独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.2  命がけの「かくれんぼ」
2006.12.01
栽培技術開発コーディネーター 岡 雅一

 「もーいーかい。まーだだよ。」しばらくして、オニ役の子が「○○ちゃん、みっけた。」このような、子供たちが「かくれんぼ」をする光景をめっきり見かけることがなくなってしまいました。しかし、海の中では小さな魚やイカなどの動物にとって、大きな動物=オニから逃れること、隠れることは、人間が出現する前の太古の時代から日夜繰り返されてきた生活術にちがいありません。彼等にとってオニに見つかることは、即、食べられることになるので、隠れる術は「ごっこ」ではなく、真剣勝負の護身術と考えて良さそうです。

 そう言えば、「オニ」が名前に付く魚は結構いて、オニカマス、オニヒラアジ、オニゴチ、オニカサゴ、オニオコゼ、オニアジなどがあげられます。その風貌から、「強い」、「恐い」、といったオニのイメージが重なって名付けられたのではないかと想像します。これらの魚は魚食性の強い魚が多いようで、体の小さな海中の動物にとっては名前通り、金棒をもった鬼のような存在と言えるかもしれません。

 さて、 2枚の写真をご覧ください。「砂と岩しか映ってないじゃないか。」と思っているあなた、目を凝らして見てください。やはり、何も見えないって。パソコンのポインターを左写真の中央へ移動させてクリックしてみましょう。写真中にヒラメの形をした赤い線が現れます。その部分に放流後のヒラメの子供(全長4.5cm)が砂の下に隠れています。今度は、ポインターを右の写真中央でクリックすると、赤線の囲み部分にコブシメの子供(サンゴ礁の海に棲むコウイカの仲間、外套6cm)が岩にカモフラージュしています。

 

 魚やイカなどの護身術は実に様々で、今回紹介しました砂に潜る、岩や海藻に化ける、の他に、物陰に隠れる、群れをつくるが一般的でしょうか。なかにはトビウオやトビイカのように空を飛んで逃げる、フグの仲間のように膨らんで威嚇する、イカやタコのように墨の煙幕をはる、といった一風かわった手段をとる生物もいます。また、マダイやヒラメの仔魚の体が透明なのも、発見されないための工夫でしょう。

 写真のヒラメの眼やコブシメに気が付いた方、あなたの能力は超人的です。魚たちと「かくれんぼ」ができます。ただし、超人的なあなたでも海の中ではオニの役だけにしといたほうが無難かも。だって、隠れ役になった場合のオニ役は、多分、サ・・メ・・?。砂や岩しか写っていないと思ったあなた。残念ながら魚やイカの方が一枚上手なので、海の中ではオニになれません。そのかわりに普通の陸上生活者として、今後もさいばいコラムやトピックスを読んで、あなたのなかの隠れた知性と感性を発見してください。

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