独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
研究情報等
トピックス
No.043 飼育環境条件の制御によるヒラメの9月産卵   2004/01/07
親魚養成技術開発チーム

写真1
 ヒラメ(写真1)は,千島,樺太,北海道から九州にわが国の各地沿岸海域及び朝鮮半島から東シナ海にわたる広範囲に分布している。2001年の全国の漁獲量は約7,000トンに達し,栽培漁業の対象としても最も重要な魚種の一つです。
 これまでに,ヒラメ親魚の飼育水温や光条件を制御することにより,通常の産卵期(4月から6月)よりも早い2月に採卵可能な技術を開発し,得られた卵を用いた放流用種苗の生産を行ってきました。放流効果を把握する上では,時期別に任意のサイズの放流種苗を確保することも重要であるとともに,ネオヘテロボツリウム症のように天然海域で危険度の高い疾病では,その原因体の増殖適期を避けた放流の試みも今後考慮する必要があります。
 そこで,当該チームでは,ヒラメ親魚から周年採卵の可能性に向けて養成親魚の飼育環境条件(特に水温と光両条件)の制御による非産卵期(9月)における採卵技術開発に取り組み,2年間続けて採卵に成功しましたので以下に紹介します。なお,本技術開発は宮津栽培漁業センターと共同で行ったものです。
方法
 平成11〜12年に若狭湾で漁獲された天然魚(1+歳)を,1〜2年間養成して親魚に供しました。試験水槽にはコンクリート水槽(60 kl)2面を用い,親魚を各12尾(♂:♀=5:7)収容し,冷凍マアジを給餌しました。試験区は,水温および光の両条件を制御し,対照区は自然条件としました。水温条件は,4月までは両区とも自然水温としました(図1)。その後,試験区では6月までの間は加温により18℃から20℃を維持し,7月以降は16℃まで冷却しました。


図1 ヒラメ親魚の水温(上)と
光(下)条件の制御方法
 光条件は,試験区では水槽上部に黒色ターポリンシートを設置して外部からの光を遮断しました(写真2)。水槽上部には40 wの蛍光灯2基を設けて3月から5月までを短日処理(8L16D),7月以降は採卵試験が終了するまで長日処理(18L6D)としました(図1)。
写真2
結果
 試験区における水槽内での自然産卵は,平成14年および15年にはそれぞれ8月29日及び8月26日に初回産卵が認められた(表1)。採卵試験期間中の総採卵数は,それぞれ397万粒および183万粒で,ふ化率はそれぞれ30.8 %および76.3 %でした(表1)。また,得られたふ化仔魚の無給餌生残指数(SAI)は,14年および15年でそれぞれ16.7および45.8でした。
 さらに得られたふ化仔魚の初期生残率(=飼育初期10日間の生残率)は,それぞれ88.7 %および76.7 %でした(表2)。
表1 ヒラメ9月採卵試験結果の概要
年度
試験
設定区
産卵期間
(産卵回数)
総採卵数
(万粒)
浮上卵率
(%)
受精率
(%)
ふ化率
(%)
14
試験区
対照区
H14.8.29-9.30
(30)
397
0
29.0
-
92.1
-
30.8
-
15
試験区
対照区
H15.8.26-9.30
(19)
183
0
15.4
-
48.0
-
76.3
-
表2 ヒラメ仔魚のSAIと初期生残率
年度
SAI
初期生残率(%)
14
16.7
88.7
15
45.8
76.7
 これらの結果から,ヒラメ天然養成親魚を用いて,水温および光の両環境条件を制御することにより,2年続けてヒラメの非産卵期である9月に水槽内での誘発産卵に成功しました。また,得られた受精卵の卵質や,ふ化仔魚を用いて行った飼育試験結果は,通常の産卵期に得られたそれらと比較して遜色もないことがわかりました。このことにより,通常の時期(4月から6月)と2月における採卵技術に加えて,今回の成功により9月での採卵が可能となり,周年にわたる採卵技術が開発されたことになります。