁業資源であり,ほとんどが底引き網で漁獲されます。日本海の漁獲量は昭和38年に15,600トンのピークに達した後,急激に減少し,一時は2,000トン以下に減少しましたが,その後徐々に増加し,近年(平成12〜15年)は4,000トン前後で推移しています。
技術開発の経緯
 ズワイガニを飼育する試みは昭和39年頃から始められ,昭和44年に福井県で初めて稚ガニまでの飼育に成功しました。昭和52年からは各県の水産試験場で研究が始められ,水産総合研究センターでは昭和59年から小浜栽培漁業センターで,平成6年から宮津栽培漁業センターで取り組みを始めました。
 しかし,稚ガニの生産尾数が1,000尾を超えた例が,平成13年までに3例(1,295〜1,502尾)しかなかったことが示すように,ズワイガニの大量生産は困難を極めました(図1)。

図1 ズワイガニ稚ガニ生産尾数の推移
 ズワイガニは第1齢ゾエア(Z1)でふ化し,約20日目に第2齢ゾエア(Z2),40日目にメガロパ(M),60〜70日目に第1齢稚ガニ(C1)になります。ふ化直後の幼生は飼育水中によく浮遊しますが,成長とともに浮遊性が失われ,飼育開始後10日目から15日目には,ほとんどの幼生が水槽の底に沈下し,水槽底面の汚れの影響により死亡してしまいます。この沈下が種苗生産上の最大の問題でした。
 小浜栽培漁業センターでも,初期の10年間は主に0.2〜20KLの大型水槽を用い,あらゆる飼育条件で飼育を試みましたが,大量生産ができませんでした。続く7年間は主に1Lの小型水槽を用いて,飼育水温等の基礎条件の解明に取り組みました。そして,平成13年には機械的撹拌により幼生の沈下を防止しつつ,ニフルスチレン酸ナトリウムの薬浴で細菌感染を防止する方法により,500L水槽で沈下による大量死が防止できたことから,翌年からこの方法を利用して大型水槽による技術開発を始めました。この取り組みにより,平成15年には20KL水槽において回転速度をちょうど良い速度にすることで,過去最多の稚ガニ6,800尾を飼育することができました。
 次の課題としてはMへの脱皮時の大量死が挙げられます。平成15年の好事例においても,Z2からMまでの生残率が30%以下と大きな問題になりました。小型水槽を用いた飼育試験で,ゾエア期の餌に注目して原因を検討した結果,餌料の栄養や給餌密度および給餌方法などの改善によってこの期間の死亡を軽減できる可能性が示唆されました。
本年度の取り組み
 本年度は,給餌方法の試験を20KLの大型水槽で行いました。アルテミアを基本餌料としてワムシをZ1まで与える区(対照区)とZ2まで与える区(試験区)について2回の飼育試験で比較しました。(表1)
表1 給餌方法が幼生の生残に及ぼす影響
 2回目の試験では対照区の飼育水中に粘液状物質が発生してほぼ全滅しましたが,1回目の試験では試験区の生残率が対照区を50%以上上回ったこと,試験区はMへの脱皮後も活発に遊泳し,活力が良い傾向がみられたことから,ワムシを長期間給餌する方法の優位性が確認されたものと考えられました(図2,3)。また, 4例の飼育試験中3例で1水槽当たり15,000尾以上のMを生産することができたことから,撹拌と薬浴を組み合わせた飼育方法の再現性が確認されました。
 本年は4回の飼育試験で,合計55,580尾のメガロパを取り揚げることができました(表2)。そして取り揚げたメガロパを継続して飼育して,合計8,886尾の稚ガニを生産し,平成15年度に得られた記録を更新することができました。
図2 1回目試験の結果概要
図3 2回目試験の結果概要
表2 メガロパから稚ガニまでの飼育試験結果概要(H17)
今後の取り組み
 今回の飼育試験によって,稚ガニの生産尾数がもう少しで1万尾を超えられそうになりました。1万尾は大量生産できる可能性を示す重要な目安とされ,1万尾できれば10万尾への道も夢でなくなると,我々種苗生産に関わる者は考えています。また生産した稚ガニを放流することで,資源添加への取り組みも可能になってきます。一方,現在,メガロパ脱皮時の減耗が大量生産の最も大きな課題と考えられます。今後は小型水槽で培った餌料中の高度不飽和脂肪酸や,給餌方法に関する知見を大型水槽に適用し,Mへの脱皮時の生残率を向上させてゆく予定です。
 今回の報告では触れませんでしたが,ニフルスチレン酸ナトリウムを使用しない飼育方法を確立するという課題もあります。しかし,まず現在の方法を確立して稚ガニ1万尾の安定生産ができるように,職員一同がんばりたいと考えています。