独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.041 実験池に放流したマダイ種苗の大きさと形態異常が
                生残や成長に与える影響について  2003/12/10
百島栽培漁業センター

写真1 マダイの鼻孔隔皮異常
 一般的に,天然海域に放流した人工種苗の個体数の減少は,放流直後ほど大きいことが知られています。これらの要因としては他の魚介類による食害や他の海域への逸散などが考えられますが,天然海域での観察や調査の難しさから,種苗の持つどのような特性が放流後の生き残りに関与しているのかほとんど解明されていません。
 そこで百島栽培漁業センターでは,自然海域を模した区画域で放流試験を行い,摂餌状況や成長を逐次モニタリングする方法(以下,模擬放流試験)を1998年から開始し,放流した人工種苗の初期減耗の原因究明や放流魚としての評価などを行っています。
 ここでは,マダイ人工種苗に出現する鼻孔隔皮の異常(写真1)や,種苗生産の現場で生じる成長がよい大型個体(通称,トビ)と成長の悪い小型個体(同,ビリ)のような大きさの違いが,放流後の成長や生残に影響するかどうか検討した結果を紹介します。
実験池の概要
 模擬放流試験は,瀬戸内海の百島にある廃止塩田を利用した素掘池(以下,実験池)で行いました。模擬放流試験用の1号実験池(写真2)は,面積5,300m3(125×42.5m),水量は約6,500〜9,000 m3,底質は砂泥で,海水の交換は潮汐差を利用した方式で行っています。注・排水口には5mm目合のスクリーンを設置し,プランクトンや魚卵・稚仔の流入は妨げずに,大型魚介類の進入を防止しています。

写真2 百島栽培漁業センターの1号実験池
試験の方法
 2000,2001年に行った模擬放流試験の概要を表1にまとめました。両年の試験に用いたマダイは,伯方島栽培漁業センターで生産されたものを用いました。マダイは,左右体側の4ヵ所に9色のイラストマー標識を用いて個体識別し(写真3),尾叉長,体重,鼻孔隔皮が欠損しているかどうかを確認しました。供試魚全てを個体識別しているため,試験終了後には個体ごとの成長率や生残を確認できます。供試魚は直接実験池へ放流し,20日後の試験終了時に全てを取揚げました。回収できなかった個体は死亡したものと考えました。試験中の餌料は,実験池に流入あるいは池内で繁殖した生物としました。また正常な摂餌が行われているかどうか,試験中にマダイ種苗を再捕し,胃内容物の確認をすると共に,潜水調査によって摂餌行動を観察しました。

写真3 イラストマー標識による個体識別例
表1 マダイの模擬放流試験の概要
結果と考察
 2回の模擬放流試験における生残率は,2000年が96.5%,2001年が94.6%と高い生残が得られました。また,20日間で約20mmの成長が見られ,日間成長量は2000年が1.05 mm/日,2001年が1.15mm/日でした。
 トビ(60mm以上)とビリ(40mm以下)のような大きさによって生き残りに違いがあるかを確認するために,2000年の試験で死亡した個体と生残した個体について,それぞれの放流時の尾叉長組成を図1に示しました。これを見ると生残個体と死亡個体のそれぞれの組成に顕著な差はなく,小さい個体(40mm以下)が死亡しやすいという傾向はありませんでした。
 次に,放流時の鼻孔隔皮の状態とそれぞれの成長および生残を表2に示しました。両年とも20日間の試験では,鼻孔隔皮が正常な個体と異常な個体で生残率と成長に差はありませんでした。
 これらの結果から,他の魚介類による食害や,生活の場を競合する他の生物が少なく,また餌料生物が豊富に存在し,マダイの生息密度が低い(0.1尾/m2)環境条件では,鼻孔隔皮の異常や大きさが放流初期の生き残りや成長に及ぼす影響は少ないことがわかりました。このことから,放流初期の減耗は,水槽で人工飼育された種苗が天然海域での生活に適していないことによるものではなく,主に食害や他の海域への逸散などによる外的な影響が強いのではないかと考えられます。人工生産魚の食害の影響については,引き続き試験を行っています。
表2 マダイの放流試験における鼻孔隔皮の異常が生残と成長に及ぼす影響