独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.044 トヤマエビのミトコンドリアDNAによる遺伝的差異   2004/02/02
開発の背景と目的
 トヤマエビは,水深100〜400mの冷水域に生息し,体長は200mm程度になる比較的大型のエビです。市場ではボタンエビの名で流通しており,日本海北東部や北海道では重要な水産資源となっています。
 本種の種苗生産では,漁獲された天然抱卵親エビからふ化した幼生を使用しており,例年100尾の親エビから得られたふ化幼生の70%以上を利用しているため,生産した種苗の遺伝的多様性は保持されていると考えています。

 一方,親エビの確保は漁獲量に左右されるため,安定的に親エビを確保するには,産地の異なる親エビを利用することも考えていかねばなりません。しかし,放流種苗の遺伝的多様性や,放流海域のものと遺伝的に異なる群を放流することを疑問視する意見があり,産地の異なる親エビを使用する場合,産地間の遺伝的差異を把握することが必要です。
 そこで,本種の漁獲が多い北海道の2ヵ所,親エビを購入している能登半島西岸域,生産種苗を放流している富山湾の天然トヤマエビについて,ミトコンドリアDNAの解析を行い,遺伝的差異について検討しました。

トヤマエビ


技術開発の成果
 各海域のサンプルについて,ミトコンドリアDNAのコントロール領域をPCR法によって増幅し,その増幅産物を9種類の制限酵素を用いて切断した断片像からハプロタイプを決定しました。そのデータを用いて,多様度や集団間の異質性の検討を行いました。
 9種類の制限酵素のうち,7種類で断片長に多型が見られました(例としてXSP-Iの断片像を示しました)。それらを組み合わせて,14のハプロタイプを検出しました。多様度を示すハプロタイプ多様度は0.562〜0.628であり,多様度の低下は見られませんでした。富山県滑川産においてハプロタイプ数の減少が認められるものの,モンテカルロ法による検定の結果,4集団の間では有意差は認められませんでした。