研究情報等
トピックス
No.040 イセエビフィロソーマ幼生の新型飼育用装置を開発! 2003/12/10
―回転型飼育装置による生残率の向上―
南伊豆栽培漁業センター
はじめに
イセエビは,卵からふ化すると体の大きさが約1.5mmのフィロソーマと呼ばれる平べったいクモのような透明な幼生になります。ふ化したフィロソーマは,300日以上もかかって30回ほど脱皮して30mm程度まで成長(写真1)した後,プエルルスと呼ばれる20mmほどの透明なエビ(別称:ガラスエビ)に形を変えます(写真2)。それから2〜3週間後にやっと親エビと同じ色や姿の稚エビになります(写真3)。この稚エビもだいたい20mmくらいの大きさです。
天然海域では,沿岸でふ化したフィロソーマは,黒潮を越えた沖合水域で成長するといわれており,ふ化から約1年後に黒潮水域の中でプエルルスに形を変え,主に太平洋側沿岸の各地に着底します。沿岸の藻場に身を潜めて1週間から10日ほどで色素が出て稚エビに成長します。
写真1 ふ化後250日齢のフィロソーマ
写真2 プエルルス
写真3 稚エビ
イセエビフィロソーマの人工飼育の歴史は,ふ化幼生を用いた飼育が1899年に報告されて以来,100年以上にも及び,1989年に初めて三重県と北里大学で稚エビまでの人工飼育に成功しました。このようにフィロソーマの飼育は非常に困難であり,現段階では飼育に関する知見が徐々に集積されつつありますが,まだ量産段階には至っていません。
回転型飼育装置を開発した経緯
南伊豆栽培漁業センターでは,1989年からイセエビフィロソーマの飼育技術開発に取り組み,水量1〜50Lのアクリル製ボウル型水槽を開発しました。その結果,脱皮時に多く発生する胸脚の欠損が軽減され,20〜30尾(1994年最高54尾)の稚エビの生産が可能となりました。しかし,フィロソーマの生残は不安定で,活性の高いフィロソーマを安定的に飼育するための要素解明には至っていません。
フィロソーマの飼育が難しい原因は,1.フィロソーマの幼生期間が約300日を要し,その期間を通して良好な飼育条件を維持することができないこと,2.利用できる餌料は,アルテミアとムラサキイガイの生殖腺しかないこと,3.特異的な形態のため個体同士の干渉により脱皮時に長い胸脚が折れてしまうこと,4.フィロソーマは沈みやすく水槽底の糞や残餌等の影響を受けやすいこと,5.水槽の底が汚れるため毎日新しい水槽に移し替えなければならず小容器での飼育しかできないこと,などが挙げられます。
このような問題を解決し,フィロソーマのより安定した飼育技術を確立するためには,適切な人工飼料の開発とともに,幼生の生態にあわせて環境を制御できる飼育システムの開発が必要となります。
フィロソーマの生残や活性を高めるためには,飼育水槽内を清浄な環境に維持することが必須ですが,同時に飼育初期の餌料として使用するアルテミアや日齢30前後から併用するムラサキイガイ生殖腺の細片をより効率的に摂餌させることも重要な要素となります。そこで2000年より,フィロソーマに餌料を効率的に摂餌させるための回転型飼育装置の開発を行ってきました。
写真4 回転型飼育装置
回転型飼育装置による飼育結果
回転型飼育装置(写真4)は,容量70Lのアクリル製でドーナツを立てた型となっており,モーターにより回転速度を調整でき,水槽を回転させながら換水や水温を制御できる特色をもっています。
これまでの飼育試験の結果,1.回転速度は6〜6.5分/回転が最適であること,2.回転することにより水槽内に水流を発生させ,給餌したアルテミアやムラサキイガイ生殖腺を常に動かしてフィロソーマとの遭遇機会が増えること,3.水槽が常時縦に回転するため底面の堆積物が少なくなり,清浄性が確保されて水槽替えの頻度が少なくなること,4.幼生も沈降せず常に浮遊しているため,幼生の活性が高くなることなどが明らかになりました。
回転型飼育装置を用いた飼育と従来の方法である50Lボウル型水槽での飼育における生残率を比較すると,プエルルスまで34.0%(従来の方法では11.7%),稚エビまで28.3%(従来の方法では9.7%)と生残率がおよそ20%向上し,過去最高の生残を示しました。(図1参照)。特に,初期の生残率が向上して成長も良好であり,フィロソーマの特徴である前転遊泳運動が,日齢100以降の中期〜後期の段階でも観察されたことから,活性が高いと判断されました。また,本装置内でのプエルルスへの変態も問題なく成功することが明らかになりました。
今後,本装置を利用し,飼育水槽内の清浄な環境を維持する手法や胸脚の欠損を防除する手法,フィロソーマの活性を維持する手法などを明らかにし,飼育装置としての完成度を高めたいと考えています。
>図5 70L回転型飼育装置と50Lボウル水槽の飼育例における生残率
←前のTopicsへ
|
Topics一覧へ
|
次のTopicsへ→
→トップページへ戻る
|
本部
|
開発調査センター
|
北海道区水産研究所
|
東北区水産研究所
|
中央水産研究所
|
日本海区水産研究所
|
|
遠洋水産研究所
|
瀬戸内海区水産研究所
|
西海区水産研究所
|
養殖研究所
|
水産工学研究所
|
(c) Copyright National Center for Stock Enhancement,Fisheries Research Agency All rights reserved.