独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.050 過去最多のズワイガニ稚ガニの飼育に成功   2004/04/01
技術開発の経緯
 ズワイガニの種苗生産では,飼育管理が行き届く小型容器のレベルでは稚ガニまでの基礎的飼育条件が明らかになり,生残率30〜50%の安定した飼育が可能になりました。しかし,大型水槽では依然として飼育は困難であり,その主な原因として,幼生が沈下して局所に固まりやすく(写真1),一部の死亡個体や排泄物等の沈殿物由来の細菌感染症により大量死すると考えられています。

写真1 水槽底面に沈下した幼生(日齢7)
 幼生の沈下を防止するために,平成13年度の飼育試験では,撹拌装置(写真2)で飼育水を撹拌し,さらに沈下した幼生の細菌感染症を防止するために週に1回程度の薬浴を行いました。その結果,撹拌装置による幼生の沈下防止効果が認められ(図1),中型水槽(500L)で初めて5000尾/L以上メガロパを飼育することに成功しました。平成14年度は,この成果を20KLの大型水槽に応用するため,大型の撹拌装置(写真3)を製作して飼育試験を行いました。しかし,撹拌の影響と考えられる棘折れ個体や摂餌不良個体が大量に出現し,飼育水の撹拌効果による生残尾数の向上は見られませんでした。

写真2 撹拌装置を設置した500L水槽

図1 撹拌による幼生の沈下防止効果

写真3 撹拌装置を設置した20KL水槽
平成15年度の試験方法と結果
 そこで,平成15年度は20KL水槽での撹拌装置の適正な使用方法について検討しました。まず,撹拌装置の適正な回転速度を把握するため,回転数を0回転/分,0.5回転/分,1回転/分とする3区を設けて飼育試験を行いました。
 その結果,20KL水槽においても撹拌装置の使用に効果が認められ,回転速度は1回転/分より0.5回転/分の方が棘の正常率,成長,生残が良いことが明らかになりました(表1,図2,3)。また,本試験では,初めて大型水槽で稚ガニまで飼育することに成功するとともに(図4),過去最多の稚ガニ6,800尾を生産することができました(写真4)。
表1 撹拌装置の回転速度が幼生に及ぼす影響
試験区
撹拌装置の回転速度
取り揚げ(メガロパ)
日齢(日)
生残尾数(尾)
生残率(%)
1
撹拌装置なし
41
5,470
2.7
2
0.5回転/分区
41
22,610
11.3
3
1.0回転/分区
41
14,840
7.4
合 計
42,920
 
(20KL水槽に各20万尾収容)

図2 撹拌装置の回転速度が背棘の正常率に与える影響(20KL水槽)

図3 平成15年度の結果と過去の結果との比較(20KL水槽)

図4 ズワイガニ稚ガニ生産尾数の推移
今後の取り組み
 今回,撹拌装置と薬浴の併用により,量産化が困難とされていたズワイガニで,どうにか量産化を視野に入れた試験が実施できるようになりました。しかし,本年度の大型水槽での飼育試験でみられたメガロパ変態時の大量死亡は,今後の重要課題として残されています。今後は,再現飼育を行うとともに,メガロパ変態時の大量死亡の防止に重点を置いた技術開発に取り組んでいきます。特に,メガロパ変態時の大量死亡については,その死亡要因をゾエア期の高度不飽和脂肪酸の要求量から検討していきたいと考えています。

写真4 量産水槽で生産した1齢期の稚ガニ