独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
ワムシ講座
 第7回 ワムシの計数 2010.7.15掲載
 日々のワムシ培養作業で,朝一番に行うのはワムシの計数,つまり,培養水槽の中にいるワムシの数を数える作業です。計数で得られたデータを基に,収穫量や給餌量等を決定します。ですから,できるだけ精度の高い計数を行いたいところなのですが,一方では早く収穫して飼育仔魚にワムシを与えなければならないため,計数は短時間,かつ正確に行う必要があります。

 ワムシの計数法は栽培漁業センターによって様々ですが,ここでは能登島栽培漁業センターの計数法を紹介しながら,計数の注意点を整理します。

 能登島栽培漁業センターのワムシ計数法

 ワムシ計数の基本的なやり方は,一定量の培養水を採水し,その中にいるワムシの数を顕微鏡などで見て数える,というものです。
 ただし,200個体/mlを超えるような高い密度での培養の場合,そのまま数えるとワムシの数が多く時間がかかるので,培養水を希釈して計数の手間を軽くし,後に希釈率で換算して正しい計数値を得ます。




 能登島栽培漁業センターでは,培養水槽からワムシを含む培養水を採水した後,ワムシ計数時に1ml中のワムシ数が100〜150個体になるように,培養水サンプルの培養水と希釈用海水を希釈用容器(50ml容遠沈管)に入れて培養水を希釈します(例えば5倍希釈の場合は,培養水5mlと希釈用海水20mlを混合する)。



 次に,希釈した培養水を撹拌した後,マイクロピペットで1mlを採水し,それを計数用の時計皿に移し入れ,ルゴール液でワムシを固定します(ルゴール液は,ヨード3g,ヨウ化カリウム5g,を0.7%NaCl溶液100mlに加えたもの)。



 そして,実体顕微鏡で確認しながらワムシ個体,卵,衰弱・死亡個体に分けて計数し,サンプルごとに2回ずつ計数します。



 計数の注意点

1)培養槽からの採水
 培養水を採水してワムシを計数する方法は,採水サンプルと培養水のワムシ密度が同じ,つまり培養槽内でワムシが均一に分布していることを前提としています。
 能登島栽培漁業センターでは,水槽底の4隅にユニホース(長さ1m)を設置し,弱通気(15kl水量に対して27L/分の通気)して培養水を水平方向にゆっくり循環させると,水槽内のワムシがほぼ均一に分布することが確認されています1)
 しかし,培養槽の形状や規模,通気の方法や量によってはワムシが均一に分布していない可能性もあるため,培養槽内のワムシの分布状態を先に確認しておく必要があります。もしも,ワムシの分布状態に偏りがある場合は,培養水が十分に撹拌されていないということなので,通気方法を改善したほうがいいでしょう。特に,懸濁物除去用のエアーフィルターを水槽内に垂下した状態では,培養水の撹拌が均一にならず,ワムシの分布状態にばらつきが出る可能性があるため,フィルターを取り除いてから採水することをお勧めします。








1)桑田 博(2000)2-1-5 計数法.海産ワムシ類の培養ガイドブック,栽培漁業技術シリーズNo.6,日本栽培漁業協会,東京,56-59.
2)ワムシ密度が200個体/ml以上での計数法
 前述したように,ワムシの培養密度が高い場合は,培養水をそのまま計数すると時間がかかるうえ,計数誤差も生じやすくなります。このため,能登島栽培漁業センターでは計数時のワムシ数が概ね100〜150個体/mlになるように培養水を希釈用海水で希釈します。
 ただし,希釈時の水温や塩分の急激な変化によるストレスを受けたワムシは底に沈みやすく,粘性のある足で容器の側面や底面に付着しやすいことから2),ワムシ数が少なめに計数されてしまう可能性があります。希釈には培養水と同じ水温,塩分の海水を用いましょう。

 培養水を希釈せず,直接0.1mlや0.2mlの少量の培養水を採水して計数することもあります。この場合には,計数誤差が生じると考え,繰り返し計数するなどの配慮が必要です。


3)ピペットによる採水
 計数時の培養水の採水には,よく,マイクロピペットや駒込ピペットなどを使用します。このとき,培養水を吸引するのが速すぎるとワムシ数が少なめに計数されてしまう恐れがあります。瞬時に吸引するのではなく,約1秒間かけてゆっくり吸引しましょう。
 また,吸い込み先端部の口径が1mmの場合は,細い口径に引っかかってワムシの離卵率や死亡率がやや高くなります。これを防ぐために,口径が約2mmになるように先端部を細工して使用する1)などの工夫も必要です。







2)Fielder,D.S.,G.J.Purser and S.C.Battaglene(2000)Effect of rapid changes in temperature and salinity on availability of the rotifers Brachionus rotundiformis and Brachionus plicatilis.Aquaculture,189,85-99.
4)ワムシ計数
 ワムシの計数にあたっては,ただ単にワムシの数を把握するだけでなく,同時に現状の培養状態もある程度判断できるようになりましょう。

 計数時には,写真のように同じワムシ株でも様々な状態のワムシが見られます。



携卵(成熟)個体
 虫体下部に卵を付けた成熟個体。若い成熟個体は代謝能力が高いため,水質環境や餌料環境が良好な場合には,2,3個の卵を付けることがあります。

仔ワムシ
 多くはふ化後24時間以内の未成熟個体。成熟個体よりも小さいため容易に判断できます。培養環境が悪化すると,携卵個体よりも死亡しやすいため3),仔ワムシ数は減少してしまいます。

衰弱個体
 ルゴール液で固定すると,体内の透明部分が多い個体。高齢個体や物理・化学的なストレスの影響を受けた個体で,摂餌活性が低下しています。

死亡個体
 ルゴール液で固定すると,口部から繊毛冠が出ている個体(多くの生残個体は固定の際に繊毛冠が体内に収納されます。しかし,ルゴール液の濃度が低い場合には口部から繊毛冠が出た状態で固定されることもあります)。


 計数の際に,衰弱個体や死亡個体が多く見られる場合には,当然,培養状態は良くなく,逆に,仔ワムシと2個以上の卵を付けた携卵個体が多い場合には,培養状態が良好であるなど,これらの情報から培養状態がある程度判断できます。

また,計数結果から下記に示した式で,日間増殖率(前日から当日にかけてワムシがどの程度増えたのか)や総卵率(明日ワムシがどの程度増えるのかの目安となる)を求めて,培養状態を判断する方法もあります。







3)小磯雅彦,日野明徳(2002)シオミズツボワムシの大量培養における増殖停滞の機構に関する研究.水産増殖,50,197-204.
   日間増殖率(%)={(当日のワムシ密度)−(前日のワムシ密度)}÷(前日のワムシ密度)×100

   総卵率(%)=(卵密度)÷(ワムシ密度)×100 
 第7回のまとめ

・ ワムシ計数は誤差要因をできるだけ排除して正確かつ短時間に行う。


・ ワムシ計数では、ただ単にワムシの数を把握するだけでなく、

  同時に現状の培養状態をある程度判断できるように観察も行う。




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