独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.10  三陸の海から−宮古魚市場のこぼれ話 (3)
2007.06.18
カラフトマスが桜ます? マコガレイが真がれい??
     じゃサクラマスとマガレイはなんて言うのヨ!?!?
宮古栽培漁業センター 有瀧 真人

今年はカラフトマス(写真1)が豊漁で
岩手県内で700tを超える水揚げがあり、前年の15倍となっています。
この魚、2年で成熟するため
偶数年と奇数年で発生量が大きく異なります。
今年は間違いなく当たり年。
三陸ではこのます漁が春から初夏の風物詩になっていますが
脂ののった大振りのカラフトマスは
庶民的な値段の上にルイベやムニエルが最高。
いやはや、たまりません。


写真1 カラフトマス (桜ます)
日本語は言葉が豊かで地域のバリエーション(方言など)が豊富です。
魚の名前も例に違わず、遙か昔からわれわれの重要なタンパク源となってきたため、
生活に密着した名前が各地域でつけられてきました。
魚食文化のない国では十把一絡げ
(たとえば、大きな魚、小さな魚、平たい物、長い物など)
で呼ばれていることも少なくありませんが、
日本ほど名前の多い国は珍しく
鯛や平目は30〜40通り、
身近なメダカは1500とも3000通りとも言われています。
しかし、同じ魚を好き勝手に呼んでいては収拾がつきませんので、
学問的には混乱を避けるため
日本での共通の名前=「標準和名」(通常カタカナ)で、
鯛はマダイ、平目はヒラメと定められています。
ちなみに世界共通の名前は「学名」といい、
ラテン語で標記することになっています
(マダイはPagrus major、ヒラメはParalichthys olivaceus)。
でも、地方に行くとこの「標準和名」が通用しない・・・ことが多いんです。はい。


写真2 サクラマス (真ます)
この地域に赴任したての頃
とある市場でマス類の水揚げを見ていた私が
「イヤー立派なカラフトマスですね〜」というと
市場の職員はこんなこともしらんのか・・と哀れむような目で
「イヤ、これは桜ます!」と一言。
私も「一応」魚の専門家を自負しているので、ちょっとカチンと来ながら
「イヤ、イヤ。サクラマス(写真2)はあっちの立派なやつでしょう」と切り返すと
ますます哀れみ度を増した目で
「あれは、真ます!!」
「いや、イヤ、魚には標準和名という物がありまして、日本の共通の名前として、
こちらがカラフトマスであちらがサクラマスと定められています・・・」
「兄ちゃん、ややこしいことはワカランが、こっちは桜ますであっちは真ます!!」
とエライ剣幕。
「・・・ハイ、わかりました」。

また別の日に・・・
大きなマコガレイ(40cmを超える大物)を見てちょっと感動した私が、
「イヤー立派なマコガレイですね〜」というと、
くだんの市場の職員、してやったりという顔で
「これは真がれい、標準和名は知らんけど。」ときました。
ちなみに、この地域でマガレイは「おあか」とか「あかじ」と呼ばれています。
他にもマアナゴが「はも」と呼ばれているため、
はじめの頃は、ずいぶんと安くハモ(関西地方で超高級魚)が売ってるなぁ・・・
と、無邪気に喜んでいました。

転勤すると、よく言葉が大変でしょ〜・・といわれますが、
我々にとって言葉よりも魚の名前になれる方がよっぽど苦労が多い。
けど、しばらくして
「ふくろ」=ケムシカジカや
「めがら」=ウスメバル、
「すいっこ」=クロソイ、
「しょっこ」=ブリの若魚
等々の呼び名がすらすら口から出るようになればその土地になじんだ証です。
そのころには、方言も自然と話せるようになっているモンです。
習うより・・・慣れろですかね。

さて、今夜は「桜ます」のルイベで一杯やりますか。

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