独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.055 養殖研究所に次いでウナギ仔魚のレプトケファルスまでの飼育に成功   2004/06/01
はじめに
 志布志栽培漁業センターでは,2001年からレプトケファルス型魚類の種苗生産技術の開発を開始しました。レプトケファルスとは「小さな頭」という意で,葉形仔魚とも言います。柳の葉っぱのような形をしたウナギ目,カライワシ目,ソコギス目に分類される魚の仔魚の総称です。
 現在,当センターではウナギ目に属するハモとウナギを対象種とし,質の高い卵を得るための親魚養成と採卵方法の開発に取り組んでいます。卵質の良否を判定するために,得られた仔魚の飼育を試みて初期の生残や成長を調べていますが,そこで生残したウナギの仔魚を継続して飼育を行っていたところ,わずか2尾ですが,全長36mmと16mmのレプトケファルス(図1,2)の飼育に成功しました。その事例について紹介します。

図1 日齢254日レプトケファルス(全長35.9mm 体高5.4mm)

図2 日齢110レプトケファルス(全長16.0mm 体高1.7mm)
他機関での飼育の取り組み
 ウナギについては,養殖研究所が1999年に3cmのレプトケファルスまでの飼育に成功し,昨年はついに世界でも初めてとなるシラスウナギまでの飼育に成功しています。他のウナギ研究機関でも,養殖研究所の飼育方法に準じて飼育試験が試みられており,愛知県水産試験場内水面漁業研究所で61日生存(全長9.7mm),株式会社いらご研究所で50日生存(全長13mm)という記録がみられますが,いずれも養殖研究所の飼育方法を再現するまでには至っていません。
志布志栽培漁業センターでの取り組み
 今回のレプトケファルスまで飼育できた事例も,養殖研究所の飼育方法に準じています(詳しく知りたい方は養殖研究所HPへ)。親の来歴は,雌は当センターでシラスウナギから養成したもので,雄は雌と同じ養成ウナギと養殖ウナギを海水馴致したものでした。ウナギは雌も雄も単に飼育するだけでは成熟しないので,養殖研究所が開発した産卵誘発方法に準じてホルモン投与による産卵誘発により受精卵を得ました。
 ふ化仔魚の飼育では,日齢8から給餌を開始しましたが,初期の減耗は大きく,日齢20での生残率は4%(約260尾)と8%(約450尾)でした。これまで当センターが行った飼育例では,すでにこの段階で全滅しているか,生残していても1%にも満たないという結果が続いていました。それに比べると,今回は「良い」結果であるといえます。(図3)

図3 ウナギ仔魚の給餌開始後の生残率
実線がレプトケファルスまで飼育できた飼育例
飼育仔魚は成長が遅い
 その後,飼育を継続しましたが減耗がおさまることはなく,日齢128と日齢73で1尾ずつが生存するのみとなり,それぞれ日齢254(全長36mm)と日齢110(全長16mm)で飼育を終了しました。成長は非常に悪く,1999年の養殖研究所の成績になんとか追い付いたといえる程度でした。
 天然のレプトケファルスは1日に0.43〜0.46mm成長し,シラスウナギはふ化して150〜200日で日本へ来遊します。この計算に従うと,天然ではウナギ仔魚が全長16mmになるのに20〜25日,同じく36mmになるのに66〜70日ですから,飼育では天然の4〜5倍の時間を要していることになります。(図4)

図4 ウナギ仔魚の成長の比較
着実に,確実に
 ここで述べた初期生残の低さや成長の遅さをはじめ,ウナギの種苗生産にはまだまだいくつもの課題が山積みです。しかし,技術開発を始めて3年目にして全長30mm以上のレプトケファルスまで飼育できたことは,担当する我々にとっては大いに勇気づけられる「事件」でした。現在,4年目のシーズンの真っ最中です。当面は卵質の向上による初期生残の向上が大きな課題ですが,日齢20の段階での生残率が5事例で10%を超えるなど,少しずつではありますが,技術は向上しつつあります。