独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.049 瀬戸内海東部海域でのサワラの放流効果調査   2004/04/01
はじめに
 独立行政法人水産総合研究センター 屋島栽培漁業センターでは,瀬戸内海東部海域におけるサワラ資源回復の実証のため,平成12年度以降,大規模な実験放流を実施しています。ここではその概要について紹介します。
中間育成
 全長40mmで取り揚げた種苗は,直接放流を除いて全長100mmまで中間育成します。中間育成は通常,海面小割網を用いて行われる事例が多いですが,香川県小田にある70×70×1.2mの規模を持つ築堤式の大規模中間育成施設での実施もあります。サワラの稚魚は,イカナゴを餌料に用い約2週間の中間育成を行うと全長100mmに成長します。

小割網での中間育成,
放流時の計数作業

香川県小田の大規模中間育成施設
標 識
 放流効果調査の標識として,平成12年度以降はALC耳石標識を中心に焼印標識等の全数標識を行いました。
耳石に標識されたふ化仔魚
ふ化仔魚で装着した耳石
(標識径28μm)
全長10mmで装着した耳石
(標識径140μm)
焼印標識魚
種苗放流
 平成10年から種苗生産の技術開発を再開し,平成15年度までの7年間で全長40mmの小型種苗と100mmの大型種苗あわせて約60万尾を放流しました。放流は,6月上旬に直接放流を,6月中旬から下旬にかけて中間育成したものを放流しました。放流場所は,直接放流は屋島栽培漁業センター前浜から,中間育成したものは育成海域で行いました。放流魚全数への標識は,平成12年から実施しています。これまでの調査で,サワラ当歳魚の成長は放流後1ヶ月で20〜30cm,4ヵ月で60〜70cmに達し,当年の9〜10月以降には体重も1kgまで成長して完全に資源加入することが明らかになりました。また,放流翌年の春には放流魚の一部が産卵回帰することが明らかになりました。

瀬戸内海東部海域における放流尾数の推移
放流魚の再捕状況
 放流直後から瀬戸内海東部海域(備讃瀬戸,播磨灘,大阪湾,紀伊水道)で,混獲や漁獲により水揚げされた当歳魚を中心に無作為に調査しました。これらのサワラでは,耳石標識の有無を調べるなど,放流魚の有標識率調査を実施しています。平成14年度の調査では,9月以降で体重1kgに達したサワラ当歳魚の有標識率は4〜5%に達し,完全に資源加入していると推察されました。また,15年春期に産卵回帰して播磨灘で漁獲された体重1.3〜2.0kgの1歳魚606尾について調査したところ,14年度に放流した群と考えられる7.6%の放流魚が含まれていたことがわかり,種苗放流が資源回復に貢献していることが明らかになりました。同様に15年放流群については,9月以降の有標識率が平均で30%に達し,15年度は天然での発生が極めて少ないことが明らかになりました。

平成14年 放流群別の放流地点
平成14,15年放流群の9月以降の再捕状況
平成14年度放流魚の1歳魚での再捕状況
 また,平成14年の瀬戸内海東部海域の資源量1,000トンを平成18年に1,200トンまで回復させる資源回復確率をシミュレーションしたところ,その確率は全長100mm種苗10万尾の放流と1割減の漁獲規制で38%と見積もられました。

サワラ試験操業

瀬戸内海東部海域におけるサワラ資源回復シミュレーション