独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.060 ヒラメ,オニオコゼに装着したイラストマー標識の識別期間   2004/09/01
伯方島栽培漁業センター
 放流効果の実証試験には,標識を付けた種苗を放流して調査する方法が行われています。使用する標識には,外部標識と体内標識があります。
 外部標識には,アンカータグ等を装着する方法,鰭の切除や抜去および魚体表面に焼印を行う方法等があり,体内標識には墨汁等の色素を皮下注射する方法や薬剤による耳石や鱗の染色等があります。
 体内標識の中で,蛍光イラストマーによる標識法は,蛍光色素を混ぜ込んだ特殊なシリコン剤であるイラストマーを魚の皮下に注入するものです(写真1)。この方法では,注入するイラストマーが少量であるため,魚体への負担が小さく,体内標識でありながら外部から標識の有無を確認できることから,その有効性が報告されています。
 そこで,ヒラメとオニオコゼにこの標識法を応用し,標識の識別可能な期間の調査と有効性を検討しました。

写真1 オニオコゼへのイラストマー標識の装着風景
試験の方法

写真2 ヒラメのイラストマー標識
装着直後の識別状態
 ヒラメでは,平均全長131mmの稚魚40尾を用いて,2001年10月10日〜2004年5月12日まで行いました。標識の色は蛍光オレンジで,無眼側の胸鰭基部で表皮が透明な部分へ1〜2mmの直径になるよう注入しました(写真2)。
 標識の観察は,装着後945日までに8回行いました。標識の識別基準は,「見える」,「見えにくい」および「見えない」の3段階とし,「見える」は形状を問わずイラストマーが確認できる場合,「見えにくい」は注意深く観察しないとイラストマーが確認できない場合としました。
 オニオコゼでは,平均全長83mmの当歳魚50尾を用いて,2002年12月21日〜2004年6月9日まで行いました。標識の色は蛍光オレンジで,頭部皮下に肉眼で確認できる分量を装着しました(写真3)。標識の観察は,3ヶ月毎に計6回行い,紫外線ライトを照射して標識の識別の有無を調査しました(写真4)。

写真3 オニオコゼのイラストマー標識
装着直後の識別状態

写真4 オニオコゼのイラストマー標識
装着直後の紫外線照射による識別状態
ヒラメの結果
 ヒラメでは,飼育水温が上昇して死亡が増え,945日目には12尾となりましたが,標識の識別状態は表1のように推移しました。ヒラメの体内に注入したイラストマーは,成長に伴って筋肉へ埋没することはありませんでしたが,形状は時間の経過に伴って装着時の塊状から鰭の伸張方向に分散し,さらに線状から点状へと変化しました(写真5)。点状となったイラストマーは,肉眼での確認が困難でしたが,紫外線ライトを照射すると全ての観察日で識別可能でした。この結果,ヒラメの無眼側胸鰭基部に装着したイラストマー標識は,紫外線ライトを用いることで,外部から3年間の長期にわたって識別できる有効な標識であることがわかりました。
表1 イラストマーで標識したヒラメの標識識別状況

写真5 ヒラメのイラストマー標識装着後945日目
紫外線照射による識別状態
オニオコゼの結果
 オニオコゼを用いた試験では,標識の識別状況は表2のようになりました。標識は装着後6ヶ月後までは100%識別できましたが,その後は徐々に低下し,18ヶ月後には73%となりました。標識の識別が装着後6ヶ月後以降に低下した理由は,この期間が海水温の上昇期であったため,供試魚の成長に伴って皮膚が肥厚し,標識が皮下深くに埋没したことが原因であると考えられました(写真6,7)。今後は,皮膚の肥厚に伴うイラストマーの埋没を回避するために,頭部以外の適正な装着部位について検討する必要があると思われました。
表2 イラストマーで標識したオニオコゼの識別状況

写真6 オニオコゼのイラストマー標識
装着後18ヶ月目の識別状態

写真7 オニオコゼのイラストマー標識
装着後18ヶ月目の紫外線照射による識別状態