独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.16  宮津栽培漁業センター研修奮闘記
       研修生の眼、宮津職員の眼s
2007.11.20
宮津栽培漁業センター 町田 雅晴、升間 主計
飯田 真也
本田 貴久
 宮津栽培漁業センターでは平成19年度センター内現地研修として初めて、10月23〜25日の3日間、さけますセンター北見事業所の飯田さん、本部施設整備課の本田さんを研修生として受け入れることになりました。
 本研修は、近年の水研センターの仕事現場が統合により従来の研究、船舶運行、管理に加え、開発調査、栽培、さけますと業務範囲が広がってきたことから、人材育成の一環として、若い人材に現場を体験させ視野を広げ組織貢献を促す目的で、人事課の企画で18年度から行われています。
 今回の研修生は宮津栽培漁業センターへ来るのは当然初めてであり、受け入れ側も初めての経験であったことから、お互い緊張の中で研修はスタートしましたが、最終日にはお互いに打ち解け合って、冗談も言えるようになり、研修は無事終了しました(写真1)。
 そこで、せっかくの機会ですので、各研修生から送ってもらった感想文と受け入れ側の意見を合わせて紹介させてもらうことにしました。
写真1 下段左2人目より本田さん、町田鬼軍曹、飯田さん
研修生:飯田さんの感想文から
 研修期間が短期間だったこともあり、アカアマダイの種苗生産技術開発の担当者である町田主任技術開発員の指導のもと、講義を少なくし、初期飼育に関するルーティンワーク全般を研修者自らが行うという、かなり実践的な研修を受講することができた。
 サケの稚魚は人工飼料で飼育するが、アカアマダイの稚魚(稚魚でなく仔魚だよ(*^_^*))はそれが不可能なため、餌となるワムシ・アルテミアを培養し、飼育水槽内の餌生息密度を保たなくてはならない。これは、飼育というよりも、飼育水槽内で生ずる食物連鎖を人的にコントロールしているように感じた。
 アカアマダイは、初期飼育段階で原因不明の形態異常が発現してしまうことから、健全種苗の安定生産には至っていない。そのため、宮津栽培センター職員が一丸となって、アカアマダイ種苗生産技術開発に向け努力している実直な姿勢を、研修期間を通じて感じることができた。
 現段階において、さけますふ化放流技術は高位安定的な生産技術が確立しているが、アカアマダイに関しては、全ての技術を自分たちで生み出し作っていく状況にある。栽培センターの歩んだ後に道ができるといった感じだ。このように、自分たちでゼロから技術を開発していく業務に大きな魅力、やりがいを感じた(ウエルカムですよ)。
 今後の業務に対しても、既成事実にとらわれることなく、何かを発見する気持ちを忘れることなく遂行していきたいと思う。

写真2 アカアマダイの仔魚

写真3 アカアマダイの親魚
宮津職員談
 いや〜、そんなふうに見てもらってチョット照れますが、栽培の現場の雰囲気を味わってもらってうれしいです。正直、栽培は講義よりも実戦(実践)ですよ。飯田さんは栽培でも十分やれると思いましたよ。真面目に、一生懸命に研修していたところが女性嘱託職員の眼にも好印象だったしね。サケでなく酒も結構いけるようだし、栽培向きかもね。また来いよな。
研修生:本田さんの感想文から
 今回、水研センター内の現地研修で宮津栽培漁業センターにアカアマダイ(関西では「ぐじ」と呼ばれる高級魚です)の種苗生産のお手伝いをしてきました。
 水研センターの職員となって半年あまりですが、現場での作業は今回が初めての為、楽しみと不安の入り混じった気持ちで現地に向かいました。
 種苗生産現場の朝は早く、午前5時前から作業は始まります。まず、餌となるアルテミアとワムシの給餌量を決めるためにアカアマダイの飼育水槽に残っている餌の量を調べます。それをもとにして餌の量を決め、必要量だけを餌が培養されている水槽から取り出します。取り出す際に餌の卵の殻や死骸を取り除くために海水で洗ってやります。そうして用意した餌を各水槽(4槽)に給餌します。なお、アカアマダイは照度の変化に敏感なため、防疫対策もかねて各水槽はシートで覆われているので、夜明け前の作業は目が慣れるまではかなり怖い作業です。ただ、餌をやり終える頃には目も慣れてきて稚魚(同じ間違い( ̄△ ̄)稚魚でなく仔魚だよ(*^_^*))が餌を食べる様子が観察できます。

 給餌が終わると、次の日に給餌をするため水槽を洗浄してアルテミアの乾燥卵と海水を入れます。アルテミアの卵は海水に入れて半日から一日ぐらいでふ化します。これをやらないと次の日からの給餌ができなくなってしまいます。
 その他、作業に使った道具の洗浄を行ってだいたい8時ぐらいになり、朝食休憩、朝の体操(写真4)、職員の方たちとのミーティングを経て、9時から作業を再開します。まず、照度と水温を測定します。水槽にはシートをかぶせて外光を約30%だけ採り入れているそうですが、照度が急激に変化して稚魚に悪影響を及ぼしたことが以前にあったそうです。

写真4 朝の体操
 その後、サンプリングを行い水槽内の正常なアカアマダイの尾数を調べます。方法は一人が約4mの塩ビ管を水槽の底近くまで突っ込んで水をくみ上げ、もう一人が持ったバケツに入れていきます。塩ビ管に入る水が1回で約2リットルでこれを一つのバケツで4回、水槽一つで4つのバケツに入れます。このバケツの水量と稚魚の数から生存数を割り出し、稚魚はスポイトですくい取り顕微鏡で拡大して全長を測定します(3mmから6mmぐらい)。
 その後少しかわいそうなのですが、稚魚をつぶして開鰾率、摂餌物を調べます。開鰾率というのは魚のうきぶくろに空気が入っているかどうかを調べるもので、正常なアカアマダイの場合は10日ぐらいで空気が入るようになるそうです。摂餌物は文字通り餌に何を摂っているかを調べるもので、ある程度稚魚が成長するとワムシよりもアルテミアを好んで食べるようになるそうです。魚にも好き嫌いがあるのかと感心しました。
 その後、餌料残量を再びチェックして午後からの給餌量を決定します。午後からは照度と水温をもう一度測定し、午前中に決定した量の給餌を行い、ワムシとアルテミアを給餌します。そして餌をしっかりととっているかをもう一度調べます。(この場合は少し大きめのプラスチック容器で水槽から飼育水と稚魚を数匹すくって調べます。)その後、明日以降給餌するワムシとアルテミアを準備し、もう一度水温と照度を計測して、午後5時頃に1日の作業が終わります。

 研修期間中は慣れない作業のために疲れがたまり、大体午後9時には 就寝し、午前4時に起床し、5時前から作業開始というとても健康的な(?)生活を送りました。現場の皆さんの大変さとパワーを身をもって体感しました。この経験を生かし、私は現場の方々の作業がやりやすい施設を作れるようにしたいです。

宮津職員談
 最初はどうなることかと思っていたけど、なんとか終えて涙が出そうなくらい正直ホッとしてます。でもさ、大学で半導体の研究をしていた人が、朝未だ暗い内からワムシやアルテミアの数を数えろだの、これまで見たこともない極小サイズの魚(仔魚)の全長測定だのと、大変だったと思いますよ。(匿名:優しい鬼軍曹の町田さんには特に可愛がってもらって、人生の師として仰ぐほどになったかもね。)受け入れ側としても初めて見るような人種(いや失礼、でも栽培ではまず見られないタイプですよ)で、本当に楽しめました。これからの宮津の施設は任せたからね。たのむよ!(匿名:いや〜、本田さんの研修ぶりの話は楽しめましたよ。こんな仕事したことないだろうし、大学出たばかりだからしかたないけどね。宮津の研修生伝説として長く残しておきますよ。これからも長くお付き合いしましょうね。)
 今回初めての研修生受け入れでしたが、宮津職員の側にも得る物がたくさんあったように思います。そこで、研修予備生の皆様、宮津栽培漁業センターでは9月下旬〜1月(アカアマダイ採卵、種苗生産、中間育成)と2〜4月(ヒラメ種苗生産、採卵)、5〜6月初旬(ヒラメ中間育成、標識付け)、この期間以外でもヒラメ調査などと言ったラインナップで研修課題を取りそろえてお待ちしております。研修期間の短い方は、事前にお知らせ頂ければピンポイントで忙しい時期を指定いたします。よろしくお願いします。
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