独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばい日記
ズワイガニ編




  
長い間
ご愛読,ありがとうございました!

執筆者プロフィール

 2009年6月10日 これで最終回




タチアオイの花が咲き始めました。
下の花が咲くと梅雨が始まり,
上まで咲き揃うと梅雨が明けるといわれています。
しかし,花の数は着実に増えているのに,カラ梅雨が続いています。

先日,NHKニュース(前回の日記参照)を見た知人から,
稚ガニの量産に成功したのが,私一人の成果であるかのような事を
言われてビックリしました。
映っていたのが私だけなのでそう思われたようです。

しかし,種苗生産というのは,先達からの技術の積み重ね(例えば,トピックスNo.50No.72)であって,
今回の成果は25年もの長い歴史の結果です。

生き物が相手の場合,過去の飼育例をマネしても必ずしも同じ結果が得られるとは限りません。
しかしズワイガニでは,担当してまだ3年ですが
過去の成果は実用的な技術として十分活用できることが分かり,
これまでの技術開発の着実性,確実性さらに再現性を実感しました。
これからも着実に技術開発を進めていくことで,稚ガニの生産数を5万尾,10万尾どころではなく,
もっと増やすことも充分可能だと考えています。

日記は今回で終わりですが,
これからも稚ガニの量産技術および稚ガニ以降の飼育技術の開発を続けて,
いつの日か高価なズワイガニをもっと手軽に味わえるようにしたいと思っています。

これまで読んでくださった皆様,ありがとうございました。








稚ガニはさらに脱皮して,
また大きくなりました。
 
小浜栽培漁業センターの山本です
ズワイのことならまかせろ!
と,言えるように頑張ります

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 2009年5月29日 テレビ取材

心地良かった春が終わり,25℃を超える夏日が増えてきました。
センター内では草がどんどん伸びてきています。
刈らないとなあ・・・と思っていると,すでに刈った痕跡が?



これはイノシシの仕業です。
夜な夜な出没しては食べ物を探しているのでしょう。
痕跡は毎日増えて,人の行かないところにはケモノ道までできています。


さて,生き残っていた僅かなメガロパはほとんどが稚ガニに脱皮し,
最終的な稚ガニの数は約3.2万尾となりました。
ここで種苗生産は一段落です。
通常の栽培漁業ですと,これから中間育成(放流場所の自然環境に慣れさせる)して放流,
市場での水揚げの調査・・・と続きます。
しかし,ズワイガニの場合は,稚ガニの飼育方法に不明な点が多いことから,
放流はせずに,引き続き飼育方法や成長を調べていきます。
そのためか,小浜栽培漁業センターがズワイガニの種苗生産をしていることは,
漁業者や地域の人たちにはあまり知られていません。
稚ガニがたくさんできた今年は,センターの存在を知ってもらい,
栽培漁業の取り組みを宣伝する絶好のチャンスです。
ということで,稚ガニをネタにテレビ局に取材に来ていただきました。

緊張して取材を受けています。


放送時間は長くても数分程度なのですが,「越前がに」の本場,福井県だけあって注目度は高く,
去年放送された時は初対面の方から「テレビ見たよ」と言われて驚くこともしばしば。
これからは,雑誌等に原稿を書いたり,近隣の小学生の見学を受け入れたり,
稚ガニを携えて様々なイベントに顔を出したりと,宣伝活動が続きます。
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2008年12月の日記はありません

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 2009年5月11日 稚ガニが増えるのは嬉しいのですが・・・

小浜栽培漁業センターは田んぼの中にあります。
5月の連休とともに田植えが始まり,水が張られた田んぼでは,
夜になるとカエルを目当てにフクロウが現れるようになりました。


 自然に囲まれたセンターです


特に,カエルの動きが活発になる小雨の日に目にすることが多く,
そんな日は仕事帰りに道路脇の電柱や木をチェックするのが楽しみです。

たまに昼にも会いますが,どこか眠そうで・・・


さて,ズワイガニの種苗生産は終盤を迎え,
4月上旬以降はメガロパから稚ガニへの脱皮ラッシュが続いています。
出勤して一番に水槽をのぞくのですが,稚ガニがウジャウジャウジャウジャ・・・。
最も多かった日には1日に6千尾も脱皮していたので,
朝から職員みんなで取り上げと計数作業をしても午後3時頃までかかりました。


 小さなカニをひたすらカチカチ。目と指が痛いです。


こうして取り上げ続けた結果,何尾を稚ガニまで育てあげられたかと言いますと・・・
昨年の世界記録(1.8万尾)を軽々と?更新し,
3万尾突破の新記録!
となりました!
うーむ・・・ゾエア期に死なせなかったらもっと多かったに違いありませんが,それは来年の課題です。

さて,予定以上に稚ガニができすぎて,
今度は準備していた飼育水槽が足りないという問題が発生しました。
大急ぎで使っていなかった水槽をかき集めてなんとかなりましたが,
水槽が建物の入り口をふさぐほど並んでしまいました・・・。
あと残るメガロパは千尾もいません。
おそらく,もう水槽は要らないでしょう!


 入り口まで並べた水槽には,稚ガニがギッシリ。
 2009年4月3日 稚ガニの数はどこまで増える?

1月下旬に飼育を開始してから70日が経ちました。
思い返せば,ゾエアの大量死(2月26日)で,
稚ガニどころか,メガロパにも育てられないんじゃないかと気を揉み,
メガロパが活発に泳ぐ(3月10日)のを見ては,
「これならたくさん稚ガニができそうだ」と一喜一憂の日々でした。
そして60日目を過ぎた頃から,次々と稚ガニが出現し,
しかも脱皮に失敗してしまうものもほとんどおらず,少しだけほっとしています。

さて,今日は稚ガニを今まで飼育していた水槽から取り上げて,計数する作業を行います。
取り上げは,職員全員が水槽をのぞき込んで,稚ガニを見つけ次第,
1尾ずつガラス管で吸い取って行っているのですが,これがなかなか難しいのです。

何しろ,脱皮した稚ガニは甲羅の幅が3mmと小さく,
しかも,すぐに小さなハサミを使って体中に砂を付け,1時間もすると体中が砂だらけになります。
ただでさえ小さい稚ガニが,このような状態で足を縮めて砂の上に身を潜めているので,
見つけ出すにはかなりの経験を必要とします。
小さいながらも自然界で生きていくための精一杯の術なのでしょう。


  脱皮した稚ガニ(左)が体中に砂を付け(右),これが足を縮めると砂の塊です


老眼には,ちょっとキツイなぁ〜


現在の稚ガニの取り上げ数は約6千尾で去年の1.8万尾(なんと,世界記録でした!)からみれば,
まずまずといったところです。
そして,まだ稚ガニに脱皮していないメガロパは,
他の水槽で飼育しているものもあわせると,7〜8万尾ほどです。
この中からどれだけが稚ガニに脱皮するのか,去年の記録更新はなるのか!?
毎日ひたすらカニを取り上げて数える作業が続きます。
 2009年3月25日 色付くメガロパ

春になると,栽培漁業センター周辺では
可愛いアナグマが冬眠から目覚めてうろつくようになりましたが,
寝ぼけているのか,よく車にはねられています。
先日も怪我をしたのを見つけ,かわいそうなので保護して動物病院に連れて行きました。

雨の中,足を怪我して歩けなくなっていました。


さて,春になるとメガロパにも変化が現れます。
メガロパは,脱皮直後(下の写真,左)は透き通っていますが,
稚ガニへの脱皮直前(右)になると黄土色っぽく色付いてきます。
右の写真は稚ガニのように見えますが,まだメガロパで,
シッポを腹側に巻き込んだ状態になっています。




ご存じのように,甲殻類は脱皮により成長するのですが,
脱皮前には既に殻の中に次の体ができています。
右の写真では,メガロパの体の中に稚ガニの体ができ上がっており,これが色付いて見える原因です。
この状態になったメガロパは,ほとんど泳がずに餌(アルテミア)もあまり食べなくなります。
稚ガニになる準備のためか水槽の底に降りて歩くことが多く,3〜4日ほどで稚ガニに脱皮します。
メガロパにこのような変化が見られるようになると,水槽に貝化石微粉末をまくのはやめ,
脱皮後の餌として細かく刻んだアミエビ(釣り用の撒き餌)を与えます。
メガロパの変化を観察しながら飼育方法を変え,稚ガニが出てくる準備をします。

メガロパになってからこの段階までは,大量に死んでしまうこともなく,飼育は順調に進みます。
次の山場は,以前トピックスにも書きましたが,稚ガニへの脱皮を失敗させないようにすることです。
これまで調べた結果,メガロパ期の飼育水温は,
ゾエア期の14℃よりも低い10℃が適していることがわかっています。
また,メガロパが殻を脱ぎ捨てるときには,つかまって踏ん張るものがあったほうが,うまくできるようです。
ですから,脱皮の成功率が高まるように,水温を10℃に下げて飼育し,
脱皮時につかまる基質として底には砂も敷いています。
これで,おそらく脱皮を失敗することはほとんど無い・・・と期待しています。
 2009年3月10日 砂塵

春になると,黄砂で空が黄土色に濁ります。
目はムズムズするし,鼻水に咳も出るので本当にイヤです。







山に行っても大好きなクマタカは
砂塵で綺麗に撮れません・・・



さて,この私の大嫌いな黄砂ですが,
メガロパの飼育では水槽に細かい砂を入れて水を濁らせています。
自分がされてイヤなことをメガロパにしているのです。

使っている砂は『貝化石の微粉末』という,小麦粉くらいの細かいもので,
一般的な魚類の種苗生産では,水質の安定に効果があると言われています。
メガロパ飼育での効果については,
「よく分からないけど,たぶん効果があるんだろうなあ〜」という気持ち程度です。

では,なぜ入れるのかと言うと,
一つめは水槽の底がツルツルだと沈んだメガロパが底で集まるので,
これを防ぐための『滑り止め剤』として,
二つめは着底して稚ガニに脱皮するときに,つかまるための『基質』として,
三つ目は,なぜか砂で水を濁らすとメガロパはよく泳ぐので,分散させるという効果を狙っています。


  飼育水を濁らせる(左)と,メガロパは活発に泳ぎます(右)。


貝化石微粉末を入れている期間は,
メガロパを観察しながら,活発に泳ぐ脱皮後2週間〜20日程度までを目安としています。
この期間の『泳ぎ具合』が良くないと,そういうメガロパは元気がないということで,
稚ガニまで生き残ることは少ないのです。
しかし,今年のメガロパは良く泳いでいます!
どれだけが稚ガニに成長するか楽しみです。

パートさんたちに
「貝化石入れすぎちゃうか〜?水槽のなか全然見えへんし,メガロパむせてるで!」
と突っ込まれながら,今日も『良い泳ぎ』に満足しております。
 2009年2月26日 メガロパ!

更新の間があきました・・・。
便りがないのは良い知らせ…と言いたいところですが,むしろ逆。
第2齢に脱皮した後も死んでしまうゾエアが相次ぎ,水槽に張り付いて観察したり,
原因をあれこれ調べたりでバタバタしていました。

こうして,飼育開始から30日目を過ぎ,今度はゾエアからメガロパへの脱皮が始まりました。
これが今年の初メガロパです。



ゾエアと比べるとしっかりとしたハサミを持って,ずいぶんとカニに近い形になりました。
でも,まだしっぽがついており,しっぽについた脚(腹肢)を振って泳ぎます。
ちなみにこのしっぽはカニになったとき,腹側に折れ曲がって『フンドシ』になります。


脱皮直後というのは体が柔らかく,エネルギーを使った後でもあり,非常にか弱い状態です。
ちょっとした刺激にもダメージを受けやすいと考えられるので,
脱皮後4日待ってから取り上げ作業(脱皮時にいた水槽から新しい水槽に移動させる)を行いました。

水槽底に沈んだメガロパをホースで吸い上げます。







吸い上げたメガロパはゴミ(残餌や糞)と混ざっているので,
パートさんたちに選別してもらいます。
3万尾もの選別と計数を終えるのに,
昼から夕方いっぱいまでかかりました。


メガロパになると,ゾエア期とは生態が変わります。
そのため,これまでとは飼育方法をいくつか変える必要があります。

まず,飼育水槽。
ゾエア期は水中を浮游して生活するので,浮遊するのに適した環境を作るため,
水深2mの20トン水槽で撹拌機を使用して,ゾエアが底に沈まないよう強制的に浮かせるようにしていました。
しかし,メガロパ期は水中を浮游する生活から稚ガニとなって
着底(水底に棲みつく)生活へ移行する途中の段階です。
無理に浮かせる必要はないので,ゾエア期より浅い水深1mの6トン水槽で飼育します。
なお,浅い水槽で飼育することで,メガロパの状態を観察しやすくなる,という利点もあります。

二つめは飼育水温です。
天然のメガロパは着底して稚ガニになるため,
ゾエアよりも深くて水温の低いところで生活すると考えられています。
ゾエアの飼育に適した水温は14℃なのですが,昨年度の研究の結果,
メガロパの場合は14℃より下げて,10℃前後で飼育すると
稚ガニまで生き残る数が大幅に増えることがわかりました。
そのため,本年度からはメガロパ期は10℃前後の低温で飼育することにしました。




メガロパの飼育水槽は黒い布で覆って
光が入らないようにします。
水温の上昇を防ぐためと,
メガロパは光が当たると明るい場所に集まって
互いにつかみ合うので,これを防ぐためです。



最後は餌。
ゾエアにはワムシとアルテミアを与えていましたが,
メガロパはゾエア期に与えていた餌よりも大きな餌を好むので,
アルテミアに加えてズワイガニのふ化直後のゾエアを与えます。
ゾエア,つまり後から産まれた弟や妹たちを?共食いさせるわけです。
ゾエアは体成分が同じためか,アルテミアよりも好んで食べているように見受けられます。

ゾエアを食べながら泳ぐメガロパ
動画 約17秒(1.5MB 別ウインドウで開きます)
小さな黒いものを抱えているのが見えるでしょうか?


ズワイガニの子どもは,ゾエアとして1ヶ月,
さらにメガロパとして1ヶ月過ごして稚ガニになるので,ここでやっと中間地点です。
今年のズワイガニの飼育では,昨年度明らかになった研究成果と同じ成果が出せるかを
試しているところですが,果たして・・・まだまだ緊張の日が続きます。
 2009年2月6日 一枚脱ぎます(飼育開始15日目)

飼育を始めて2週間。
現在,ゾエアたちは第1齢ゾエアから第2齢ゾエアに変態するため,次々と脱皮しています。

脱皮はゾエアにとっても,飼育担当者にとっても一大イベントです。
脱皮前までは順調に飼育出来ていても,脱皮時にゾエアが大量に死んでしまうことがあります。
ゾエアにとって脱皮は非常に体力がいることで,
それまでに与えた餌(ワムシ,アルテミア)の栄養が足りないと体力不足で力尽きたり,
水槽内に残った餌が底に貯まった場合には水質が悪くなって死んでしまいます。
ですから,脱皮時はこれまでの飼育が良かったのか,悪かったのかがハッキリする,
とても緊張する時でもあるのです。

さて,それではどれだけのゾエアが第2齢ゾエアに脱皮したのか,計数します。







飼育水槽にアクリルパイプを突っ込んで採水し,
バケツに移します。







採水した水量当たりのゾエアの数を数えて,
水槽全体の生残数を計算して求めます。









ちなみに,これが脱皮に成功した第2齢ゾエア。
第1齢よりも一回り大きくなりますが,
形は第1齢ゾエアとほとんど変わりません。








こっちは,頭胸甲(頭の部分)が脱げずに脱皮失敗。
こんなのが大量に出ると
「アンタ何やっとるんや!」
とパートさんから厳しいツッコミが入ります。



計数結果ですが・・・脱皮せずに死んでいるものがチラホラと・・・
あまりかんばしい結果とは言い難く…
脱皮前,活発に泳がずに水槽の底の方へと沈んでゆくゾエアが多かったので,
嫌な予感はしていたんです。
沈んだゾエアは,底に貯まった残餌などの汚れと絡まり,
結果的には細菌に感染して死んでしまいます。
そうならないよう,エアストーンからの通気量を強めたり,
撹拌機の回転速度を変えたりしてゾエアをなんとか浮かそうと,いろいろ手は尽くしたのですが。
ゾエアはあまり泳ぐことはなく,脱皮時にたくさん死んでしまいました。






撹拌機。
板を回転させることでゾエアを浮遊させます。




とはいえ,無事脱皮に成功して元気に泳いでいるゾエアもたくさんいます。
とりあえず水質を悪化させないように,死んだゾエアは取り除きました。

しばらくは慎重に様子見です。

 2009年1月23日 飼育開始

小浜の冬は日本海特有の全天候型気候。
先ほどまでの晴れた空からいつの間にか雨が降り出すと,
ゴーゴーとうるさいほどの暴風雨になることも。
また,暴風雪で暗い空にカミナリも当たり前・・・
冬にカミナリ? “表日本”で生まれ育った私にとって冬と言えば
抜けるような青空にカラッ風なんですが,ここでは晴れる日が少なくて,
気分まで淀んでくることもしばしば。

しかし,天気は悪くても,小浜栽培漁業センターのパートさんたちはいつもニコニコ元気です。
2月に入って,毎日数万〜数十万尾のゾエアがふ化するようになりました。
飼育にはその中でも活きの良いゾエアを選んで用いるのですが
ふ化ゾエアの質はパートさんたちがわかりやすく判定してくれます。

「今日のはエエよ!よお浮いて泳ぎが力強いし,黒いわ!
アンタ収容(収容:飼育するためにゾエアを水槽に入れること)せんのけ!?」なら評価A,
「今日のは色が薄いし,収容やめといたほうがエエで!」なら評価B,
「・・・ん〜? 沈んどるで。」なら評価Cです。

パートさんの中にはベテランもいるので,
『見る目』は3年目の私なんぞはとてもとても足元にも及びません。
このパートさんたちの評価には根拠がありまして,『よく浮いて泳ぎが力強い』というのは,
ふ化ゾエアは本来,水面に向かって泳ぐ性質があるのですが,
『沈むゾエア』というのは,本来は長いはずの棘が短かったり折れていたりして
長くは生きられないのです。
『色が黒い,薄い』というのは内臓の色を指しているのですが,
これは経験的なものですが,黒い方が力強く泳ぐと感じています。


  正常なゾエア(左)と棘の短い奇形個体(右)


親ガニからふ化したゾエアは,水槽の水面近くに浮上します。
ゾエアは光に集まる習性があるので,水槽の角を明るくし,
そこに排水パイプを設けて海水とともに流れ出るゾエアを
別の水槽に設置したネットに集めます。
これを棘を折らないよう慎重にビーカーですくいとり,
バケツ輸送で20トンの飼育水槽まで運びます。

飼育水槽に収容する時も慎重にかつ丁寧に作業して,
いざ飼育開始です。

この水槽には,皆さんからそろって
『評価A』のお墨付きを頂いたゾエア約20万尾を
収容しています。

ゾエアの動画
約6秒 (652KB)
別ウインドウで開きます。


ズワイガニの子どもはこれから約1ヶ月間の『ゾエア期』を過ごしたあと『メガロパ』になるのですが,
ゾエア期の飼育方法は,先達の長年の技術開発によって,ほぼ完成の域に達しています。
そのため,2年前に初めて飼育を担当した私でも,数万尾の単位でメガロパを生産することができました。

とは言っても,やはり失敗することは多くあります。
飼育を始めて10日前後で半分以上が死んでしまったことや,
水槽から水をあふれさせてゾエアを流すという大失態,
また飼育水温を上げてしまってゾエアをボイルしたり・・・

去年は,周りから「山本の顔色を見ればゾエアの調子がわかる」と言われていました。
今年こそ,パートさんたちのようにニコニコ顔で過ごせるように頑張ります!
 2009年1月15日 ふ化が始まりました

明けましておめでとうございます。
今年の正月は,奥さん(年末に結婚しました!)から
お年玉代わりにもらったインフルエンザで,文字通り夫婦そろっての寝正月となり,
新婚早々体温40℃でアツアツな時間を過ごすことができました。
初詣は,松の内が明けてから地元の『えびす神社』に行きました。
『えびす様(えべっさん)』というと私が育った関西では商売繁盛の神様ですが,
ここは海辺の町だけあって本来の姿である海から来た神様として信仰されています。
商売と漁業の神様ということで,「栽培繁盛!」をお願いしました・・・10円のお賽銭で。

さて,年が明け,ズワイガニのふ化が始まりました。
生まれたばかりのカニの子どもはプレゾエアと呼ばれ,大きさは約3mm。
ボーフラのような形をしています。
生まれて数十分後に最初の脱皮を行い,その後,
さらに脱皮を繰り返して姿を変えながら稚ガニへと成長します。










生まれたばかりのズワイガニ
(プレゾエア)





下の図は日本海でのズワイガニの成長の様子をまとめたものです。

              ズワイガニの一生。姿が変わるごとに呼び名も変わります


卵を抱えた雌ガニは水深200〜300mの深海に生息しています。
ふ化のピークは2月〜3月頃で,プレゾエアはすぐに水面近くまで浮上すると,
脱皮して姿を変え,今度は『第1齢ゾエア』と呼ばれます。
そして『第2齢ゾエア』,『メガロパ』へと脱皮を繰り返しながら成長し,
徐々に深海へと移動していきます。
そして,ふ化から約2ヶ月で『稚ガニ』になり,その後は深海で成長します。
メガロパになると小さなハサミができ,だいぶカニらしくなってきますが,
まだ泳ぐためのシッポが付いています。
このシッポは稚ガニになるとき,お腹側に巻き込まれて,いわゆるフンドシになります。


ズワイガニの子どもはとても弱くて,稚ガニまで育てあげるのが大変難しい生き物です。
そのため,これまで小浜栽培漁業センターでは
どの時期に,どんな飼い方をすれば一番生き残る率が高いのかを調べてきました。

また,ズワイガニは生まれてから大人になるまでに8〜10年程度かかると言われていますが,
実際のところは良くわかっていません。
種苗生産だけではなく稚ガニを飼育して生態を解明することも大事な仕事です。

それでは,次回からは実際の飼育の様子を紹介したいと思います。
 2008年11月17日 種苗生産はまず親ガニの入手から

11月に入り,ズワイガニ漁が解禁になると,石川県の漁協まで雌の親ガニを購入しに行きます。
雌ガニは種苗生産に使うカニの赤ちゃん(ゾエア)を産んでもらう大事なお母さんとなります。
この雌ガニ,海底から底曳き網といって大きな網で海底を1〜2時間曳いて捕られます。

初めてこの捕り方を聞いたとき,
網の中で引きずられてグチャグチャになったりして,雌ガニへの影響は無いのか?
心配になったものですが,漁協の方によると
「雌は強いから,弱っても冷たい海水に入れれば復活するよ。雄は弱いけどね。」
とのこと。情けないぞ,雄!
実際,雌ガニは栽培漁業センターで飼育していてもほとんど死にません。
丈夫なんですね!









購入した雌ガニを
水槽に積んで持って帰ります。
水温は1〜3℃にしています。




日本海では雌ガニは,水深200〜300m,水温0〜3℃に生息し,
餌として主に甲殻類や二枚貝,クモヒトデ等を食べて生活しています。
雌ガニの体内には『内子(うちこ)』と呼ばれる鮮やかなオレンジ色の未受精卵があります。
雌ガニは夏から秋頃に成熟して交尾後,体内で受精した卵を腹節(いわゆるフンドシ)内に産卵します。
この卵は『外子(そとこ)』と呼ばれて初産時には1年半(2回目以降には1年間)腹節内で育てられます。
外子の色は産卵直後には内子と同様にオレンジ色ですが,卵内で赤ちゃん(ゾエア)が育ってくると,
徐々に黒っぽくなっていきます。
そして2〜4月頃になると,発育が進んで真っ黒になった外子からゾエアが生まれて海中に放出されます。
ズワイガニが生息する水温は年中0〜3℃で変化しないのですが,
何を目安に毎年同じ時期に産卵やふ化するのか?不思議です。
栽培漁業センターでは,産まれたゾエアを集めて種苗生産に使うのですが,ゾエアの話は次回に。


 オレンジ色で成熟の進んでいない卵(左)と,黒くてふ化間近の卵(右)を持った雌ガニ


ここまでは雌の話でした。では雄は?というと,
購入した雌ガニの抱えている卵は外子(つまり,受精済み)なので,雄は要りません。
因みに,ズワイガニの雌は交尾をすると体内に精子を数年間保存して使うことができます。
なんと,これまでには一度の交尾で4年間も産卵した雌というのも知られています。
カニのお父さんはたまーに居るだけで充分なのでしょうね・・・寂しい話です。

私事ながら近々結婚予定なのですが,
ズワイガニを反面教師に普段から必要とされるお父さんになるよう,心がけたいと思います・・・


 ズワイガニの雄(右)と雌(左)の愛の語らい(交尾)
 甲羅の幅は,雄では15cm以上になるのですが,雌では約半分の7cm前後です。
 2008年11月11日 自己紹介

はじめまして。
小浜栽培漁業センターの山本です。
ズワイガニの種苗生産について書くことになりました。
先のお二方の日記が楽しかったので,相当にプレッシャーを感じております。

まずは自己紹介。
1978年生まれ,30歳の若手です。
大阪府出身で高校卒業後は自然に憧れ北海道へ。
そこで覚えた趣味がカメラ片手に野山をうろつき,野生動物の写真を撮って遊ぶこと。









幼いフクロウの兄弟。
毛玉のように,
ふわふわしてかわいいです。



就職して6年。
さけますセンター天塩,本所(札幌)と渡り,
2年前に小浜にやってきてズワイガニの担当になりました。
1年目は,さけやますとは全然違う生き物に戸惑いの連続でした (この時の様子はトピックスNo.109に)。
2年目は,1年目と同じように飼育してもうまくいかず,
生き物の飼育の難しさを痛感しましたが
試行錯誤した結果,なんとか稚ガニを量産できるようになりました (この時の様子はプレスリリースに)。
さて,今年度の種苗生産は年明けから始まります。
どうなることでしょうか。









抱卵したズワイガニのメスです。
入手したメスは
卵の色から成熟の度合いを判別し,
度合いに分けて飼育します。