独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.038 ガザミ類のマイクロサテライトDNAプライマーの開発  2003/11/01
目的
 玉野栽培漁業センターでは,高知県浦戸湾においてミトコンドリアDNA(mtDNA)を標識に用いたトゲノコギリガザミの放流効果調査を行い,種苗放流の有効性を明らかにした。mtDNAのハプロタイプ出現頻度による推定は間接推定となることから,この手法の有効性を補完するため,近年分析手法が確立したマイクロサテライトDNA(msDNA)分析を併用することとした。この手法を用いることにより,放流個体の判別を行うとともに,放流海域におけるトゲノコギリガザミの種苗放流による遺伝的多様性への影響も評価することが可能となる。
 今回,トゲノコギリガザミとガザミのmsDNA分析用プライマーの作製を行ったのでその概要を紹介する。
方法
 ノコギリガザミDNAサンプルは,mtDNA分析に用いた平成12年度の漁獲サンプル10個体分のDNAを用いた。ガザミDNAサンプルは,平成14年度に生産した種苗から24個体についてDNAを抽出してプライマー開発用のDNAサンプルとした。3制限酵素で切断し,300〜900bpの断片を回収した。この断片を,制限酵素SmaIで切断したプラスミドpUC18に組み込んで大腸菌に導入し,含アンピシリンLB寒天培地で培養した。その大腸菌コロニーをナイロンメンブレンに移し取り,マイクロサテライトと相補的に結合するビオチンラベルプローブとハイブリダイズさせ,ケミルミネッセンス法を用いてマイクロサテライトを取り込んだ大腸菌コロニーを選択した(一次スクリーニング)。同様にして二次スクリーニングを行い,選択されたコロニーを含アンピシリンLB液体培地で培養した。ノコギリガザミで96プラスミド,ガザミで48プラスミドを回収した。これらのプラスミドをテンプレートとし,精製後,オートシーケンサーで塩基配列を決定した。
結果
 上記の手順により,トゲノコギリガザミで54,ガザミで22のマイクロサテライト領域を見出すことができた。それらは,CT(GA),CA(GT),TA(AT),CAA(TTC),CCA(GGT),CCT(AGG),GTA(TAC),GGA(TCC)の反復配列で,反復数は様々であったが,反復数40以上のものも見られた。反復配列の中に別の塩基が挿入されているコンパウンドタイプ,2種類のマイクロサテライトが連続して並んでいるものなども認められた。これらの中からプライマーを設計するための条件として,反復数が40以下,コンパウンドタイプではないもの,周辺にマイクロサテライトが存在しない等を基準として,コンピュータソフトOLIGOTMを用いてプライマーを設計した。その結果,ノコギリガザミで10セット,ガザミで3セットのプライマーを設計することができた。今後は,今回設計したプライマーを用いて多型の検出等を行い,調査に使用するマーカーを絞り込む予定である。
図 トゲノコギリガザミにおけるmsDNA領域