独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.137 クロマグロの量産を目指して 
      〜奄美栽培漁業センターに種苗生産棟が完成〜   2008/10/29
奄美栽培漁業センター 塩澤 聡
 クロマグロの健全な種苗を安定的に大量に飼育する技術を開発するため,平成20年7月末に奄美栽培漁業センターに新たに種苗生産棟(写真1)が竣工しましたので,その概要を紹介します。

 奄美栽培漁業センターは,クロマグロの栽培漁業に必要な技術を開発するために,平成7年度に開所しました。現在,クロマグロの種苗を大量に飼育する技術開発に取り組んでいますが,本種の飼育技術は十分に確立されたとはいえず,ふ化仔魚から30mmサイズの生残率は平均で0.2%と,マダイ,ヒラメの生残率20〜70%に比べて,著しく低い状況です。
写真1 種苗生産棟
 これまでの種苗生産技術開発の結果から,水流(飼育水の流れ)・水温・照度等の条件が初期の生き残りに大きな影響を及ぼすことが明らかになり,仔魚の飼育に適した環境条件を制御できる施設・設備が必要となりました。また,平成12〜14年度にはウイルス性神経壊死症の発生により3年間飼育技術の開発が低迷し,ウイルスの侵入を防除するためには,外部から隔離された環境での飼育が必要となりました。
 そこで,本格的な量産技術の開発に向けて,最も大きな障害となっている飼育環境の安定化と疾病防除を目的に,新たに種苗生産棟を整備することにしました。
 種苗生産棟は,建築面積910.8m2,延べ床面積962.3m2,鉄骨造で,一部が2階建てとなっています。1階には仔稚魚の飼育を行う50KL水槽7面,20KL水槽6面の他に,実験スペースと仔稚魚の測定や観察を行う実験室があります。2階は見学室と倉庫になっています(写真2)。
 飼育水槽(写真3,4)には,飼育試験のために光や水温条件などを制御できる設備が整備されています。水温は本種の適正水温といわれる26℃を基準に加温・冷却により24〜28℃の範囲で制御することが可能です。また,照明は50KL水槽では1水槽あたり40wの蛍光灯が24本,20KL水槽では1水槽あたり12本が設置されており,照度を0〜2000Luxの範囲で任意に調節できるとともに,一日のうちの明るい時間の長,短(日長時間)を調節することが可能です。水温と照度の環境条件をコントロールすることにより,産卵期間中(5月〜9月)は,いつでも同じ条件で飼育を行うことができます。さらに,任意の条件で比較試験を行うことも可能です。
  写真2 種苗生産棟の内部(模型)

  写真3 50KL飼育水槽                写真4 20KL飼育水槽             写真5 見学室(橙枠内は観察室から見た飼育水槽)
 また,本施設では,外部からのウイルスや細菌の侵入を防ぐため,電解殺菌装置(海水を電気分解し,オキシダントを発生させ,これによってウイルスや細菌を殺してしまう装置)で使用する海水を処理しています。さらに,病気が発生した場合でも,水槽間の感染を防止するため各水槽をカーテンで仕切るとともに,飼育水槽からの排水はすべて密閉された排水管を通って排水処理棟で殺菌され,ウイルス等を天然海域に出さないような配慮しています。
 この他,2階には見学室(写真5)を設けました。これまで,魚を飼育している間は,防疫上の観点から種苗生産施設内へは飼育担当者以外の立ち入りを制限していましたが,これからは種苗生産を行っている期間に飼育の様子を見学していただくことができるようになりました。

 クロマグロはクエ・ウナギ・イセエビ等とともに,種苗生産が難しい魚の代表ですが,新しい施設の整備により量産技術の確立に向けて大きく進むことが期待されます。
写真6 新しい水槽の中で泳ぐクロマグロ稚魚