独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.054 マダラの早期採卵と大型種苗の量産に成功   2004/06/01
はじめに
 マダラは冬の北陸で人気が高い高級魚ですが,近年日本海系群の資源状態が低迷し,石川県におけるここ数年の漁獲量は,ピーク時の1/5の300トン以下となっています。能登島栽培漁業センターでは,昭和57年の開所当初から本種の種苗生産に取り組んできましたが,飼育は困難を極めていました。しかし,様々な飼育手法を検討したことで,昨年度の71.0万尾に引き続き,今年度も74.9万尾の大量生産に成功しました(図1)。特に,今年は富山県水産試験場で成功された早期産出卵を譲り受けて飼育を行ったことで,大型種苗ができました(図2)。以下に概要を紹介します。
図1 マダラ種苗生産尾数
図2 マダラ種苗の成長の推移
早期採卵による大型種苗の確保
 マダラは本来低温域に棲息している魚種であり,水温が12℃を越えると稚魚は体調不良を起こしやすく,飼育が困難になります。このため,能登半島周辺で2月に漁獲される天然親魚から採卵して飼育を開始すると,水温が12℃を越え始める4月時点では,稚魚のサイズはまだまだ小さく,飼育環境の悪化や病原性ウイルスに対する抵抗力も弱く,大量死する事例がありました。
 そこで,富山県水産試験場と共同で,一年中水温が3℃という海洋深層水を用いて天然親魚を養成し(図3),産卵期を調整する技術の開発に取り組んできました。今年度は,さらに親魚の性成熟を促すため日長処理(1日に照明する時間を9月に短く,12月にかけて徐々に長くする)を行ったところ,12月末には雌雄とも成熟が進行して受精卵が得られ,1月初旬に種苗生産を開始することができました。その結果,4月時点で全長50〜60mmの,従来より大型の種苗を生産することができました。

図3 深層水を用いて養成中の
マダラ親魚
2年連続で大量生産に成功
 昨年は配合飼料の餌付けと,全長12〜13mmでの早期沖出しによる海面小割り網飼育(図4)を行い,はじめて71万尾の大量生産に成功しました。成功の要因は,低温培養ワムシの使用や十分な栄養強化の実施,活魚移送ポンプ,魚数計,底掃除機などの機器の積極的な利用も役立ったと考えています。今年度も昨年度の再現を目指して同様の飼育を行うとともに,常時電照飼育を取り入れ,稚魚が常に餌を摂れるようにすることで成長と生残の向上を図りました(図5)。その結果,深層水養成親魚由来の種苗は,全長32mmで39.7万尾(生残率41.4%)を,また天然親魚(富山湾産)由来の種苗は全長28mmで35.2万尾 (生残率33.1%)を取り揚げることに成功しました(図6,7)。

図4 マダラ稚魚の海面小割網飼育
網替え作業

図5 常時電照することで稚魚の摂餌行動を促し,
成長と生残が向上(陸上水槽)
図6 活魚移送ポンプを用いたマダラ種苗の取り揚げ作業
図7 マダラ種苗生産における生残率の推移
今後の課題
 2年連続してマダラ種苗の量産ができたことから,今後はこれらの種苗を用いた放流技術開発にも取り組んでいきたいと考えています。マダラではアリザリン・コンプレクソンによる耳石の標識も行っておりますが,早期採卵技術の開発により飼育開始時期を早めることで,大型当歳種苗が確保でき,外部標識を装着した種苗の放流も可能になりました(図8)。別途実施している1歳魚標識放流魚もあわせて,漁業者の皆様には漁獲時のご報告をよろしくお願いします。

図8 外部標識(アンカータグ)を付けたマダラ当歳魚